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第一章 初めての務め
061 選択
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瑞貴は受け取った『閻魔刀』を鞘に納めようとしていたのだが、信長と秀吉から再びの『待った』がかかる。
そして、信長と秀吉は胸のあたりから伸びた青白い紐を指さしていた。
「……それは、何ですか?」
「儂らを、この世に繋ぎ止めている紐だ」
瑞貴は結界を張る時に『閻魔代行』を唱えていたし、信長と秀吉は太刀を使う時に刀身を見てしまっている。
刀身を見た時間が短かったとしても『浄玻璃鏡』は二人にも生きていた時の罪を見せてしまっていたらしい。この時点で二人が天国に行けるのか地獄に送られるのか瑞貴には分からなかったし、聞くこともしたくなかった。
「……『縁の紐』」
鬼の説明によれば、この紐を切れば成仏をさせることが出来るらしい。その紐が信長と秀吉から出てしまっていた。
「そのようだな。……覚悟は出来ておるよ」
信長が瑞貴に優しく声をかけてくれる。この二人は自分たちがこうなる事も覚悟のうえで臨んでいた。
昨夜、瑞貴から『閻魔刀』のことを聞いてから画策していたのかもしれない。熱田神宮で別れた後、全てを理解の上で瑞貴の後を追いかけて来ていたのだろう。
「これを斬るのは、其方の役目だ。……よろしく頼む」
「……あの子たちを最期まで見届けるって……」
「それは、もう無理じゃな。……其方がおるので心配はしておらぬ」
「でも、こんな最期って」
「これは儂らの願ったことだ。……悔いなく逝ける」
これ以上、瑞貴が言葉を口にすれば覚悟を持って此処にいる二人に失礼だと思った。信長と秀吉は、この世でやるべきことを全て終えたのだ。
瑠々の件を解決出来ずに成仏させてしまっていれば、二人の心残りを消し去ることにはならなかった。
二人の表情は本当に清々しく遣り遂げた男の姿だった。これから向かう世界に対する不安は微塵も感じられない。
瑞貴は少しだけ空を見上げて天国だろう景色を見た。そして、呼吸を整えてから二人と向き合う。
「『織田信長』と『豊臣秀吉』が、子どもたちのために行動することを最期に選んだなんて誰も信じてくれません」
瑞貴は涙を流していた。突然訪れてしまった惜別の涙だった。
「其方だけが覚えてくれていれば良い。……儂らの年表とやらに加えておいてくれ」
「……試験には全く使えない知識ですね」
「なんじゃ、其方が独占できる知識じゃぞ。もっと得意がれば良い」
「……そうですね。……俺の一番好きな偉業として覚えておきます」
「もっと色々なことをしたはずじゃが、それで十分じゃよ」
信長と秀吉は優しく微笑みながら頷いてくれていた。瑞貴も笑顔で二人に応えて『縁の紐』を斬る。
最期の瞬間まで瑞貴は、この二人のペースで動かされてしまったことになった。
――俺が、この二人に勝てるわけなかったってことだよな
斬られた『縁の紐』は朽ちるようにして消え去っていく。そして、『縁の紐』が繋がっていた胸のあたりから二人の身体が光の粒になっていった。
信長と秀吉の身体は徐々に光に変わっていき、やがて完全に消え去ってしまった。消え去る間際に、二人からの『ありがとう』という言葉だけが瑞貴に聞こえてきた。
――さようなら。……いつか、また
瑞貴は涙を拭いながら心の中で呟いた。いつもでも情けない男のままで二人を見送りたくはなかった。
そして、瑞貴は『閻魔刀』を鞘に納める。
納めた瞬間に結界は消えて『境界の紐』は鞘に巻かれた状態に戻っており、周囲の景色はアパートの駐車場でしかなくなっている。
結界があった場所には意味不明な言葉を発して怯え続ける男女の姿が残されただけになる。
何かに謝り続けて『ごめんなさい』を何度も何度も繰り返して、背後に怯えて突然振り返ったりするので異様に見える。近くに立っている瑞貴のことさえも既に気にしていない。
――瑠々ちゃんが見ていた地獄は、もっと悲しい世界だったんです
ただ、その姿が証明しているのは、親が違っていれば瑠々は死なずに済んだ事実になる。
この二人が裁かれたのであれば瑠々の死の原因が確定したことでもあり、寂しい結末となってしまった。
――やっぱり、瑠々ちゃんは貴方たちにとって『邪魔な子』ではなかったんです
ここでやるべき瑞貴の目的は遂げた。ずっと傍で見守っていてくれた大黒様に声をかけて、この場を後にすることにした。
「……父さんは人間の行動に正解はないって言ってたんです。だから、俺も自分の行動が正しかったとは思っていません。……でも、後悔もしていません。…………それで良かったんですよね?大黒様」
大黒様は何も答えてはくれない。
「……まだ『閻魔刀』を二人に貸してしまったことで『罰』を受ける可能性はあるけど、今は普通に歩いて帰れることに感謝しています」
この言葉には大黒様も反応して、ピタリと足を止めて振り返って瑞貴の顔を見ていた。元気づけてくれているようにも見えるし、少し悲し気にも見える微妙な表情を大黒様はしていた。
「大丈夫です。……覚悟はしてます」
瑞貴の言葉を聞いて再び大黒様は歩き始める。
熱田神宮で待っているであろう子どもたちのところへ『お爺ちゃんたち』が帰らないことを報告に行かなければならない。
少し歩いては休み、その繰り返しになってしまっていた。
連日、結界を張っていたことで瑞貴は命を削っていた。体力的にギリギリのところにきていたし、信長と秀吉を送ったことによる精神的な消耗もある。
――あの二人は最期までカッコ良く逝ったんだから、俺も頑張らないと……
※※※※※※※※※※
瑞貴たちが熱田神宮に辿り着くころには日も傾きかけていた。
どんな言葉で説明すればいいか悩みながら歩いていると、太郎と佐久間愛子の年長者が瑞貴に近付いてくる。
「……お爺ちゃんたちから、聞いてるよ。……もう、会えないんでしょ?」
愛子が涙を堪えながら瑞貴に聞いてきた。二人は子どもたちに戻らないことを伝えていたらしい。
「……お爺ちゃんたちは、みんなのことが大好きなんだ。……二度と会えないことなんてない。また、いつか必ず会えるよ」
それを聞いた二人は泣き笑いの顔を見せて、『うん』と元気に返事をしてくれた。
瑞貴も、みんなと遊んであげたかったのだが体力的に不可能なことを悟り、
「……また来るね」
とだけ言い残して、その場を離れていた。
やっとの思いで家まで辿り着くと、家の前には鬼が待っている。その表情は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える複雑なモノだった。
鬼も家に招き入れて、瑞貴はソファーに身体を預けた。
「……かなりお疲れのご様子ですね?」
鬼もソファーに座ってから、瑞貴に声をかけた。
「……そうですね。お茶も出せずにスイマセン」
「どうぞ、お構いなく。……用件だけ手短に済ませたら、おいとまします」
「……怒ってますか?」
「怒ってなどいませんよ。あれも貴方の選択の一つです。……ただ、神の力の一部である『浄玻璃鏡の太刀』を貸し与えたことへの代償は必要になります」
「『代償』ではなくて『罰』ですよね?」
「その言葉を聞く限り、ご覚悟の上での選択と考えて良いでしょうか?」
「はい」
神媒師として、やってはならないこと。神の力を神媒師以外が使うことになれば罰が与えられることは必然だった。
それでも、あの場では信長と秀吉にはカッコ良くいてほしいと瑞貴は心から願った。
「貴方への『罰』が何かは、いずれお分かりいただけると思います」
「いずれ分かるって……。教えてはもらえないんですか?」
「貴方自身が気付いていくことも『罰』に含まれるのです」
「……俺が気付くことも『罰』?」
気付いていくことも罰になることの意味が理解出来ない。瑞貴の身の回りのことや自分の身体が徐々に変化していくのであれば、それは恐ろしいことだった。
「……閻魔様は怒ってましたか?」
「いえ……。ただ、『すまなかった』とだけ伝言を受けております」
「えっ?『すまなかった』って……、閻魔様がですか?」
そんな言葉を使う閻魔大王など、瑞貴のイメージとは違い過ぎて想像も出来なかった。今回の事も烈火の如く怒っているものだと瑞貴は思っていた。
「貴方に辛い選択ばかりを迫った事への謝罪でしょうか。……それでも、この件で『罰』を与えることとは別問題なのです。ご理解ください」
