26 / 110
第一章 初めての務め
026 名前
しおりを挟む
「えっ?……クリスマス・パーティーですか?」
やはり何度も確認してしまう。時代錯誤甚だしく感じてしまう。
――ずっと昔のことで忘れているかもしれませんが、貴方は最終的にキリスト教を弾圧する側になったんですけど?
瑞貴の率直な感想である。
信長も秀吉も最初はキリスト教の布教に協力的なスタンスだったが、最終的にはキリスト教宣教師と険悪な関係になっていたはずだった。
――俺たちが歴史の真実を知らないだけで、本当は『キリスト教の禁教令』なんてなかったとか?
歴史なんてものは記録でしかない。記録が間違えていたり改竄されていたりすれば事実と違っている可能性だってあるはずだった。
「そうじゃな、クリスマスが近いからクリスマス・パーティーと言ってみたが、パーティーを開きたいんじゃよ」
「ってことはパーティーなら何でも構わないってことですか?」
「そう言ってしまっては、身も蓋もない話ではないか。物事には色気も大事と覚えておけ」
突如、信長の参戦である。この2対1では、瑞貴に勝ち目などあるはずもない。
クリスマス・パーティーの開催は既定路線だった。
「……分かりました、クリスマス・パーティーですね。でも、パーティーで何するんですか?」
「それを考えるのは現代人である其方の役目。飾り付けて楽しんだりもするのであろう。心残りがあっては成仏も叶わぬぞ。」
「えっ?信長、様も飾り付けしたりするんですか?」
「儂はせんぞ。子どもらにやらせてほしい。……あと、『様』は要らぬな。儂らの方が世話になる立場だ」
完全に調子が狂わされる会話になってしまっていた。信長も厳しい言葉を使ってはいるが中身には優しさを感じられる。
「あの子たちが楽しめるようにってことですか?」
遊んでいる子どもたちを見ながら質問をしてみる。
一緒に皆で仲良く遊んでいるが命を落としたのは別々の時代であるのは見た目にも明らかである。
おそらく成仏するのに心残りがあるのは子どもたちの方だろうが、この二人が子どもたちのことを思いやっている理由は不明だ。
「そうしてもらえると、有難い」
短気で残忍な印象しか持っていなかった信長が初対面の瑞貴に対して『有難い』と述べているあたりは不思議な感覚がした。
ちょっとしたパーティーで喜んでくれるなら頑張ってみようかとさえ考え始めてしまう。それでも、大勢の兵を従えてきた掌握術のような嫌な感覚ではなく、素直に手伝いたいと思えるものだった。
「そうじゃ、パンケーキを忘れてはならんぞ。フワフワのやつじゃ」
良い話になりかけていたところで、秀吉が提案した。
「えっ、パンケーキですか?」
「そうじゃ。」
「どうして、クリスマス・パーティーとかパンケーキって言葉をそんなに知ってるんですか?貴方方の時代には存在していない言葉ですよね?」
「死んでウロウロしている間に、色々と覚えたんじゃ。新しいことを学ぶのは、いかなる時でも必要なことじゃぞ」
「死んでからも前向きな考えは素晴らしいと思いますけど、この世界の物を食べたりとか出来るんですか?」
「限られた物を少量だけであれば口にすることも出来なくはなかったが、パンケーキは無理じゃろうな……」
「それなら用意しても意味ないじゃないですか。」
「何じゃ、随分と簡単に諦めるのだな。其方は神媒師であろう、何か方策があるやもしれぬのだぞ。儂もサルも最期に食してみたいのだ」
「……皆が食べられるように考えろってことですか?……ちなみに限られた少量の物って何なんです?」
「まぁ、お供え物の類じゃな。」
お供え物は後々捨てられてしまっているのかと考えていたので、瑞貴にとっては意外なことではあった。
流石にお供え物でパンケーキが置かれている状況は見たことがないが、お供物として出せば食べられるかもしれず希望は生まれた。
簡単な話に聞こえるが、相手が相手なだけに簡単なはずもない。どんどん無茶な要求が増えていくように感じていた。
そして、フワフワのパンケーキを誰が作ることになるかが問題であり瑞貴には難関だった。
「まぁ、分かりましたよ。出来る限りのことはやってみます。……でも、俺からも一つ要求を出させてください」
「んっ?何じゃ、言ってみなさい。」
瑞貴は信長をしっかりと見据えて、
「信長さん俺は貴方が秀吉さんを『サル』って呼ぶのが嫌なんです。ちゃんと名前で呼んであげてください」
本当は『サル』より『禿ネズミ』と呼んでいた話も残っているらしいので、『サル』は柔らかい方なのかもしれない。
それでも瑞貴は名前で呼ばないことが嫌だった。
「……いやいや、構わんのじゃ。上様から名前呼びをされるなど……畏れ多い」
秀吉の方が慌てている様子だった。信長や秀吉が生きていた時代では構わないかもしれないが、現在の関係性を築きたかった。
「……そうだな、藤吉郎が呼びやすいので、それでも良いか?」
「はい、それで構わないです。」
織田信長に仕え始めた時は『木下藤吉郎』だったはず。
瑞貴は、空気が少しだけピリッとなった感覚を味わった。普段は多くの事を流してしまう瑞貴だが、譲れないことがあれば強い態度を示すこともある。
個別に与えられた名前に関しては、それぞれが大切にしなければならないものであり、いい加減に扱ってほしくないと考えていた。
子どもを『ガキ』と呼ぶことも嫌いだった。語源である『餓鬼』は常に飢えと渇きに苦しむ存在であり、子どもを意地汚い物として例えたらしい。瑞貴が色々な事を学んでいく中で得た知識からも名前で呼ぶことを大切にしたかった。
「では、諸々お頼み申す」
「全てを約束は出来ませんが頑張ってみます」
やはり何度も確認してしまう。時代錯誤甚だしく感じてしまう。
――ずっと昔のことで忘れているかもしれませんが、貴方は最終的にキリスト教を弾圧する側になったんですけど?
