神媒師 《第一章・完結》

ふみ

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第一章 初めての務め

030 確認事項

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 家に戻ると大黒様は台所にいる母のもとへ向かい朝ご飯を要求していた。ビスケットとは別に朝食をしっかりと食べることは忘れない。

「おかえり、どうだったんだ?」

 父は今朝のことを気にしてくれている様子だった。瑞貴の分のコーヒーも持ってリビングで話しかける。

「織田信長と豊臣秀吉に会ってきた」

 何気なく言っているが冷静になってみると恐ろしい言葉ではあった。家族以外にも同じ事を言ってみたい衝動しょうどうに襲われる。

「はっ!?織田信長と豊臣秀吉だって?……その二人がお前に用があったのか?」
「そう。あと二人の他に子どもが11人いて、合計13人かな」
「一気にそれだけの人数か……。それで?」
「ちょっと頼まれ事があって、それが終わったら送ることになる。年末ギリギリで一ヶ月後くらいだと思う」
「そんなに先になるのか?」

 父が神媒師として行動していた時には出会ってから間を置かずに成仏させてきたのかもしれない。当然ながらパーティーの開催を要求されることもなかったのだろう。

「戦国大名の二人はクリスマス・パーティーでフワフワのパンケーキを食べてから成仏したいんだって。もちろん、子どもたちも一緒に楽しんでからじゃないとダメらしい」
「……何だ?それは」

 瑞貴が簡単に説明してしまっているので分かり難くはなっていた。しかし、嘘偽りない事実を述べており、瑞貴にも他に説明のしようがない。
 父からも困惑気味の短い返事があるだけだった。

「まぁ、とりあえず大変そうだな。……経費もかかりそうだから必要な時は遠慮なく言いなさい」
「ありがとう、助かる。出来れば、ちゃんと送り出してあげたいとは思ってたから」

 神媒師としてかかる費用はどこかに請求が可能なのかを瑞貴は考えてしまった。
 そんな説明を受けたことはなかったので父が払ってくれることになるのだろうが、それでも有難ありがたい。
 合計13人のパーティーともなれば予算的に厳しいと思っていたところなのだ。

「あっ、あと帰り道で『鬼』にも会った。父さんのことも知っているみたいだったけど?」
「あぁ、長身の『白髪鬼はくはつき』だな。嫌味な男だったろ?」
「最初は『死神』って名乗ってきた。……それで、俺が『死神』は変だって言い返したら、笑いながら『鬼』って教えてくれた」
「……父さんの時も似たような感じだったな」
「試されてる?」
「さあな。でも、たぶん悪い奴ではないと思う」

 曖昧あいまいな存在である『死神』を名乗って、神媒師の反応を見るためのものかもしれない。

「でも、とりあえず一歩前進したかな?やることもハッキリしたし」

 父は少しだけ思い悩んだ顔をしたが、すぐに明るい顔を見せてくれて、

「あぁ、頑張りなさい。」

 その一言だけを伝えてくれた。

 16歳の瑞貴は『織田信長』と『豊臣秀吉』に会えたことを無邪気に伝えていたが、異常な状況であることに気が付いていなかった。
 冷静に『鬼』と対話出来ていたとしても、英傑えいけつ二人に会えたことを単純に自慢しようとする幼さがある。

 話す相手が家族だけであれば問題はないのかもしれないが、誤って他の誰かに話してしまえば大事になる。その危険性を瑞貴が理解出来ているか分からない。
 父親として全てを教えてあげるべきなのか迷っていたはずだが言葉を飲み込んで一言だけに留めた。

※※※※※※※※※※

 準備は色々と進めるつもりでいたが、次の週に控えている期末試験はしっかりと対応しよう決めていた。
 これから先、神媒師としての活動で時間を制限される可能性が高くなっていく。まだ初期段階であるから学生としての本分も優先させたかった。

 とは言え、約束したことでもあるので数日後には熱田神宮へ報告に行こうとは考えている。

「母さん、家にクリスマスツリーってある?」

 平日の夜も、必要になる物を確認するために家の中を探索してみることにした。

「……これなら、あるけど」

 30センチくらいの高さのクリスマスツリー。10人の子どもで飾り付けを楽しめるサイズ感ではない。

却下きゃっかだね。……もっと大きいサイズが欲しいな」
「もしかしたら会社の倉庫にあるかもしれないから探しておいてあげる。……大きいヤツね」
「ありがと。ついでに飾りもあったりすると嬉しいかも」

 一見すると順調に進みそうであったが、大問題も発生してしまっていた。

「えっ!?……母さん、クリスマスは家に居ないの?」
「ゴメン、仕事の予定と重なってるみたい」

 問題の『フワフワのパンケーキ』で母親の存在を当てにしていたのだが、仕事の都合で12月の半分が出張先に滞在することになっておりクリスマスは不在になる。
 まともに料理をしたことがない瑞貴では、練習が必須になってしまう。

「これはヤバい」

 母が出張であるなら父も不在になる。クリスマスを家族で過ごしたいわけではなく、パーティー実施について労働力不足が発生した。

――ネット動画を参考にすれば、何とかなるかな……。あと、こっちの食べ物を食べられるようにする方法も聞いておかないとダメだった

 部屋に戻ると大黒様はアニメ視聴を楽しんでいた。チラっとだけ瑞貴の方を見てから視線をテレビに戻した。

「大黒様、明日の夕方、視察のついでに熱田神宮へ一緒に行きませんか?……簡単に報告だけ済ませておきたいんです。いいですよね?」
「わんっ!」

 返事をしてくれるようにはなっていた。ただし、『わんっ!』が『はい』なのか『いいえ』なのかを判断出来ないので、基本的には全て『はい』として解釈している。

「ついでに『鬼』とも会ってくるか……」

 この世の存在ではない者に、パンケーキを食べさせるという無茶むちゃな考えが通用つうようするのか確認しなくてはならない。
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