神媒師 《第一章・完結》

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第二章 信者獲得

077 機嫌

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「霊媒師……、ですか?」
「何度も同じことを言わせるでない、霊媒師じゃ」
「特殊ではあるって、何なんですか?」
「そのあたりのことは本人と会えば分かる」
「はぁ……、分かりました」
「金曜日の学校帰り、ここへ寄るのじゃぞ。采姫に必要な物を揃えさせてておく」

 天照大御神である姫和を部屋から出せば一区切りかと思っていたが、瑞貴の当ては外れていたらしい。冷静に考えれば瑞貴の思惑通り簡単にことが運ぶはずもないが、そこまでのことを考える余裕はなかった。

――天照大御神が、わざわざ会いに行けと言う霊媒師って一体どんな人なんだ?……ちょっと特殊って言うけど、普通は霊媒師ってだけで特殊な人になるんだけど

 姫和の表情は『余計なことを考えるな!』と瑞貴に語っているようだった。これ以上、余計なことを考えて怒られることは避けておきたい。
 そこで黙ってしまった瑞貴の代わりに鬼が話し始めた。

「天照大御神。……瑞貴殿が、その男と話しをする時に私も立ち会うことをお許しいただきたい」
「ほぅ、鬼も興味があるのか?」
「ええ、是非とも一度会ってみたかった人物です。……傍らで話を聞くだけで、何もしません」
「……好きにせい」
「ありがとうございます。……では瑞貴殿、段取りが決まりましたら教えてください」

 勝手に話は進んでいるが、鬼も名前だけは知っている程度の人物らしい。鬼と霊媒師に関連性は見つけることはできない。
 ただ、それは神媒師と鬼の関連性が見つけられないことと同じかもしれない。瑞貴が知らなかっただけで色々な繋がりがあると思うしかなかった。

「鬼は直接話をしないんですか?」
「ええ、私は聞いているだけで結構です。瑞貴殿とその男がどんな話をするのかを知りたいだけです。……それ以上の思惑はありません」

 鬼が自分の興味だけで行動することがあるのかは疑問だった。閻魔大王の使いとしての務めを果たしているだけだと思っていたが今回は違っている。

 流されるまま瑞貴が東京で八雲徹と言う男と会うことが決まったところで、あずさがキッチンから戻ってきた。

「今日はパスタですけど、お二人も食べていきますよね?」
「ええ、ありがとうございます。二日続けてになってしまい申し訳ありませんが、ご馳走になります」

 先ほどまでの鬼とは気配が違っていた。あずさに対して柔らかな対応をする姿は瑞貴には見習うべき理想的な大人に見えている。

――八雲徹。……鬼も会ってみたい人物。……俺とその人の話を聞きたいだけって言ってたよな。俺は、その人と話をするだけでいいのか?

 ただ話をするためだけに東京まで行くことになるとは瑞貴にも予想外の展開だった。

「さぁ、せっかくの料理です。考え事は止めて、美味しくいただきましょう」

 瑞貴の思考は、鬼の言葉で遮られることになった。

――あれこれ考えるだけ無駄ってことか……

 その日も食事を済ませるとお開きとなった。瑞貴が持っていった麻雀一式は姫和が管理することになるので、これからも呼び出されることがあるかもしれない。


※※※※※※※※※※


「おい!先週、お前が綺麗な女の人と一緒に帰って行ったってきいたんだけど、誰なんだ?」

 神媒師になってからは学校が瑞貴にとって平和な空間になりつつあるが、朝から清水幸多によってて平和は崩されてしまった。

「……まずは、『おはよう』からだろ?……あの人は、単なる知り合いだよ。楽しませてあげられるような話は何もない」
「知り合いって……。年上だろ?どんな関係で知り合ったんだ?」
「去年、俺の家ではやらなきゃならない務めがあるって話をしたの覚えてるか?その関係者」
「えっ!?16歳になったらってヤツか?……憂鬱だって言ってたのは嘘だったのか?年上の綺麗な女性と知り合えるなんて楽しそうじゃないか。何をやってたんだ?」
「ここ最近、ずっと曇ってばっかりだっただろ?でも、昨日から晴れになってる」
「……突然、何の話だ?」
「俺は、晴れた空を取り戻すために頑張ってたんだよ」
「はぁ!?天気の話で誤魔化すなよ。年上の女の人とのこと、教えろよ」