瑞貴の率直な感想である。
信長も秀吉も最初はキリスト教の布教に協力的なスタンスだったが、最終的にはキリスト教宣教師と険悪な関係になっていたはずだった。
――俺たちが歴史の真実を知らないだけで、本当は『キリスト教の禁教令』なんてなかったとか?
歴史なんてものは記録でしかない。記録が間違えていたり改竄されていたりすれば事実と違っている可能性だってあるはずだった。
「そうじゃな、クリスマスが近いからクリスマス・パーティーと言ってみたが、パーティーを開きたいんじゃよ」
「ってことはパーティーなら何でも構わないってことですか?」
「そう言ってしまっては、身も蓋もない話ではないか。物事には色気も大事と覚えておけ」
突如、信長の参戦である。この2対1では、瑞貴に勝ち目などあるはずもない。
クリスマス・パーティーの開催は既定路線だった。
「……分かりました、クリスマス・パーティーですね。でも、パーティーで何するんですか?」
「それを考えるのは現代人である其方の役目。飾り付けて楽しんだりもするのであろう。心残りがあっては成仏も叶わぬぞ。」
「えっ?信長、様も飾り付けしたりするんですか?」
「儂はせんぞ。子どもらにやらせてほしい。……あと、『様』は要らぬな。儂らの方が世話になる立場だ」
完全に調子が狂わされる会話になってしまっていた。信長も厳しい言葉を使ってはいるが中身には優しさを感じられる。
「あの子たちが楽しめるようにってことですか?」
遊んでいる子どもたちを見ながら質問をしてみる。
一緒に皆で仲良く遊んでいるが命を落としたのは別々の時代であるのは見た目にも明らかである。
おそらく成仏するのに心残りがあるのは子どもたちの方だろうが、この二人が子どもたちのことを思いやっている理由は不明だ。
「そうしてもらえると、有難い」
短気で残忍な印象しか持っていなかった信長が初対面の瑞貴に対して『有難い』と述べているあたりは不思議な感覚がした。
ちょっとしたパーティーで喜んでくれるなら頑張ってみようかとさえ考え始めてしまう。それでも、大勢の兵を従えてきた掌握術のような嫌な感覚ではなく、素直に手伝いたいと思えるものだった。
「そうじゃ、パンケーキを忘れてはならんぞ。フワフワのやつじゃ」
良い話になりかけていたところで、秀吉が提案した。
「えっ、パンケーキですか?」
「そうじゃ。」
「どうして、クリスマス・パーティーとかパンケーキって言葉をそんなに知ってるんですか?貴方方の時代には存在していない言葉ですよね?」
「死んでウロウロしている間に、色々と覚えたんじゃ。新しいことを学ぶのは、いかなる時でも必要なことじゃぞ」
「死んでからも前向きな考えは素晴らしいと思いますけど、この世界の物を食べたりとか出来るんですか?」
「限られた物を少量だけであれば口にすることも出来なくはなかったが、パンケーキは無理じゃろうな……」
「それなら用意しても意味ないじゃないですか。」
「何じゃ、随分と簡単に諦めるのだな。其方は神媒師であろう、何か方策があるやもしれぬのだぞ。儂もサルも最期に食してみたいのだ」
「……皆が食べられるように考えろってことですか?……ちなみに限られた少量の物って何なんです?」
「まぁ、お供え物の類じゃな。」
お供え物は後々捨てられてしまっているのかと考えていたので、瑞貴にとっては意外なことではあった。
流石にお供え物でパンケーキが置かれている状況は見たことがないが、お供物として出せば食べられるかもしれず希望は生まれた。
簡単な話に聞こえるが、相手が相手なだけに簡単なはずもない。どんどん無茶な要求が増えていくように感じていた。
そして、フワフワのパンケーキを誰が作ることになるかが問題であり瑞貴には難関だった。
「まぁ、分かりましたよ。出来る限りのことはやってみます。……でも、俺からも一つ要求を出させてください」
「んっ?何じゃ、言ってみなさい。」
瑞貴は信長をしっかりと見据えて、
「信長さん俺は貴方が秀吉さんを『サル』って呼ぶのが嫌なんです。ちゃんと名前で呼んであげてください」
本当は『サル』より『禿ネズミ』と呼んでいた話も残っているらしいので、『サル』は柔らかい方なのかもしれない。
それでも瑞貴は名前で呼ばないことが嫌だった。
「……いやいや、構わんのじゃ。上様から名前呼びをされるなど……畏れ多い」
秀吉の方が慌てている様子だった。信長や秀吉が生きていた時代では構わないかもしれないが、現在の関係性を築きたかった。
「……そうだな、藤吉郎が呼びやすいので、それでも良いか?」
「はい、それで構わないです。」
織田信長に仕え始めた時は『木下藤吉郎』だったはず。
瑞貴は、空気が少しだけピリッとなった感覚を味わった。普段は多くの事を流してしまう瑞貴だが、譲れないことがあれば強い態度を示すこともある。
個別に与えられた名前に関しては、それぞれが大切にしなければならないものであり、いい加減に扱ってほしくないと考えていた。
子どもを『ガキ』と呼ぶことも嫌いだった。語源である『餓鬼』は常に飢えと渇きに苦しむ存在であり、子どもを意地汚い物として例えたらしい。瑞貴が色々な事を学んでいく中で得た知識からも名前で呼ぶことを大切にしたかった。
「では、諸々お頼み申す」
「全てを約束は出来ませんが頑張ってみます」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活
XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる