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第一章 初めての務め
020 実物
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大黒様は父の部屋の場所を分かって行動しており勝手に進んでいく。
ドアをノックすると『どうぞ、入りなさい』と返事があった。父に叱られに来ているような感覚があり、躊躇いがちにドアを開けて部屋に入った。
父はパソコンデスクの椅子に腰かけており、これまでと違い穏やかな表情で瑞貴を迎えてくれた。
「おっ、大黒様も一緒ですね。……まぁ、座りなさい」
二人は部屋の隅に置いてあるソファーに座ることを勧められた。
「さっきは悪かったな、突然だったから父さんも驚いたんだ」
父自身も表情や態度を変化させ過ぎていたことに気付いていたのだろう。そのことに気付いていながらも落ち着いた対応を出来ない程に慌てていたことになる。
「正直に言えば、こんなにも早く『浄玻璃鏡の太刀』の出番が来ると思ってなかった」
「……出番が早かっただけで、来るのは分かってたんだ」
「まぁ、そうだな」
閻魔からの接触が、父の想定よりも早かったことになる。30分の時間は父が気持ちを整理する上でも必要な時間だったのかもしれない。
「『浄玻璃鏡の太刀』って何なの?『浄玻璃鏡』だけなら調べることが出来たんだけど『太刀』なんてなかった?」
「……そうだな。本来は『鏡』だった物を神媒師の為に『太刀』に作り変えたものになる」
「えっ?……神媒師の為に作られた物ってこと?」
神媒師として与えられている能力は多くない。連絡手段もスマホであり滝川家限定で継承する必要がないほどに『特別感』は薄かった。
そのことを前提にして考えると神媒師の為に作られた道具の存在は意外だった。
「そうだな、先ずは『浄玻璃鏡の太刀』の実物を見た方が早い」
瑞貴は、部屋に入ってから気付かれないように探してはいた。『太刀』と言われているのであれば刀の様な物があるはず。
しかし、それらしき物は見当たらなかった。
「……どこに仕舞ってあるの?」
父は椅子から杖を使って立ち上がり、瑞貴の前に立っていた。
父と瑞貴の間にはテーブルがある。
「ずっと、お前の目の前に置いてある」
「へっ?」
間抜けな声が出てしまうが、目の前のテーブルには何も置かれていないのだから仕方がない。
瑞貴がイメージしていた物と違っているから気付かなかったわけではなく、テーブルの上には本当に何も存在していない。
「瑞貴、手を出しなさい。……手を開いたままで、手の平を下にして……」
指示通りに瑞貴は手を差し出して父は瑞貴の横に腰かけた。
そして、隣から瑞貴の右手を掴んで開かれたままの瑞貴の手をテーブル近くまで下げていく。、
「……この位置で手を握ってみなさい」
言われた通りに手の平を閉じていく。
手を握った瞬間、手に感触が伝わり『太刀』は姿を現した。テーブルの上には立派な太刀が載っていることを視認できるようになっている。
「な、何、これって?」
「今のお前が触れることで、認識できるようになったんだ。……これが、『浄玻璃鏡の太刀』だ」
全長は1メートルを少し超えていそうなくらい。柄も鞘も鮮やかな朱色で統一されていた。
ただし、柄頭に取り付けた白色と黒色の紐で全体をグルグル巻きにされており紐を解かなければ鞘は抜けなくなっている。
閻魔大王から指定の品なので禍々しい姿を想像していたが優美さを感じられる太刀だった。
それでも簡単に鞘が抜けないような仕様になっていることの意味を考える必要がある。
「これで、閻魔様からのメールに書いてあった通り『浄玻璃鏡の太刀に触れろ』の指示には従ったことになるのかな?」
「そうだな、刀が見えるようになっていれば問題ないはずだ」
確かに『触れて』はいるのだから、書いてあった約束事は守ったことになる。
この状態で明日の朝、熱田神宮に行けば何かが起こるはずだ。
「……でも、何か危険じゃなことがあるんじゃないの?」
瑞貴の口から『浄玻璃鏡の太刀』のことを聞いた時の父の反応は普通ではなかった。
何かあるのであれば事前に知っておきたかった。それが危険な事であったとしても知らないでいる恐怖の方が瑞貴には嫌だった。
ドアをノックすると『どうぞ、入りなさい』と返事があった。父に叱られに来ているような感覚があり、躊躇いがちにドアを開けて部屋に入った。
父はパソコンデスクの椅子に腰かけており、これまでと違い穏やかな表情で瑞貴を迎えてくれた。
「おっ、大黒様も一緒ですね。……まぁ、座りなさい」
二人は部屋の隅に置いてあるソファーに座ることを勧められた。
「さっきは悪かったな、突然だったから父さんも驚いたんだ」
父自身も表情や態度を変化させ過ぎていたことに気付いていたのだろう。そのことに気付いていながらも落ち着いた対応を出来ない程に慌てていたことになる。
「正直に言えば、こんなにも早く『浄玻璃鏡の太刀』の出番が来ると思ってなかった」
「……出番が早かっただけで、来るのは分かってたんだ」
「まぁ、そうだな」
閻魔からの接触が、父の想定よりも早かったことになる。30分の時間は父が気持ちを整理する上でも必要な時間だったのかもしれない。
「『浄玻璃鏡の太刀』って何なの?『浄玻璃鏡』だけなら調べることが出来たんだけど『太刀』なんてなかった?」
「……そうだな。本来は『鏡』だった物を神媒師の為に『太刀』に作り変えたものになる」
「えっ?……神媒師の為に作られた物ってこと?」
神媒師として与えられている能力は多くない。連絡手段もスマホであり滝川家限定で継承する必要がないほどに『特別感』は薄かった。
そのことを前提にして考えると神媒師の為に作られた道具の存在は意外だった。
「そうだな、先ずは『浄玻璃鏡の太刀』の実物を見た方が早い」
瑞貴は、部屋に入ってから気付かれないように探してはいた。『太刀』と言われているのであれば刀の様な物があるはず。
しかし、それらしき物は見当たらなかった。
「……どこに仕舞ってあるの?」
父は椅子から杖を使って立ち上がり、瑞貴の前に立っていた。
父と瑞貴の間にはテーブルがある。
「ずっと、お前の目の前に置いてある」
「へっ?」
間抜けな声が出てしまうが、目の前のテーブルには何も置かれていないのだから仕方がない。
瑞貴がイメージしていた物と違っているから気付かなかったわけではなく、テーブルの上には本当に何も存在していない。
「瑞貴、手を出しなさい。……手を開いたままで、手の平を下にして……」
指示通りに瑞貴は手を差し出して父は瑞貴の横に腰かけた。
そして、隣から瑞貴の右手を掴んで開かれたままの瑞貴の手をテーブル近くまで下げていく。、
「……この位置で手を握ってみなさい」
言われた通りに手の平を閉じていく。
手を握った瞬間、手に感触が伝わり『太刀』は姿を現した。テーブルの上には立派な太刀が載っていることを視認できるようになっている。
「な、何、これって?」
「今のお前が触れることで、認識できるようになったんだ。……これが、『浄玻璃鏡の太刀』だ」
全長は1メートルを少し超えていそうなくらい。柄も鞘も鮮やかな朱色で統一されていた。
ただし、柄頭に取り付けた白色と黒色の紐で全体をグルグル巻きにされており紐を解かなければ鞘は抜けなくなっている。
閻魔大王から指定の品なので禍々しい姿を想像していたが優美さを感じられる太刀だった。
それでも簡単に鞘が抜けないような仕様になっていることの意味を考える必要がある。
「これで、閻魔様からのメールに書いてあった通り『浄玻璃鏡の太刀に触れろ』の指示には従ったことになるのかな?」
「そうだな、刀が見えるようになっていれば問題ないはずだ」
確かに『触れて』はいるのだから、書いてあった約束事は守ったことになる。
この状態で明日の朝、熱田神宮に行けば何かが起こるはずだ。
「……でも、何か危険じゃなことがあるんじゃないの?」
瑞貴の口から『浄玻璃鏡の太刀』のことを聞いた時の父の反応は普通ではなかった。
何かあるのであれば事前に知っておきたかった。それが危険な事であったとしても知らないでいる恐怖の方が瑞貴には嫌だった。
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