25 / 110
第一章 初めての務め
025 想定外
しおりを挟む
他にも気になることは山積されており話を続けたかったが、徐々に参拝する人も増えて困難な状況になりつつある。
周囲の人たちからは早朝の神社で盛大な独り言を言っているだけの青年としか見られない。
珍しく興奮している瑞貴は周囲に気を配りながら会話を続けることも出来なさそうである。
「申し訳ありませんが、もう少し隅の方に移動しませんか?」
本宮とは距離を取り隅のスペースに移動することにした。瑞貴の提案を理解して近くまで移動してくれたのは信長と秀吉の二人だけで、子どもたちはそれぞれに遊びを始めてしまっている。
具体的な内容は、二人に確認するだけで良さそうだった。
「あのぅ、色々と聞いてみたいことがあるんですけど良いでしょうか?」
二人は堂々と頷いて返してくれる。流石に貫禄を感じさせるが威圧的な態度が全く見受けられないことは意外だった。
「まず、閻魔様から俺への連絡があったんですけど、お二人の用事で呼ばれたってことでしょうか?」
「……そうなるな」
基本的には秀吉が会話に応じてくれている。信長は言葉少なく、秀吉に任せている雰囲気だった。二人が生きていた当時の関係性そのままなのかもしれない。
数多ある歴史解釈の中には『本能寺の変』の黒幕として秀吉の名前が挙げられることもある。そのことを知っている瑞貴からすれば、この状況はゾクゾクさせられてしまう。
目の前に、とんでもない歴史の真実が顔を揃えている。それでも神媒師としての務めを優先させなければならず、好奇心を払いのけながら何とか話を進めていく。
「俺は、ここに来るように言われただけで、何をすればいいのか詳しくは聞かされてはいないんです」
「はっはっは、ちょこっとだけ頼み事を聞きいてもらいたんだが……、それが終わった後で儂たちを成仏させてくれれば、それで済むこと。簡単な話じゃよ」
「……それって、簡単な話なんでしょうか?」
この二人の頼み事が瑞貴にとって簡単なものになるとは思えず、かなりの困難も予想される。
何よりも亡者を成仏させる方法など瑞貴は知らないのだから不可能な話ではある。
「400年以上もこの世に留まっていたのに、どうして突然に成仏しようなんて考えたんですか?」
「さすがに飽きたんじゃよ。ずっと見ていても何も変わらなくなってきたしな。だから、そろそろ行こうかと思っておったんじゃ」
「……飽きたんですか?」
二人は大きく頷いてくれる。
ずっと留まっていたのに飽きたから成仏したいらしいが、ただの我儘発言にしか聞こえない。
そして、この二人の生きた戦乱の時代と『何も変わらない』のだとしたら、それは大問題であり人間が進歩していないことになってしまう点も瑞貴は気にしていた。
「あの子どもたちも一緒にですか?」
「そうじゃな、幼さ故に自分が死んだことを理解出来なかった子たちじゃ。ずっと一緒に過ごしておったから最期くらいは見送ってあげたい」
「えっ?お二人が面倒を見てきたんですか?」
「いやいや、面倒を見ることなんてありゃせんよ。お互いに死人なんじゃからな。……ただ一緒におっただけじゃ」
それでも意外なことに変わりはなかった。二人の人間性を詳しくは知っているわけではないが、戦国武将として戦いの中に生きてきた人物で歴史の中心にいた人物だ。
成仏できなかった子どもたちを見守ってきたことは意外過ぎた。
「生きておった時には、何もせんかったからな……」
ポツリと秀吉が小声で言った。『生きているときには何もしていない』とは天下統一を成し遂げた人間の言葉とは思えなかった。
また、その言葉を信長が聞いて、どんな気持ちになるのか心配にもなっていたが信長は遊んでいる子どもたちを穏やかな瞳で眺めているだけだった。
――何なんだ、この二人の雰囲気……
瑞貴は、何気ない言葉の一つ一つを真意を探ってしまいたくなっている。それは興味本位の軽い気持ちではなく、今日に至るまで見聞きしてきたものが二人に与えた影響を知りたくなっていた。