「規律は守らないと……。特に、閻魔様が規律を破ることなんて出来るわけないですから」
「ご理解いただけて有難いです。……ですが、あの子の母親たちには裁かれるだけの罪があった。『浄玻璃鏡の太刀』を貴方自身が使っていれば、何も問題はなかったのです。……あの二人に貸したことで与えられる『罰』に貴方は納得出来るのですか?」
確かに山咲美登里たちに罰を与えることになったのであれば、裁きとして『閻魔刀』を使ったことが失敗ではない。
失敗した時のみ代償が必要になるのであれば、山咲美登里を斬ったことでの代償として『罰』を受けることはなかった。瑞貴自身が『閻魔刀』を使っていれば、無傷でこの件を成し遂げられたことになる。
鬼としては、信長と秀吉に『閻魔刀』を貸した瑞貴の行為は余計な事であり、その余計な事が原因で瑞貴は閻魔様からの『罰』を受けると考えていた。
「あの二人に『浄玻璃鏡の太刀』を貸さなければ良かったってことですか?」
「ええ、あの場で貸さなければ何事もなく片付いていた」
「……理屈じゃないんですよ。あの場での俺の行動は間違ってなかったと信じてます。それに、覚悟もしてましたから平気です」
「無粋な質問をしました。お忘れください」
笑顔で答えた瑞貴の顔を見て、鬼は『瑞貴が全て承知の上で選択した』ことを悟ったのだろう。
――瑠々ちゃんの無念を晴らすのは、絶対にあの二人の方が相応しかったんだ。……例え、それで罰が与えられても構わない
信長に『閻魔刀』を差し出した時、そこまでのことを計算していたわけではない。それでも、あの瞬間の『正解』は一つしかなく、その選択をしていなかった方が後悔することになった。
あの選択を出来なかった自分を嫌いになってしまったかもしれない。
そして、鬼は熱田神宮に残してきた『子どもたちを見ておいてくれる』らしい。本当に鬼らしくないところが多い鬼の提案に瑞貴は感謝した。
細かなところまで気遣ってくれている。ただ、鬼がずっと子どもたちを見守ることが出来るのか疑問だったが鬼は自分の姿を人間から見えなくすることも可能らしいので問題なかった。
「鬼ですから当然のことです」
と当たり前のことを誇らしげに言い残して帰って行った。
鬼が帰った後、瑞貴は力尽きソファーに横になったままで眠ってしまっていた。
そして、信長と秀吉は胸のあたりから伸びた青白い紐を指さしていた。
「……それは、何ですか?」
「儂らを、この世に繋ぎ止めている紐だ」
瑞貴は結界を張る時に『閻魔代行』を唱えていたし、信長と秀吉は太刀を使う時に刀身を見てしまっている。
刀身を見た時間が短かったとしても『浄玻璃鏡』は二人にも生きていた時の罪を見せてしまっていたらしい。この時点で二人が天国に行けるのか地獄に送られるのか瑞貴には分からなかったし、聞くこともしたくなかった。
「……『縁の紐』」
鬼の説明によれば、この紐を切れば成仏をさせることが出来るらしい。その紐が信長と秀吉から出てしまっていた。
「そのようだな。……覚悟は出来ておるよ」
信長が瑞貴に優しく声をかけてくれる。この二人は自分たちがこうなる事も覚悟のうえで臨んでいた。
昨夜、瑞貴から『閻魔刀』のことを聞いてから画策していたのかもしれない。熱田神宮で別れた後、全てを理解の上で瑞貴の後を追いかけて来ていたのだろう。
「これを斬るのは、其方の役目だ。……よろしく頼む」
「……あの子たちを最期まで見届けるって……」
「それは、もう無理じゃな。……其方がおるので心配はしておらぬ」
「でも、こんな最期って」
「これは儂らの願ったことだ。……悔いなく逝ける」
これ以上、瑞貴が言葉を口にすれば覚悟を持って此処にいる二人に失礼だと思った。信長と秀吉は、この世でやるべきことを全て終えたのだ。
瑠々の件を解決出来ずに成仏させてしまっていれば、二人の心残りを消し去ることにはならなかった。
二人の表情は本当に清々しく遣り遂げた男の姿だった。これから向かう世界に対する不安は微塵も感じられない。
瑞貴は少しだけ空を見上げて天国だろう景色を見た。そして、呼吸を整えてから二人と向き合う。
「『織田信長』と『豊臣秀吉』が、子どもたちのために行動することを最期に選んだなんて誰も信じてくれません」
瑞貴は涙を流していた。突然訪れてしまった惜別の涙だった。
「其方だけが覚えてくれていれば良い。……儂らの年表とやらに加えておいてくれ」
「……試験には全く使えない知識ですね」
「なんじゃ、其方が独占できる知識じゃぞ。もっと得意がれば良い」
「……そうですね。……俺の一番好きな偉業として覚えておきます」
「もっと色々なことをしたはずじゃが、それで十分じゃよ」
信長と秀吉は優しく微笑みながら頷いてくれていた。瑞貴も笑顔で二人に応えて『縁の紐』を斬る。
最期の瞬間まで瑞貴は、この二人のペースで動かされてしまったことになった。
――俺が、この二人に勝てるわけなかったってことだよな
斬られた『縁の紐』は朽ちるようにして消え去っていく。そして、『縁の紐』が繋がっていた胸のあたりから二人の身体が光の粒になっていった。
信長と秀吉の身体は徐々に光に変わっていき、やがて完全に消え去ってしまった。消え去る間際に、二人からの『ありがとう』という言葉だけが瑞貴に聞こえてきた。
――さようなら。……いつか、また
瑞貴は涙を拭いながら心の中で呟いた。いつもでも情けない男のままで二人を見送りたくはなかった。
そして、瑞貴は『閻魔刀』を鞘に納める。
納めた瞬間に結界は消えて『境界の紐』は鞘に巻かれた状態に戻っており、周囲の景色はアパートの駐車場でしかなくなっている。
結界があった場所には意味不明な言葉を発して怯え続ける男女の姿が残されただけになる。
何かに謝り続けて『ごめんなさい』を何度も何度も繰り返して、背後に怯えて突然振り返ったりするので異様に見える。近くに立っている瑞貴のことさえも既に気にしていない。
――瑠々ちゃんが見ていた地獄は、もっと悲しい世界だったんです
ただ、その姿が証明しているのは、親が違っていれば瑠々は死なずに済んだ事実になる。
この二人が裁かれたのであれば瑠々の死の原因が確定したことでもあり、寂しい結末となってしまった。
――やっぱり、瑠々ちゃんは貴方たちにとって『邪魔な子』ではなかったんです
ここでやるべき瑞貴の目的は遂げた。ずっと傍で見守っていてくれた大黒様に声をかけて、この場を後にすることにした。
「……父さんは人間の行動に正解はないって言ってたんです。だから、俺も自分の行動が正しかったとは思っていません。……でも、後悔もしていません。…………それで良かったんですよね?大黒様」
大黒様は何も答えてはくれない。
「……まだ『閻魔刀』を二人に貸してしまったことで『罰』を受ける可能性はあるけど、今は普通に歩いて帰れることに感謝しています」
この言葉には大黒様も反応して、ピタリと足を止めて振り返って瑞貴の顔を見ていた。元気づけてくれているようにも見えるし、少し悲し気にも見える微妙な表情を大黒様はしていた。
「大丈夫です。……覚悟はしてます」
瑞貴の言葉を聞いて再び大黒様は歩き始める。
熱田神宮で待っているであろう子どもたちのところへ『お爺ちゃんたち』が帰らないことを報告に行かなければならない。
少し歩いては休み、その繰り返しになってしまっていた。
連日、結界を張っていたことで瑞貴は命を削っていた。体力的にギリギリのところにきていたし、信長と秀吉を送ったことによる精神的な消耗もある。
――あの二人は最期までカッコ良く逝ったんだから、俺も頑張らないと……
※※※※※※※※※※
瑞貴たちが熱田神宮に辿り着くころには日も傾きかけていた。
どんな言葉で説明すればいいか悩みながら歩いていると、太郎と佐久間愛子の年長者が瑞貴に近付いてくる。
「……お爺ちゃんたちから、聞いてるよ。……もう、会えないんでしょ?」
愛子が涙を堪えながら瑞貴に聞いてきた。二人は子どもたちに戻らないことを伝えていたらしい。
「……お爺ちゃんたちは、みんなのことが大好きなんだ。……二度と会えないことなんてない。また、いつか必ず会えるよ」
それを聞いた二人は泣き笑いの顔を見せて、『うん』と元気に返事をしてくれた。
瑞貴も、みんなと遊んであげたかったのだが体力的に不可能なことを悟り、
「……また来るね」
とだけ言い残して、その場を離れていた。
やっとの思いで家まで辿り着くと、家の前には鬼が待っている。その表情は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える複雑なモノだった。
