神媒師 《第一章・完結》

ふみ

文字の大きさ
上 下
16 / 110
第一章 初めての務め

016 神様

しおりを挟む
「でも、滝川君って宗教とかに興味あるんだ。少し意外な感じがする」
「……興味はないかな。ただ知っているだけ」
「えっ、興味がないのに勉強したの?」

 瑞貴はうなずいていた。『神媒師』として必要な知識を得るために学んだにすぎなかったのだが、その方面に関しての資料は家の本棚に大量にあった。種類も豊富で歴史的な価値の高い物まで揃っている。

「……でもね、興味はなかったことだけど知れて良かったこともあるんだ」

 瑞貴の言葉を聞きながら、秋月は再びゆっくりと立ち上がった。大黒様が、もっと撫でてもらいたそうに見えたのは気のせいだろうか。

「どんなこと?」

 秋月が興味を持って問いかけてくることに少し疑問はあったが会話が途切れてしまうよりも遥かにマシだと思っている。しかしながら、神様や宗教についての話をする場合は言葉を選ばなければならないので気を抜くことは出来ない。
 
「神様でも仏様でも、自分の仕事が忙しすぎて誰かを救っている余裕なんて全くないんだ。……だから、結局は自分が頑張るしかないってことを知れた」

 瑞貴にとっては実害を被っているレベルであり、神様の仕事の手伝いをするために人間側が時間を費やしているのだ。大黒様との視察で出歩いている現在も該当している。

「えー、何だかガッカリな話。……それじゃあ、お参りしても意味はなの?」
「いや、ちゃんと意味はあると思う。……お参りすると気持ちは楽になるだろ?」
「……それだけ?」
「そう、それだけ。……でもね、それが一番重要なことだと思うんだ。宗教とかに過度な期待をするのは危険なことなんだ。救いの手を差し出してくれるのは、人間だけだってことを忘れてはダメなんだ」

 まず、人と人の関係があって、宗教だとかは次の段階であると瑞貴は考えていた。自分の価値を高めることなく生きてはダメなのだと父からも強く言われていた。 

「秋月さんは、高校受験の時に勉強はした?」
「もちろん、したよ。……すごく頑張った」
「それじゃあ、合格祈願とかに行ったりした?」
「うん、行った。」
「どうして?……勉強を頑張って実力をつけたんだったら合格祈願なんて非科学的なコトしなくても大丈夫じゃないの?」

 瑞貴は、この話で安心も得られている。一生懸命に考えている秋月が一気に身近な存在で可愛らしく思えて、当たり前のことであるが同い歳であることを意識した。

「……みんなも行ってたみたいだし。……お母さんが連れて行ってくれたから深く考えずにお参りしてた」
「でも逆に、合格祈願に効果があると思っているのなら受験勉強なんてしなくても合格できるんじゃないのかな?」
「えっ?……だって、勉強をしてないのに合格するはずないもの」

 おそらくは、この時点で矛盾に気付き始めている。
 もし、秋月が勉強をしないで合格祈願だけに全てを委ねてしまう思考の人間であれば、この問答は成立しない。

「それじゃあ、なんで合格祈願に連れていかれたんだろ?」

 今度は秋月も自問自答を始めてしまう。

「秋月さんは、合格祈願に行ったことで受験のストレスが和らいだりはしなかった?」
「……そうだった、かもしれない。……頑張って勉強したから、あとは神頼みって感じなのかな?」
「それは、秋月さんにとって無意味な時間だった?」
「意味はあったよ、すごく大切な時間だったと思う」
「さっきは『それだけ?』って言ってたのに、矛盾してるんじゃない?」

 意外そうな表情で『本当だ』と言っている秋月を見て瑞貴は思わず笑ってしまった。

 瑞貴自身も正解は分からないことなのだから強制することはしない。秋月本人が納得できる自分なりの結論に辿り着けていれば、それで良い。
 ただ、これは神媒師として様々な神様と向き合う必要がある瑞貴の考え方なのだ。一つの宗教的な考えには束縛されず柔軟に対応するための特殊性があるのかもしれず、他人に聞かせるべき話ではないかもしれない。

「ゴメン。……延々えんえんとこんな話をしちゃって」
「えっ、私が聞いたんだから、滝川君のせいじゃないよ。……それに私も知っておきたい話だったかもしれないから」
「神様についてのこと?」

 秋月からの返事はなく少しだけ表情に陰りが見えた。大黒様も心配そうに秋月を見上げている様子が瑞貴には不思議だった。

 瑞貴は調子に乗って余計な話に脱線していたことを反省する。高校1年生が休日にする話題としては、あまり好ましい内容ではないのかもしれない。
 もし、秋月が瑞貴の話に合わせてくれて『知っておきたい』と言っていただけであれば彼女の時間を奪ってしまったことになってしまう。

「わんっ!」

 最高のタイミングで一声上げてくれる。大黒様が全てを悟っているからのこその『』でもあった。

「家まで送るよ」

 瑞貴は明るく声をかけることができた。自己嫌悪に陥る前に、気持ちを切り替えることが出来たので空気を悪くすることもなく話を終えられた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

処理中です...