それでも今は自分の務めを優先しなければならない。
「でも、成仏させる方法なんて知らないし……。どうすればいいんだ?」
「それは其方の問題、何とかしてもらわないとな」
また家に帰って、父から伝授してもらう必要があるのだろうか。それとも閻魔様からメールで指示が来るんだろうか。どちらにしろ方法を学ぶ必要はあるらしい。
「まぁ、成仏させる方法は確認してみますけど……。頼み事って何なんですか?」
「何じゃ、気になるのか?」
「それは気になります。貴方方からの頼まれ事なんて、何だか怖いんです」
「何が怖いもんか。儂らは死んでおるんだぞ。死人からの頼み事くらいで怯えるではない!」
まさかの説教ではあるが、ある意味では貴重な体験かもしれない。瑞貴以外が経験することは不可能だが友人たちに自慢出来ないことが残念過ぎる。
「別に怯えてるわけではないんですけど……。とにかく気になっているので、頼み事を先に教えてくれませんか?」
やるべきことの見通しを立てたいだけでもある。
成仏させる方法が分かったとしても無理難題な頼み事であれば意味が無くなる。
「クリスマス・パーティーじゃ」
「……え?」
聞き取れなかったのではない。ハッキリと聞こえてはいたのだが、瑞貴以外の人間でも絶対に聞き返してしまうだろう。
例え失礼な態度の呆れ顔になってしまったとしても、これが正しいリアクションだと瑞貴は確信していた。
「子どもたちと一緒に楽しめるクリスマスのパーティーを開いてほしいのじゃ」
数分前、この時代にも『飽きた』と言っていたとは思えないような頼み事だった。
周囲の人たちからは早朝の神社で盛大な独り言を言っているだけの青年としか見られない。
珍しく興奮している瑞貴は周囲に気を配りながら会話を続けることも出来なさそうである。
「申し訳ありませんが、もう少し隅の方に移動しませんか?」
本宮とは距離を取り隅のスペースに移動することにした。瑞貴の提案を理解して近くまで移動してくれたのは信長と秀吉の二人だけで、子どもたちはそれぞれに遊びを始めてしまっている。
具体的な内容は、二人に確認するだけで良さそうだった。
「あのぅ、色々と聞いてみたいことがあるんですけど良いでしょうか?」
二人は堂々と頷いて返してくれる。流石に貫禄を感じさせるが威圧的な態度が全く見受けられないことは意外だった。
「まず、閻魔様から俺への連絡があったんですけど、お二人の用事で呼ばれたってことでしょうか?」
「……そうなるな」
基本的には秀吉が会話に応じてくれている。信長は言葉少なく、秀吉に任せている雰囲気だった。二人が生きていた当時の関係性そのままなのかもしれない。
数多ある歴史解釈の中には『本能寺の変』の黒幕として秀吉の名前が挙げられることもある。そのことを知っている瑞貴からすれば、この状況はゾクゾクさせられてしまう。
目の前に、とんでもない歴史の真実が顔を揃えている。それでも神媒師としての務めを優先させなければならず、好奇心を払いのけながら何とか話を進めていく。
「俺は、ここに来るように言われただけで、何をすればいいのか詳しくは聞かされてはいないんです」
「はっはっは、ちょこっとだけ頼み事を聞きいてもらいたんだが……、それが終わった後で儂たちを成仏させてくれれば、それで済むこと。簡単な話じゃよ」
「……それって、簡単な話なんでしょうか?」
この二人の頼み事が瑞貴にとって簡単なものになるとは思えず、かなりの困難も予想される。
何よりも亡者を成仏させる方法など瑞貴は知らないのだから不可能な話ではある。
「400年以上もこの世に留まっていたのに、どうして突然に成仏しようなんて考えたんですか?」
「さすがに飽きたんじゃよ。ずっと見ていても何も変わらなくなってきたしな。だから、そろそろ行こうかと思っておったんじゃ」
「……飽きたんですか?」
二人は大きく頷いてくれる。
