神媒師 《第一章・完結》

ふみ

文字の大きさ
上 下
19 / 110
第一章 初めての務め

019 緊張感

しおりを挟む
 14時過ぎになって両親は帰宅した。
 夕飯の買い物も済ませてきたらしく母は冷蔵庫に買ってきた物を入れている。そして、ゆっくりと後から家に入ってきた父に瑞貴は声をかけた。

「おかえり」
「おっ、ただいま。……珍しいな。お前が下で待っているなんて」

 外出していなければ自室に居ることが多い。その瑞貴がリビングで待っていたことを意外に感じた父は何か察知することもあったかもしれない。

 改まった雰囲気で父に相談をすることに多少の緊張があった。家族仲も良かったので他愛無い話は気軽にしてきたが今回は相談内容に問題がある。

「あのさ、『浄玻璃鏡じょうはりのかがみの太刀』って家にあるの?」

 父の表情が明らかに変化した。
 一つの単語に対する反応としては異常と感じられるほどの変化で、恐怖を感じるほどに強い目で瑞貴を凝視している。

「それについて、何か聞かされたのか?」

 父の言葉には厳しさが込められていた。いつもの柔らかさは感じられず誤魔化すことを許さない厳しさがある。

「うん、……また、メールがあったんだ。閻魔様からのメールで『浄玻璃鏡の太刀』に『触れろ』って書かれてたんだ」
「ただ、『触れろ』って書かれてあっただけか?」
「まぁ、明日の朝に熱田神宮へ来いって指示もあった。それで、行く前までに『浄玻璃鏡の太刀』は『触れて』おけって書かれてたんだ」
「……先ずは『触れる』だけ……、だな?」

 瑞貴はうなずいて返した。
 今の父の様子で『浄玻璃鏡の太刀』が取り扱い注意の品であることは明らかになった。それも、かなり危険な物かもしれず緊張感が増す。
 神様の装備品に名を連ねている物であれば危険な物であることも当然とは考えていた。大黒様との出会いが最初となっていたことで神媒師に対しての認識が『緩く』なっていたのかもしれない。

 父は自分の腕時計を確認してから。

「30分後、私の部屋に来なさい」

 瑞貴は、再び頷いただけで声を発することが出来なかった。
 メールを読んだ時には、父のこんな姿を全く想像しておらず大黒様を迎えた時のように和やかな会話を思い描いていたのかもしれない。


 約束の時間まで部屋で過ごすことにして大黒様を抱きかかえ自室に戻る。

――かなりヤバイ物なのか?

 神媒師になることに不安を抱いて憂鬱になっていたのは、こんな得体の知れない怖さがあったからなのだ。大黒様の登場で少し忘れてしまっていたのかもしれない感覚が戻ってくる。

「今回は、ちょっと緊張感がありますね?」

 部屋に戻ってアニメを見ている大黒様に話しかけてみた。この大黒様の状況に緊張感がなさ過ぎるのもいけなかった。
 落差がありすぎて対応に戸惑いを生んでしまう。

 父の反応を思い出しながら閻魔様について調べていると約束の時間になっていた。
 同じ二階の奥に父の部屋はある。

 瑞貴は大黒様も一緒に連れていくべきか迷っていると、大黒様はクッションから起き上がり準備を始めていた。

「一緒に行くってくれるんですか?」

 瑞貴の方をチラっと見ただけでドアの前まで進んでいった。

――やっぱり行くんだ。……実は閻魔様と仲良しだった。とかあるのかな?

 ヒンドゥー教が原型になっている神様だとしてもシヴァ神と関係があったのかは分からない。神様にも派閥もあるらしいので関係性は気になっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【☆完結☆】転生箱庭師は引き籠り人生を送りたい

うどん五段
ファンタジー
昔やっていたゲームに、大型アップデートで追加されたソレは、小さな箱庭の様だった。 ビーチがあって、畑があって、釣り堀があって、伐採も出来れば採掘も出来る。 ビーチには人が軽く住めるくらいの広さがあって、畑は枯れず、釣りも伐採も発掘もレベルが上がれば上がる程、レアリティの高いものが取れる仕組みだった。 時折、海から流れつくアイテムは、ハズレだったり当たりだったり、クジを引いてる気分で楽しかった。 だから――。 「リディア・マルシャン様のスキルは――箱庭師です」 異世界転生したわたくし、リディアは――そんな箱庭を目指しますわ! ============ 小説家になろうにも上げています。 一気に更新させて頂きました。 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

婚約破棄? ではここで本領発揮させていただきます!

