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第二章 信者獲得
101 コンビニ
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「……なかなかに粘るんだね?」
「粘ってるわけじゃなくて、人間の記憶なんて曖昧だし、秋月さんが勘違いしてるだけかもしれないと思う」
「そうなの、記憶が曖昧なの?」
「ほら、秋月さんがプレゼントされたヌイグルミが大黒様と似てるなんて単なる偶然かも」
「……往生際が悪いな」
秋月の小声の呟きは瑞貴に届いておらず、瑞貴は『何か言った?』と質問してみたが、『何でもない』としか返ってはこない。
そして、大黒様を撫でながら更に小声で『物証もあるんだけどね』と呟いていた。
「滝川君、お散歩の途中だったんじゃないの?」
「えっ!?……まぁ、途中だったかな?」
話が突然切り替わったことで瑞貴は慌ててしまった。秋月の態度から上手く誤魔化せているのかも分からない。
――誤魔化せた?いや、諦めてくれたのか?……ただ秋月さんは勘が鋭いから要注意だ
前日、あれだけ動いてくれた瑞貴の舌だったが、秋月を前にしてしまうと嘘のように動いてくれなくなる。
「それじゃぁ、行こうか」
「……行こうかって、どこに?」
「大黒様のお散歩。……のついでに送ってくれるんでしょ?」
秋月の記憶が曖昧なままだったとしても、瑞貴への態度や話し方は仲良くなった時のようになっている。瑞貴が苦手意識を持っていた頃の秋月に戻ることもなく、常に親し気だった。
秋月には瑞貴を自分のペースに巻き込んでしまう強引さもあり逆らうことは許されない。それでも瑞貴は心地良く感じてしまっている。
そして、こんな時の大黒様は確実に秋月の側に立ち、瑞貴の願う通りには動いてくれなかった。
「あっ!あと寄りたい場所があるんだけど、いいよね?」
「一応、聞いてはくれるんだ」
「聞くよ。拒否されることはないと思ってるけど」
大黒様は秋月に抱えられたまま瑞貴の方は全く見ることがない。瑞貴は立ち上がって歩き始めている秋月について行くしかなくなっていた。
瑞貴は閻魔大王からのメールの意味を鬼に確認しておきたかったので熱田神宮を離れてしまうことは避けたかったが、今の秋月に拒否することも出来ない。
大黒様のリードは秋月が握ったまま視察活動は継続された。秋月も瑞貴を追及するようなことは話さず、学校であったことを教えてくれていたのだが、何かに気付いて驚いていた。
「大黒様ってすごいね。私がどこに行きたいのか分かってるみたい」
「そう言えば、寄りたいところがあるって?」
「うん。大黒様はそこに向かってくれてるみたいなの」
いつも視察活動の時はドンドン先に進む大黒様について行っていたので瑞貴は気にしていなかったが、確かに秋月の家とは別の方向に歩いていた。
そして、秋月の味方になってしまう大黒様であれば不思議なことではなかった。
「あれ?大黒様が知ってる場所?」
「そうだよ。大黒様と初めて会った場所なんだから。」
それからしばらく歩くと、コンビニの前に着いた。
「あぁ、このコンビニ。何か買い物でもあるの?」
「え?コンビニに用事はないんだけど……。私と大黒様が初めて会った場所って……?」
秋月は立ち止まって考え事を始めてしまった。ここで瑞貴は完全に油断してミスを犯したことに気付く。
瑞貴の中で秋月と大黒様が初めて会った場所はコンビニの前だったが、その時の記憶は書き換えられているはずだった。
――しまった……。大黒様にハメられた
大黒様は、わざとコンビニの前を通る道を選択したことに瑞貴は気付いた。その証拠に大黒様は振り返って勝ち誇ったような表情で瑞貴を見ている。
「違った、ゴメン。俺、喉が渇いてたからコンビニに寄りたかったんだ。……ちょっと飲み物買ってくる」
ここでも判断ミスをしていたことになる。
店内に入っていった瑞貴を駐車場で待たせることになるが、大黒様と一緒にいる秋月は必死に何かを思い出そうとしていた。
――あの時の場面を再現しちゃったな……
このコンビニの前で買い物をしている間、秋月が大黒様を見ていてくれたことから始まっていた。
そのことを思い出した瞬間、瑞貴の心境にも変化が生れる。
――これで秋月さんが思い出していたとしても、俺の責任じゃない。もし、問題があるなら閻魔大王が何とかするだろう
現状で一番優先して考えるべきは疫病神のことだった。
そして、『人頭杖の会』の幹部候補である向井と言う男をどうするのかになる。
「私の分もあるんだ。ありがとう。……それじゃ、あの神社で一緒に飲もうよ」
コンビニで2人分の温かい飲み物を買って戻って来た瑞貴に秋月は声をかけて大黒様と歩き始めた。
「あの神社に何かあるの?」
「うん。滝川君に渡さなきゃいけない物を預かってたんだ。……あの神社で渡した方がいいと思ったの」
「預かった?……誰から?」
「着いてから教える」
わざわざ神社で渡さなければいけない物があるのか瑞貴には分からない。それも誰かから秋月が預かっていた物であり、瑞貴に直接届くことはなかった。
「……また泣いちゃうかもしれないね?」
秋月は瑞貴には聞こえないように大黒様だけに語りかけると、信号で止まった時に大黒様はチラッと瑞貴を見上げていた。
「粘ってるわけじゃなくて、人間の記憶なんて曖昧だし、秋月さんが勘違いしてるだけかもしれないと思う」
「そうなの、記憶が曖昧なの?」
「ほら、秋月さんがプレゼントされたヌイグルミが大黒様と似てるなんて単なる偶然かも」
「……往生際が悪いな」
秋月の小声の呟きは瑞貴に届いておらず、瑞貴は『何か言った?』と質問してみたが、『何でもない』としか返ってはこない。
そして、大黒様を撫でながら更に小声で『物証もあるんだけどね』と呟いていた。
「滝川君、お散歩の途中だったんじゃないの?」
「えっ!?……まぁ、途中だったかな?」
話が突然切り替わったことで瑞貴は慌ててしまった。秋月の態度から上手く誤魔化せているのかも分からない。
――誤魔化せた?いや、諦めてくれたのか?……ただ秋月さんは勘が鋭いから要注意だ
前日、あれだけ動いてくれた瑞貴の舌だったが、秋月を前にしてしまうと嘘のように動いてくれなくなる。
「それじゃぁ、行こうか」
「……行こうかって、どこに?」
「大黒様のお散歩。……のついでに送ってくれるんでしょ?」
秋月の記憶が曖昧なままだったとしても、瑞貴への態度や話し方は仲良くなった時のようになっている。瑞貴が苦手意識を持っていた頃の秋月に戻ることもなく、常に親し気だった。
秋月には瑞貴を自分のペースに巻き込んでしまう強引さもあり逆らうことは許されない。それでも瑞貴は心地良く感じてしまっている。
そして、こんな時の大黒様は確実に秋月の側に立ち、瑞貴の願う通りには動いてくれなかった。
「あっ!あと寄りたい場所があるんだけど、いいよね?」
「一応、聞いてはくれるんだ」
「聞くよ。拒否されることはないと思ってるけど」
大黒様は秋月に抱えられたまま瑞貴の方は全く見ることがない。瑞貴は立ち上がって歩き始めている秋月について行くしかなくなっていた。
瑞貴は閻魔大王からのメールの意味を鬼に確認しておきたかったので熱田神宮を離れてしまうことは避けたかったが、今の秋月に拒否することも出来ない。
大黒様のリードは秋月が握ったまま視察活動は継続された。秋月も瑞貴を追及するようなことは話さず、学校であったことを教えてくれていたのだが、何かに気付いて驚いていた。
「大黒様ってすごいね。私がどこに行きたいのか分かってるみたい」
「そう言えば、寄りたいところがあるって?」
「うん。大黒様はそこに向かってくれてるみたいなの」
いつも視察活動の時はドンドン先に進む大黒様について行っていたので瑞貴は気にしていなかったが、確かに秋月の家とは別の方向に歩いていた。
そして、秋月の味方になってしまう大黒様であれば不思議なことではなかった。
「あれ?大黒様が知ってる場所?」
「そうだよ。大黒様と初めて会った場所なんだから。」
それからしばらく歩くと、コンビニの前に着いた。
「あぁ、このコンビニ。何か買い物でもあるの?」
「え?コンビニに用事はないんだけど……。私と大黒様が初めて会った場所って……?」
秋月は立ち止まって考え事を始めてしまった。ここで瑞貴は完全に油断してミスを犯したことに気付く。
瑞貴の中で秋月と大黒様が初めて会った場所はコンビニの前だったが、その時の記憶は書き換えられているはずだった。
――しまった……。大黒様にハメられた
大黒様は、わざとコンビニの前を通る道を選択したことに瑞貴は気付いた。その証拠に大黒様は振り返って勝ち誇ったような表情で瑞貴を見ている。
「違った、ゴメン。俺、喉が渇いてたからコンビニに寄りたかったんだ。……ちょっと飲み物買ってくる」
ここでも判断ミスをしていたことになる。
店内に入っていった瑞貴を駐車場で待たせることになるが、大黒様と一緒にいる秋月は必死に何かを思い出そうとしていた。
――あの時の場面を再現しちゃったな……
このコンビニの前で買い物をしている間、秋月が大黒様を見ていてくれたことから始まっていた。
そのことを思い出した瞬間、瑞貴の心境にも変化が生れる。
――これで秋月さんが思い出していたとしても、俺の責任じゃない。もし、問題があるなら閻魔大王が何とかするだろう
現状で一番優先して考えるべきは疫病神のことだった。
そして、『人頭杖の会』の幹部候補である向井と言う男をどうするのかになる。
「私の分もあるんだ。ありがとう。……それじゃ、あの神社で一緒に飲もうよ」
コンビニで2人分の温かい飲み物を買って戻って来た瑞貴に秋月は声をかけて大黒様と歩き始めた。
「あの神社に何かあるの?」
「うん。滝川君に渡さなきゃいけない物を預かってたんだ。……あの神社で渡した方がいいと思ったの」
「預かった?……誰から?」
「着いてから教える」
わざわざ神社で渡さなければいけない物があるのか瑞貴には分からない。それも誰かから秋月が預かっていた物であり、瑞貴に直接届くことはなかった。
「……また泣いちゃうかもしれないね?」
秋月は瑞貴には聞こえないように大黒様だけに語りかけると、信号で止まった時に大黒様はチラッと瑞貴を見上げていた。
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