ずっと留まっていたのに飽きたから成仏したいらしいが、ただの我儘発言にしか聞こえない。
そして、この二人の生きた戦乱の時代と『何も変わらない』のだとしたら、それは大問題であり人間が進歩していないことになってしまう点も瑞貴は気にしていた。
「あの子どもたちも一緒にですか?」
「そうじゃな、幼さ故に自分が死んだことを理解出来なかった子たちじゃ。ずっと一緒に過ごしておったから最期くらいは見送ってあげたい」
「えっ?お二人が面倒を見てきたんですか?」
「いやいや、面倒を見ることなんてありゃせんよ。お互いに死人なんじゃからな。……ただ一緒におっただけじゃ」
それでも意外なことに変わりはなかった。二人の人間性を詳しくは知っているわけではないが、戦国武将として戦いの中に生きてきた人物で歴史の中心にいた人物だ。
成仏できなかった子どもたちを見守ってきたことは意外過ぎた。
「生きておった時には、何もせんかったからな……」
ポツリと秀吉が小声で言った。『生きているときには何もしていない』とは天下統一を成し遂げた人間の言葉とは思えなかった。
また、その言葉を信長が聞いて、どんな気持ちになるのか心配にもなっていたが信長は遊んでいる子どもたちを穏やかな瞳で眺めているだけだった。
――何なんだ、この二人の雰囲気……
瑞貴は、何気ない言葉の一つ一つを真意を探ってしまいたくなっている。それは興味本位の軽い気持ちではなく、今日に至るまで見聞きしてきたものが二人に与えた影響を知りたくなっていた。
それでも今は自分の務めを優先しなければならない。
「でも、成仏させる方法なんて知らないし……。どうすればいいんだ?」
「それは其方の問題、何とかしてもらわないとな」
また家に帰って、父から伝授してもらう必要があるのだろうか。それとも閻魔様からメールで指示が来るんだろうか。どちらにしろ方法を学ぶ必要はあるらしい。
「まぁ、成仏させる方法は確認してみますけど……。頼み事って何なんですか?」
「何じゃ、気になるのか?」
「それは気になります。貴方方からの頼まれ事なんて、何だか怖いんです」
「何が怖いもんか。儂らは死んでおるんだぞ。死人からの頼み事くらいで怯えるではない!」
まさかの説教ではあるが、ある意味では貴重な体験かもしれない。瑞貴以外が経験することは不可能だが友人たちに自慢出来ないことが残念過ぎる。
「別に怯えてるわけではないんですけど……。とにかく気になっているので、頼み事を先に教えてくれませんか?」
やるべきことの見通しを立てたいだけでもある。
成仏させる方法が分かったとしても無理難題な頼み事であれば意味が無くなる。
「クリスマス・パーティーじゃ」
「……え?」
聞き取れなかったのではない。ハッキリと聞こえてはいたのだが、瑞貴以外の人間でも絶対に聞き返してしまうだろう。
例え失礼な態度の呆れ顔になってしまったとしても、これが正しいリアクションだと瑞貴は確信していた。
「子どもたちと一緒に楽しめるクリスマスのパーティーを開いてほしいのじゃ」
数分前、この時代にも『飽きた』と言っていたとは思えないような頼み事だった。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
女子小学五年生に告白された高校一年生の俺
think
恋愛
主人公とヒロイン、二人の視点から書いています。
幼稚園から大学まである私立一貫校に通う高校一年の犬飼優人。
司優里という小学五年生の女の子に出会う。
彼女は体調不良だった。
同じ学園の学生と分かったので背負い学園の保健室まで連れていく。
そうしたことで彼女に好かれてしまい
告白をうけてしまう。
友達からということで二人の両親にも認めてもらう。
最初は妹の様に想っていた。
しかし彼女のまっすぐな好意をうけ段々と気持ちが変わっていく自分に気づいていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる