神媒師 《第一章・完結》

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第二章 信者獲得

084 普通

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 帰宅は夜遅くなったが『日帰りで済んだんだな?』とだけ父から言われて終わってしまう。瑞貴が部屋に戻ると、一足先に帰宅していた大黒様が丸くなって眠っていた。


 日曜日の朝、視察活動は少し短縮して実施される。昼前には姫和のところへ行くつもりでいたので、その時にも歩くことになる。
 前日に鬼と大黒様の歩いた距離も不明なので疲労が残っていることも考慮していた。

――時間が取れたら、鬼のところへもお礼に行かないと……

 大黒様を連れてきた鬼が何か話をしていったのかもしれないが、両親が瑞貴に質問したりすることもなかった。

――知らない間に周囲に心配させてみたいだから、もっとしっかりしないとダメだな

 そんなことを考えていても瑞貴に以前のような気負いはなくなっていた。
 周りから助けられることも含めて瑞貴の力であると認識することができているし、八雲からの言葉も刻んでいる。

――たぶん八雲さんが言っていたことは、そういうことなんだ。……一人であれこれ背負うことなんて出来なんだから、他の人の力も借りればいい。それで何か変えられるのなら、許されることなんだ

 一日動き回った疲労感は残っていたが、気持ち的には軽くなっているように感じていた。気持ちが軽くなっていると意外に動けてしまうもので、あれもこれもと済ませてしまいたくなっていた。


「……大黒様、疲れているようでしたら休んでいてもいいですよ。どうしますか?」

 気持ちが軽くなったのは瑞貴だけの問題であり、大黒様には関係なかったこと。それでも、大黒様は一緒に行く意思を示していた。

 視察を終えてから、念のために買って帰ってきたお土産を持って姫和たちのマンションに向かいます。
 インターホンを鳴らすと采姫が待ち構えていたように応答してくれ、部屋の前に立つとドアが開いた。瑞貴は事前に連絡を入れていなかったが、行動はお見通しのようである。

「こんにちは。……えっと、お邪魔します」
「どうぞ、お待ちしておりました。……昨日はお疲れさまでしたね」
「あっ、これ、一応お土産です。……あと、これもお返ししておきます。ありがとうございました」

 瑞貴は宿泊代として預かっていた封筒も采姫に返した。
 
「はい。……ただ、また瑞貴さんにお渡しすことになるとは思うのですが、こちらで預かっておきますね」
「えっ?それって、どういうことですか?」
「フフッ、今は気にしないことが一番です」

 采姫は含みのある言い方をして封筒を受け取った。
 これから先のことも分かっている様子であり、瑞貴の心の負荷をなくすためだけに神様が瑞貴の前に現れたとは考えられない。

――そうだよな。……俺にやらせたいことがあるから、事前に八雲さんと会わせたりもしたんだ

 軽くなった心が少しだけ重くなる。
 そして、部屋に入ると炬燵で姫和がミカンを食べていた。

――とても神様には見えない姿だ。……まぁ、大黒様の方が神様には見えないから仕方ないか

 それでも神様であれば容易に見抜かれてしまうこともあるらしく、瑞貴が瑠々の死に囚われていることは気付かれてしまっていた。

「あの、ありがとうございました。……八雲さんに会わせてくれたのは、俺のためだったんですよね?」
「其方の目の前におるのは誰じゃ?」
「えっ?……天照大御神様?」
「そうじゃ。闇を照らすことを出来る神であるぞ。其方の闇に気付かぬわけがない。……じゃが、其方自身で闇を振り払う力を持たねば、これから先も同じことを繰り返してしまう」
「それで、八雲さんと話をする機会を与えてくださったんですか?」
「うむ。まだ完全ではないが、光を見失うことはなさそうじゃな」
「はい」
「あの子供の魂は其方の手で解放されたのじゃ。忘れないでいてあげるだけで良い」
「はい。……ありがとうございます」

 やはり全てを知っていたらしい。
 炬燵でミカンを食べながらの話でなければ、もっと感動できていたのかもしれない。すごく良い話であっても雰囲気作りは重要だと思い知る。

「あれ?……今日は、あずささん不在なんですか?」
「ええ、ご実家に戻っております」

 熱いお茶を持ってきてくれた采姫も加わり、炬燵で一緒にミカンを食べ始めていた。瑞貴も目の前に置かれたミカンを食べている。

――今、この部屋で人間は俺だけなんだ……

 女性だけの部屋ということでの緊張感はなかったが、神様と同じ炬燵でミカンを食べている状況に意識が向かう。

――あずささんは知らないだけで神様と一緒に暮らしてるんだよな……。それって、すごいことかも

 姫和はミカンを食べ終えて、お茶を一口飲んだ。

「……では、瑞貴の心が落ち着いたようじゃし、神媒師としての務めを果たしてもらうとするか!」
「あっ……、やっぱり」
「覚悟はしてきたのであろう?」

 覚悟はしてきているが、やはり緊張感は高まってしまう。それが天照大御神からの依頼ともなれば尚更だった。
 姫和は采姫を見て、コクリと頷く。細かな説明は采姫から話があるようだ。

「瑞貴さんにお願いしたいことは、あずさのご家族に起こっている出来事を振り払ってもらいたいのです」
「えっ!?あずささんの家族ですか?」

 予想外の依頼だった。個人的に起こっていることを神様が気にしていることになる。

「重なって起こっている不幸を解消して、あずさが心穏やかに過ごせるようにしてほしいんです」
「今、あずささんが実家に戻ってるのって、そのことが関係してるんですか?」
「ええ、お母様の体調不良が続いているので、様子を見るために帰っております」

 先週、麻雀をしていたり料理を振舞ってくれたり、楽しそうに笑っている顔をしていたが辛い状況だったのかもしれない。
 あずさのために出来ることがあるのなら手助けしてあげたい気持ちはあるが、瑞貴は腑に落ちないこともある。

「……あのぅ、あずささんは普通の人間で間違いないですよね?」
「ええ、もちろんです」
「ちなみに聞いておきたいんですが、采姫さんから見て俺は普通の人間に分類されるんですか?」
「いいえ、瑞貴さんは普通ではありません。一応、八雲徹も普通ではない人間になりますね」

 八雲徹は一応となっているが、瑞貴は普通ではないと断言されてしまう。八雲も瑞貴のことを特別視している節があったが、神媒師に特別な力はなかったはず。

「あずささんの家族に不幸が起こることが分かっていて、一緒に暮らし始めたんですか?」
「一緒に暮らし始めたのは、あずさの負担を減らすためです。お父様の勤め先が倒産してしまったので、空いている部屋をつかってもらうことにしました」
「……家賃がかからないようにするためですか?」
「ええ。それもありますが、一人になっている時間は心にかかる負担も大きいです。誰かが傍にいることが大切だと思いました」

 誰かが傍にいると言いながら、姫和は部屋に籠ってしまっていたことになる。

「お父さんやお母さんが次々に……」
「それだけではないこともありますが、細かくは瑞貴さん自身で確認してください」
「……そうですか。……でも、理解できたとしても、納得できる話ではないですよね?」
「当然です。ただ、ある程度は瑞貴さんを納得させられる結末はあると思います」

 色々と微妙な言い回しが気になってしまうが、瑞貴に断る道は用意されていない。
 姫和と采姫は、瑞貴が納得しないことも分かり切っている。それでも、あずさの家族に関わることを任せようとしているのであれば従うしかなかった。
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