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第一章 初めての務め
025 想定外
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他にも気になることは山積されており話を続けたかったが、徐々に参拝する人も増えて困難な状況になりつつある。
周囲の人たちからは早朝の神社で盛大な独り言を言っているだけの青年としか見られない。
珍しく興奮している瑞貴は周囲に気を配りながら会話を続けることも出来なさそうである。
「申し訳ありませんが、もう少し隅の方に移動しませんか?」
本宮とは距離を取り隅のスペースに移動することにした。瑞貴の提案を理解して近くまで移動してくれたのは信長と秀吉の二人だけで、子どもたちはそれぞれに遊びを始めてしまっている。
具体的な内容は、二人に確認するだけで良さそうだった。
「あのぅ、色々と聞いてみたいことがあるんですけど良いでしょうか?」
二人は堂々と頷いて返してくれる。流石に貫禄を感じさせるが威圧的な態度が全く見受けられないことは意外だった。
「まず、閻魔様から俺への連絡があったんですけど、お二人の用事で呼ばれたってことでしょうか?」
「……そうなるな」
基本的には秀吉が会話に応じてくれている。信長は言葉少なく、秀吉に任せている雰囲気だった。二人が生きていた当時の関係性そのままなのかもしれない。
数多ある歴史解釈の中には『本能寺の変』の黒幕として秀吉の名前が挙げられることもある。そのことを知っている瑞貴からすれば、この状況はゾクゾクさせられてしまう。
目の前に、とんでもない歴史の真実が顔を揃えている。それでも神媒師としての務めを優先させなければならず、好奇心を払いのけながら何とか話を進めていく。
「俺は、ここに来るように言われただけで、何をすればいいのか詳しくは聞かされてはいないんです」
「はっはっは、ちょこっとだけ頼み事を聞きいてもらいたんだが……、それが終わった後で儂たちを成仏させてくれれば、それで済むこと。簡単な話じゃよ」
「……それって、簡単な話なんでしょうか?」
この二人の頼み事が瑞貴にとって簡単なものになるとは思えず、かなりの困難も予想される。
何よりも亡者を成仏させる方法など瑞貴は知らないのだから不可能な話ではある。
「400年以上もこの世に留まっていたのに、どうして突然に成仏しようなんて考えたんですか?」
「さすがに飽きたんじゃよ。ずっと見ていても何も変わらなくなってきたしな。だから、そろそろ行こうかと思っておったんじゃ」
「……飽きたんですか?」
二人は大きく頷いてくれる。
ずっと留まっていたのに飽きたから成仏したいらしいが、ただの我儘発言にしか聞こえない。
そして、この二人の生きた戦乱の時代と『何も変わらない』のだとしたら、それは大問題であり人間が進歩していないことになってしまう点も瑞貴は気にしていた。
「あの子どもたちも一緒にですか?」
「そうじゃな、幼さ故に自分が死んだことを理解出来なかった子たちじゃ。ずっと一緒に過ごしておったから最期くらいは見送ってあげたい」
「えっ?お二人が面倒を見てきたんですか?」
「いやいや、面倒を見ることなんてありゃせんよ。お互いに死人なんじゃからな。……ただ一緒におっただけじゃ」
それでも意外なことに変わりはなかった。二人の人間性を詳しくは知っているわけではないが、戦国武将として戦いの中に生きてきた人物で歴史の中心にいた人物だ。
成仏できなかった子どもたちを見守ってきたことは意外過ぎた。
「生きておった時には、何もせんかったからな……」
ポツリと秀吉が小声で言った。『生きているときには何もしていない』とは天下統一を成し遂げた人間の言葉とは思えなかった。
また、その言葉を信長が聞いて、どんな気持ちになるのか心配にもなっていたが信長は遊んでいる子どもたちを穏やかな瞳で眺めているだけだった。
――何なんだ、この二人の雰囲気……
瑞貴は、何気ない言葉の一つ一つを真意を探ってしまいたくなっている。それは興味本位の軽い気持ちではなく、今日に至るまで見聞きしてきたものが二人に与えた影響を知りたくなっていた。
それでも今は自分の務めを優先しなければならない。
「でも、成仏させる方法なんて知らないし……。どうすればいいんだ?」
「それは其方の問題、何とかしてもらわないとな」
また家に帰って、父から伝授してもらう必要があるのだろうか。それとも閻魔様からメールで指示が来るんだろうか。どちらにしろ方法を学ぶ必要はあるらしい。
「まぁ、成仏させる方法は確認してみますけど……。頼み事って何なんですか?」
「何じゃ、気になるのか?」
「それは気になります。貴方方からの頼まれ事なんて、何だか怖いんです」
「何が怖いもんか。儂らは死んでおるんだぞ。死人からの頼み事くらいで怯えるではない!」
まさかの説教ではあるが、ある意味では貴重な体験かもしれない。瑞貴以外が経験することは不可能だが友人たちに自慢出来ないことが残念過ぎる。
「別に怯えてるわけではないんですけど……。とにかく気になっているので、頼み事を先に教えてくれませんか?」
やるべきことの見通しを立てたいだけでもある。
成仏させる方法が分かったとしても無理難題な頼み事であれば意味が無くなる。
「クリスマス・パーティーじゃ」
「……え?」
聞き取れなかったのではない。ハッキリと聞こえてはいたのだが、瑞貴以外の人間でも絶対に聞き返してしまうだろう。
例え失礼な態度の呆れ顔になってしまったとしても、これが正しいリアクションだと瑞貴は確信していた。
「子どもたちと一緒に楽しめるクリスマスのパーティーを開いてほしいのじゃ」
数分前、この時代にも『飽きた』と言っていたとは思えないような頼み事だった。
周囲の人たちからは早朝の神社で盛大な独り言を言っているだけの青年としか見られない。
珍しく興奮している瑞貴は周囲に気を配りながら会話を続けることも出来なさそうである。
「申し訳ありませんが、もう少し隅の方に移動しませんか?」
本宮とは距離を取り隅のスペースに移動することにした。瑞貴の提案を理解して近くまで移動してくれたのは信長と秀吉の二人だけで、子どもたちはそれぞれに遊びを始めてしまっている。
具体的な内容は、二人に確認するだけで良さそうだった。
「あのぅ、色々と聞いてみたいことがあるんですけど良いでしょうか?」
二人は堂々と頷いて返してくれる。流石に貫禄を感じさせるが威圧的な態度が全く見受けられないことは意外だった。
「まず、閻魔様から俺への連絡があったんですけど、お二人の用事で呼ばれたってことでしょうか?」
「……そうなるな」
基本的には秀吉が会話に応じてくれている。信長は言葉少なく、秀吉に任せている雰囲気だった。二人が生きていた当時の関係性そのままなのかもしれない。
数多ある歴史解釈の中には『本能寺の変』の黒幕として秀吉の名前が挙げられることもある。そのことを知っている瑞貴からすれば、この状況はゾクゾクさせられてしまう。
目の前に、とんでもない歴史の真実が顔を揃えている。それでも神媒師としての務めを優先させなければならず、好奇心を払いのけながら何とか話を進めていく。
「俺は、ここに来るように言われただけで、何をすればいいのか詳しくは聞かされてはいないんです」
「はっはっは、ちょこっとだけ頼み事を聞きいてもらいたんだが……、それが終わった後で儂たちを成仏させてくれれば、それで済むこと。簡単な話じゃよ」
「……それって、簡単な話なんでしょうか?」
この二人の頼み事が瑞貴にとって簡単なものになるとは思えず、かなりの困難も予想される。
何よりも亡者を成仏させる方法など瑞貴は知らないのだから不可能な話ではある。
「400年以上もこの世に留まっていたのに、どうして突然に成仏しようなんて考えたんですか?」
「さすがに飽きたんじゃよ。ずっと見ていても何も変わらなくなってきたしな。だから、そろそろ行こうかと思っておったんじゃ」
「……飽きたんですか?」
二人は大きく頷いてくれる。
ずっと留まっていたのに飽きたから成仏したいらしいが、ただの我儘発言にしか聞こえない。
そして、この二人の生きた戦乱の時代と『何も変わらない』のだとしたら、それは大問題であり人間が進歩していないことになってしまう点も瑞貴は気にしていた。
「あの子どもたちも一緒にですか?」
「そうじゃな、幼さ故に自分が死んだことを理解出来なかった子たちじゃ。ずっと一緒に過ごしておったから最期くらいは見送ってあげたい」
「えっ?お二人が面倒を見てきたんですか?」
「いやいや、面倒を見ることなんてありゃせんよ。お互いに死人なんじゃからな。……ただ一緒におっただけじゃ」
それでも意外なことに変わりはなかった。二人の人間性を詳しくは知っているわけではないが、戦国武将として戦いの中に生きてきた人物で歴史の中心にいた人物だ。
成仏できなかった子どもたちを見守ってきたことは意外過ぎた。
「生きておった時には、何もせんかったからな……」
ポツリと秀吉が小声で言った。『生きているときには何もしていない』とは天下統一を成し遂げた人間の言葉とは思えなかった。
また、その言葉を信長が聞いて、どんな気持ちになるのか心配にもなっていたが信長は遊んでいる子どもたちを穏やかな瞳で眺めているだけだった。
――何なんだ、この二人の雰囲気……
瑞貴は、何気ない言葉の一つ一つを真意を探ってしまいたくなっている。それは興味本位の軽い気持ちではなく、今日に至るまで見聞きしてきたものが二人に与えた影響を知りたくなっていた。
それでも今は自分の務めを優先しなければならない。
「でも、成仏させる方法なんて知らないし……。どうすればいいんだ?」
「それは其方の問題、何とかしてもらわないとな」
また家に帰って、父から伝授してもらう必要があるのだろうか。それとも閻魔様からメールで指示が来るんだろうか。どちらにしろ方法を学ぶ必要はあるらしい。
「まぁ、成仏させる方法は確認してみますけど……。頼み事って何なんですか?」
「何じゃ、気になるのか?」
「それは気になります。貴方方からの頼まれ事なんて、何だか怖いんです」
「何が怖いもんか。儂らは死んでおるんだぞ。死人からの頼み事くらいで怯えるではない!」
まさかの説教ではあるが、ある意味では貴重な体験かもしれない。瑞貴以外が経験することは不可能だが友人たちに自慢出来ないことが残念過ぎる。
「別に怯えてるわけではないんですけど……。とにかく気になっているので、頼み事を先に教えてくれませんか?」
やるべきことの見通しを立てたいだけでもある。
成仏させる方法が分かったとしても無理難題な頼み事であれば意味が無くなる。
「クリスマス・パーティーじゃ」
「……え?」
聞き取れなかったのではない。ハッキリと聞こえてはいたのだが、瑞貴以外の人間でも絶対に聞き返してしまうだろう。
例え失礼な態度の呆れ顔になってしまったとしても、これが正しいリアクションだと瑞貴は確信していた。
「子どもたちと一緒に楽しめるクリスマスのパーティーを開いてほしいのじゃ」
数分前、この時代にも『飽きた』と言っていたとは思えないような頼み事だった。
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