 悪い奴ではないのだが、女性関係の話になると必死さが出ていた。
 だが、幸多以外の男子も聞き耳を立てている気配を瑞貴は感じているので、校門近くで待っていた采姫のことが噂になっていたことも分かる。

「……さっき言っただろ、楽しい話は全くない。嘘じゃないよ」
「俺には隠し事をするなよ!本当だな?」
「あぁ、神に誓って嘘はない」

 瑞貴が断言すると幸多はつまらなそうな顔を見せていた。自分のこと以外でも盛り上がれる性格は楽しいかもしれない。そして、『何も楽しいことはない』と断言してしまう会話を隣りの席で秋月が聞いていたことを意識してしまう。

――早川が来て、秋月と土曜日の話でも始めたら嫌だな

 本屋で別れた後の話は出来れば聞きたくなかった。
 幸いにも早川は来ていなかったので、瑞貴はこのまま時間が過ぎていくことを望んでいた。

――でも、アイツなら『土曜日は楽しかったね?』とか言って、秋月と話しに来ると思ったんだけど……、来ないな?

 幸多の話によれば、早川は瑞貴と付き合い始めたと勘違いして焦っていたはず。その瑞貴に対して秋月と仲良くなったことをアピールする機会を逃すとは考え難いことだった。

 気にしないでいようと努力することは、気にしていることと同じになってしまう。何となく隣りの席を見た瑞貴は秋月と目が合ってしまった。

「……おはよう。どうしたの?」

 声をかけてくれたのは秋月からだった。かなり機嫌が良さそうな笑顔を瑞貴に向けてくれている。

「あっ、おはよう。……ゴメン、なんでもない」
「フフッ、どうして謝るの?」

 瑞貴は何も言えなくなってしまった。瑞貴と過ごした時間の記憶がないはずの秋月が、こんな態度で接してくれたことが意外だった。

――秋月さんが俺に笑いかけてくれるなんて……。良いことでもあったのかな?

 秋月の機嫌が良い理由を瑞貴は考えたくなかった。その理由が本屋で別れた後のことに繋がってしまえば無駄に落ち込むだけになる。
 だが、瑞貴の予想に反して、その日は早川がやって来ることはなかった。


 別の日も早川を学校内で見かけることはあっても、瑞貴のクラスまで押しかけてくることはない。

「……川君。……滝川君?」
「んっ?……えっ!?」

 隣りの席から呼びかけられていたが、最初は気が付かなかった。

「あっ、ゴメン。……何かあった?」
「うん、今の授業、ノート取ってたかな?」
「ま、まぁ、一応、取って入るよ」
「良かった。写させてもらってもいい?」
「え?いいけど……。俺のノートって、メモ書きみたいにしか取ってないけど大丈夫?」
「大丈夫。……その方が助かるかも」
「……助かる?」
「えっ、あっ、こっちの話だから気にしないで。」

 瑞貴が差し出したノートを受け取った秋月はスマホを取り出して写真を撮った。この場で書き写すのではなくスマホでデータ化した方が楽ではあるが、書き写すにしても大した量はない。
 何枚か撮ってから瑞貴にノートを戻した。

「ありがとう。助かりました」
「……どういたしまして」

 瑞貴は突然の出来事に戸惑いを隠せないでいた。授業中に睡眠を取ってしまう瑞貴と違い、秋月はいつも背筋を伸ばして授業を受けているタイプである。

 こんな調子で週末までは采姫からの連絡もなく無事に過ぎていった。
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