昼から山猫
ファンタジー
王子との婚約を当然のように受け入れ、幼い頃から厳格な礼法や淑女教育を叩き込まれてきた公爵令嬢セリーナ。しかし、王子が他の令嬢に心を移し、「君とは合わない」と言い放ったその瞬間、すべてが崩れ去った。嘆き悲しむ間もなく、セリーナの周りでは「大人しすぎ」「派手さがない」と陰口が飛び交い、一夜にして王都での居場所を失ってしまう。 ところが、塞ぎ込んだセリーナはふと思い出す。長年の教育で身につけた「管理能力」や「記録魔法」が、周りには地味に見えても、実はとてつもない汎用性を秘めているのでは――。落胆している場合じゃない。彼女は深呼吸をして、こっそりと王宮の図書館にこもり始める。学問の記録や政治資料を整理し、さらに独自に新たな魔法式を編み出す作業をスタートしたのだ。 この行動はやがて、とんでもない成果を生む。王宮の混乱した政治体制や不正を資料から暴き、魔物対策や食糧不足対策までも「地味スキル」で立て直せると証明する。誰もが見向きもしなかった“婚約破棄令嬢”が、実は国の根幹を救う可能性を持つ人材だと知られたとき、王子は愕然として「戻ってきてほしい」と懇願するが、セリーナは果たして……。 ------------------------------------

小さな大魔法使いの自分探しの旅 親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします

藤なごみ
ファンタジー
※2024年10月下旬に、第2巻刊行予定です  2024年6月中旬に第一巻が発売されます  2024年6月16日出荷、19日販売となります  発売に伴い、題名を「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、元気いっぱいに無自覚チートで街の人を笑顔にします~」→「小さな大魔法使いの自分探しの旅~親に見捨てられたけど、無自覚チートで街の人を笑顔にします~」 中世ヨーロッパに似ているようで少し違う世界。 数少ないですが魔法使いがが存在し、様々な魔導具も生産され、人々の生活を支えています。 また、未開発の土地も多く、数多くの冒険者が活動しています この世界のとある地域では、シェルフィード王国とタターランド帝国という二つの国が争いを続けています 戦争を行る理由は様ながら長年戦争をしては停戦を繰り返していて、今は辛うじて平和な時が訪れています そんな世界の田舎で、男の子は産まれました 男の子の両親は浪費家で、親の資産を一気に食いつぶしてしまい、あろうことかお金を得るために両親は行商人に幼い男の子を売ってしまいました 男の子は行商人に連れていかれながら街道を進んでいくが、ここで行商人一行が盗賊に襲われます そして盗賊により行商人一行が殺害される中、男の子にも命の危険が迫ります 絶体絶命の中、男の子の中に眠っていた力が目覚めて…… この物語は、男の子が各地を旅しながら自分というものを探すものです 各地で出会う人との繋がりを通じて、男の子は少しずつ成長していきます そして、自分の中にある魔法の力と向かいながら、色々な事を覚えていきます カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しております

吾輩はネコである。名前はちび太。

マナシロカナタ✨ねこたま✨GCN文庫
キャラ文芸
作家志望の「ご主人様」と、同居するネコの「ちび太」が織りなす へーわでゆるーい日常。 ときどき「いもうと」。 猫の「ちび太」視点です。 しゃべれないけど言葉を解すのでちょっとだけファンタジー。 異世界転生しません。 チートありません。 天狼、ドラゴン、精霊神竜、ロボット倒しません。 荷電粒子砲うちません。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

【完結】姉は全てを持っていくから、私は生贄を選びます

かずきりり
恋愛
もう、うんざりだ。 そこに私の意思なんてなくて。 発狂して叫ぶ姉に見向きもしないで、私は家を出る。 貴女に悪意がないのは十分理解しているが、受け取る私は不愉快で仕方なかった。 善意で施していると思っているから、いくら止めて欲しいと言っても聞き入れてもらえない。 聞き入れてもらえないなら、私の存在なんて無いも同然のようにしか思えなかった。 ————貴方たちに私の声は聞こえていますか? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

こちらの異世界で頑張ります

kotaro
ファンタジー
原 雪は、初出勤で事故にあい死亡する。神様に第二の人生を授かり幼女の姿で 魔の森に降り立つ 其処で獣魔となるフェンリルと出合い後の保護者となる冒険者と出合う。 様々の事が起こり解決していく

処理中です...