鬼も家に招き入れて、瑞貴はソファーに身体を預けた。
「……かなりお疲れのご様子ですね?」
鬼もソファーに座ってから、瑞貴に声をかけた。
「……そうですね。お茶も出せずにスイマセン」
「どうぞ、お構いなく。……用件だけ手短に済ませたら、おいとまします」
「……怒ってますか?」
「怒ってなどいませんよ。あれも貴方の選択の一つです。……ただ、神の力の一部である『浄玻璃鏡の太刀』を貸し与えたことへの代償は必要になります」
「『代償』ではなくて『罰』ですよね?」
「その言葉を聞く限り、ご覚悟の上での選択と考えて良いでしょうか?」
「はい」
神媒師として、やってはならないこと。神の力を神媒師以外が使うことになれば罰が与えられることは必然だった。
それでも、あの場では信長と秀吉にはカッコ良くいてほしいと瑞貴は心から願った。
「貴方への『罰』が何かは、いずれお分かりいただけると思います」
「いずれ分かるって……。教えてはもらえないんですか?」
「貴方自身が気付いていくことも『罰』に含まれるのです」
「……俺が気付くことも『罰』?」
気付いていくことも罰になることの意味が理解出来ない。瑞貴の身の回りのことや自分の身体が徐々に変化していくのであれば、それは恐ろしいことだった。
「……閻魔様は怒ってましたか?」
「いえ……。ただ、『すまなかった』とだけ伝言を受けております」
「えっ?『すまなかった』って……、閻魔様がですか?」
そんな言葉を使う閻魔大王など、瑞貴のイメージとは違い過ぎて想像も出来なかった。今回の事も烈火の如く怒っているものだと瑞貴は思っていた。
「貴方に辛い選択ばかりを迫った事への謝罪でしょうか。……それでも、この件で『罰』を与えることとは別問題なのです。ご理解ください」
「規律は守らないと……。特に、閻魔様が規律を破ることなんて出来るわけないですから」
「ご理解いただけて有難いです。……ですが、あの子の母親たちには裁かれるだけの罪があった。『浄玻璃鏡の太刀』を貴方自身が使っていれば、何も問題はなかったのです。……あの二人に貸したことで与えられる『罰』に貴方は納得出来るのですか?」
確かに山咲美登里たちに罰を与えることになったのであれば、裁きとして『閻魔刀』を使ったことが失敗ではない。
失敗した時のみ代償が必要になるのであれば、山咲美登里を斬ったことでの代償として『罰』を受けることはなかった。瑞貴自身が『閻魔刀』を使っていれば、無傷でこの件を成し遂げられたことになる。
鬼としては、信長と秀吉に『閻魔刀』を貸した瑞貴の行為は余計な事であり、その余計な事が原因で瑞貴は閻魔様からの『罰』を受けると考えていた。
「あの二人に『浄玻璃鏡の太刀』を貸さなければ良かったってことですか?」
「ええ、あの場で貸さなければ何事もなく片付いていた」
「……理屈じゃないんですよ。あの場での俺の行動は間違ってなかったと信じてます。それに、覚悟もしてましたから平気です」
「無粋な質問をしました。お忘れください」
笑顔で答えた瑞貴の顔を見て、鬼は『瑞貴が全て承知の上で選択した』ことを悟ったのだろう。
――瑠々ちゃんの無念を晴らすのは、絶対にあの二人の方が相応しかったんだ。……例え、それで罰が与えられても構わない
信長に『閻魔刀』を差し出した時、そこまでのことを計算していたわけではない。それでも、あの瞬間の『正解』は一つしかなく、その選択をしていなかった方が後悔することになった。
あの選択を出来なかった自分を嫌いになってしまったかもしれない。
そして、鬼は熱田神宮に残してきた『子どもたちを見ておいてくれる』らしい。本当に鬼らしくないところが多い鬼の提案に瑞貴は感謝した。
細かなところまで気遣ってくれている。ただ、鬼がずっと子どもたちを見守ることが出来るのか疑問だったが鬼は自分の姿を人間から見えなくすることも可能らしいので問題なかった。
「鬼ですから当然のことです」
と当たり前のことを誇らしげに言い残して帰って行った。
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