神媒師 《第一章・完結》

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第二章 信者獲得

069 遊び

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 天岩屋戸の神話では暴れ者の須佐之男命すさのおのみことのいたずらに怒った天照大御神が天岩屋戸に隠れてしまったことから始まる。
 太陽の神様が洞窟に隠れてしまったことで世界も暗闇に覆われてしまい作物も育たなくなり、病気も蔓延してしまう状況に陥ってしまう。
 それを解決したのは天鈿女命あめのうずめのみことだった。天岩屋戸の前で楽しそうに騒いだことで『世界が暗闇になって困っているはずなのに、どうして楽しそうにしてるの?』と天照大御神は気になってしまい顔を出す。その後は、神々の計略により天照大御神は天岩屋戸の外に出されたことで世界に光が戻った。

 そんな神話の一つではあったが、瑞貴がこの話を聞いた時の正直な感想は『困った神様だな……』である。

――周りに迷惑をかけてると分かっていて洞窟に籠っちゃったんだから少し厄介だよな。……神媒師になって、お世話するのは避けたかったかも

 すぐには解決策を見つけることは難しかったので改めて連絡をすることになった。瑞貴の中には我儘の相手をさせられる感覚がある。

「……では、私の連絡先を教えておきますので、いつでもお気軽に連絡くださいね」

 ここでも初めての経験で、瑞貴から連絡する手段を得た神様に采姫はなってくれた。それでも、当然のようにスマホを使いこなしている市寸島比売命いちきしまひめには違和感を覚えてしまう。

「あっ、俺の連絡先は…………。教える必要なんてないんですよね?」

 諦めたように語る瑞貴を見て采姫はニッコリと笑いかけた。

「ここはペットも一緒に住めるマンションですから、お連れいただいても大丈夫ですから安心してください」
「……はい。次来るときは一緒だと思います」

 瑞貴が訪問している間、天照大御神がゲームから離れている気配は全く無かった。10日間も不眠不休で続けているにもかかわらず、楽しんでいられるのはすごいことだと思うが、迷惑であることに変わりはない。

――ゲームよりも興味を引くことじゃないと、手を止めさせることも出来ないんじゃないのか?

 ゲームに時間を割くことをしてこなかった瑞貴には難題だった。かなり暇になってしまった時に、ほんの息抜き程度にしかゲームをしていなかった上に、大黒様が来てからは視察の同行に忙しくなってしまっている。

――あまり騒がしくしても隣りや下の階の人にも迷惑になっちゃうし……。天照大御神だって、過去のことで学習はしてるだろうし

 本格的に悩むだけの時間もないまま、瑞貴は帰宅する。采姫たちのマンションまで近いことを喜ぶべきなのか悲しむべきなのか微妙なところだった。

 大黒様との視察に出掛けた後も考えを巡らせてみたが結論は出ない。

「程よく賑やかでオンラインゲームにはまっている人にも興味を持ってもらえそうで、俺でも出来ること……。何かいい案はないかな?」

 結局、夕食の時に両親にも力を借りることになってしまった。

「突然どうしたんだ?……もしかして、またか?」
「もしかしての、また」

 かなりハイペースにも感じてしまうが、年末年始だけでもゆっくりさせてくれた配慮はあるのかもしれない。

「今度は、どの神様が来てるんだ?」
「天照大御神と市寸島比売命」
「……それは大物だな」
「やっぱり?」
「まぁ、ことかもしれないがペースが早いな」

 父は諦めたような顔で瑞貴を見た。父の諦め顔の意味を理解出来ない瑞貴は話を続けることにしたが、ネトゲ廃人になっている天照大御神についての話は気が重くなる。
 だが、気を取り直して両親からもアイデアを出してもらえるように現状を簡単に説明した。

「……それで最近、天気が悪かったの?……冬に曇り空ばかりだと洗濯物が全然乾かないから困っちゃう。早く何とかしてね」

 このままの状態が続けば洗濯物が乾かないどころの問題では済まない。災害級の深刻な話になる前に解決することが重要だった。
 だが、些細なことに感じる部分でも現時点で生活に悪影響を与えている事には変わりはない。

「大物続きだし、天照大御神が神話の再現までしてるとは思わなかった」
「ゲームをやり続けて10日も出てこないなんて、ちょっと迷惑な話だよ」
「まぁ、そうだな。……でも、そろそろ飽きて自分から出てくる可能性もあるんじゃないのか?」
「俺も同じこと考えて聞いてみたんだけど、期待はかなり薄いって返事だった……。時間感覚が人間とは違うから『まだ10日間』なんだって言われてる」

 秋月父からも同じような話を聞いていたが神様にとっての10日間は瞬く間でしかないらしい。采姫から天照大御神が飽きるまで待つことの危険性は伝えられていた。

「今いる部屋から出せばいいのか?」
「とりあえずは大丈夫みたい。今の部屋は内側から封印されてるから外界と断絶されてるんだって」
「なるほどな。……マンションの外まで出なくてもいいのか、それなら」
「えっ!?何か方法があるの?」

 父には何かアイデアがありそうだった。今の瑞貴は可能性が僅かでも様々な方法を知りたくなる。

「……程よく賑やかになって、部屋の外に出たくなる。あるにはあるんだが、その遊びは別の危険も生み出すかもしれないから、あまりお薦めはできないんだ」
「えっ!?あるの?……どんな遊び?」
「父さんも若い頃にハマってしまったことがある」
「なんだよ、もったいぶって。……別の危険を生み出すかもしれない遊びって、何なんの?」
「……麻雀だ」

 16歳の瑞貴が導き出すには縁遠い遊びだった。ジャラジャラとうるさくなるイメージはあったが本当に盛り上がるのか心配になった。

「麻雀?……天照大御神が興味を示すくらいに盛り上がるのかな?」
「まぁ、瑞貴には分からないかもしれないが、あれは魔力を持った遊びだ。たぶん、天照大御神も興味を示すと思うが、ハマり過ぎると危険になる」
「……どうして?」
「どうしてって……、四人必要な遊びなんだぞ。天照大御神が麻雀にハマって人間が巻き込まれることになったら体力なんて続かなくなるんだぞ」
「あっ」

 巻き込まれる人間の筆頭は瑞貴だった。もし、瑞貴が巻き込まれてしまえば犠牲にする物が多くなる。
 それでも、魔力を持った遊びとまで言われた麻雀には希望が持てるのかもしれず、諦めるにはもったいない。

「……でも、天照大御神を部屋から出すために麻雀をするにしても人数が足りないか」

 瑞貴がルールを覚えれば最低限いける気がした。采姫も知らないはずなので覚えてもらわなければならないが神様であればルールを覚える程度は問題ないと考えている。
 あとは発案者の父を加えて残り一名だった。

「ちなみに、父さんたち来週から出張の予定だから、父さんは参加できないぞ」
「はっ?……初耳なんだけど、また行くの?」
「あぁ、急遽決まったことなんだ、スマン。また2週間ほどは任せることになるから、頼む」

 今回、大黒様の食事作りは練習をしてあるので心配はなかったが麻雀の参加者という別の問題が生じてしまう。

「まぁ、仕事なんだからしょうがないけど、困ったな……。あと二人を探さないとダメなんだ」
「四人に拘る必要はないかもしれないが、やっぱり人数を揃えた方が興味を持たせやすいかもしれない」
「……やっぱり、そうだよね」

 人数を揃える努力をした上で不足してしまった場合はやむを得ないが、最初から諦めることはしたくなかった。
 だが、神媒師としての務めの一環である以上、瑞貴が協力を求められる者は限られてしまっている。

「鬼は打てるぞ」

 父が困り顔の瑞貴に向けてポツリと言った。
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