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第一章 初めての務め
014 閻魔大王
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短時間で随分と懐いてしまったものだと感心させられてしまう瑞貴だが、この件に関しては黙って従うわけにはいかない。それでも大黒様は秋月の後を追って歩いて行こうとする。
偶然に進みたい方向が同じ可能性だってあるが、女性の後を追いかけていくことには抵抗感しかない。
「大黒様、ダメですって!そっちには行かないでください!」
瑞貴の言葉に反応したのは秋月の方で、振り返ると瑞貴の予想に反して笑顔を見せて大黒様を見た。
「あれっ?……送ってくれるの?」
瑞貴に向けた言葉なのか大黒様に向けた言葉なのか分からなかったが少し嬉しそうな感じがしていた。
その言葉を聞くまでもなく当然のように大黒様は秋月の前を歩き始めており、瑞貴が言葉を挿む隙もなく『送っていく』ことが成立してしまっている。
大黒様は秋月の斜め前を歩いてしまい誰の犬なのか分からないほど堂々としていた。
「……急にどうしたんだろ?」
瑞貴と秋月は並んで歩くことになり、二人で大黒様の散歩をしているようになってしまい気恥ずかしさを感じる。瑞貴は秋月の家の方向を知らなかったが、先んじて歩く大黒様は何故か自信たっぷりで誘導してくれていた。
「大黒様は私を守ってくれるんだよ」
秋月がクスクスと笑いながら話をしてくれている。本当に楽し気な様子が伝わってくる柔らかな話し方だった。
――こんな話し方も出来るんだ
同じクラスというだけで瑞貴は秋月のことを何も知らない。瑞貴が知らないだけであり、本来の彼女は柔らかい空気に包まれていたのかもしれない。
瑞貴は心の中で少しだけ大黒様に感謝していた。
「……ある意味では最強のボディーガードかも」
世界を終わらせることが出来る無敵の存在なのだ。そんな力がなくても『シヴァ神』の名前は絶大である。
「それじゃぁ、これからもお願いしないとね」
「何か、気になることでもあるの?」
「……あっ、ううん。そういうわけじゃないんだけど」
秋月と大黒様で共通して気になることでもあるのかもしれないが、瑞貴は必要以上に踏み込むことを躊躇った。秋月と仲良くなれることは嬉しいが反面として怖さを感じてしまう。
この先に生まれるかもしれない感情は処理が難しくて厄介なモノになってしまうことは分かっている。
「……それなら、いいんだけど」
今の瑞貴にはここが限界である。
大黒様は一瞬だけ振り返り瑞貴を見ていたのだが、それすらも瑞貴は気付かないでいた。
ただ、関係を構築するときの経験が不足しているだけで、境界線の引き方が分からない。
――それでも今日は頑張った方だ
そんなことを考えて歩いているとメールの着信音が鳴った。
大黒様が来た時以来のメールである。
「着信音?」
「あっ、ゴメン。メールみたいだ」
「……メール?」
秋月は少し微妙な表情で瑞貴を見てから立ち止まってくれた。『読んでいいよ』と言う代わりに立ち止まってくれたのかもしれない。
だが、瑞貴には嫌な予感しかなく出来れば読みたくなかった。
秋月の前では読みたくない。今、この時間を台無しにしたくない。それでも待ってくれているのだから読むしかなくなってしまう。
スマホのメールアプリを展開して驚いた。送信者が『閻魔』となっている。
「えっ!?……閻魔って、閻魔大王?……閻魔大王って神様なの?」
思わず声に出してしまったことを後悔する。
やはり、ここで読むべき内容ではなかったのだ。案の定、秋月は怪訝な顔で瑞貴を見ていた。
「どうしたの急に?」
「いやっ、ゴメン。何でもないんだ。本当に」
慌てて弁明するが、不自然さは消せないだろう。それでも真実を話せないのだから言い訳を諦めるわけにはいかない。
「今やってるスマホゲームが開いてて、『閻魔大王』が神様側のキャラで登場したから驚いちゃったんだ」
そんなゲームが存在するのかも分からないが有耶無耶にするだけなので適当な言い訳で構わないと思っていた。
「……そう?」
それだけ言って、秋月はしゃがんで大黒様と遊び始めた。呆気なく聞き流されたことを残念と感じながらも、この程度で終えられた安心感も混在する複雑な心境。
メールの本文はと言えば、
『滝川瑞貴殿
明日、午前7時に熱田神宮の本宮前まで来られたし
先んじて浄玻璃鏡の太刀に触れることを忘れぬように
太刀の在処は父が知る』
今回は漢字が使用されており読みやすかった。
それでも『浄玻璃鏡の太刀』の読み方や意味が分からないでいた。
――『太刀』って太刀だよな?そんな物、家にあったか?
即座に理解出来たことは、明日の朝7時に熱田神宮に行けばいいと言うことだけ。
熱田神宮であれば歩いても行ける距離であり、明日は日曜日で学校は休み。特に支障のない場所や日時の指定に神様たちが気を遣ってくれているのだろうかと考えてしまう。
――閻魔大王の用事って、神社で済ませてもいいのかな?
閻魔様を祀っている寺ではなく、徒歩圏内の熱田神宮で用事を済ませてくれるのは助かるが少し心配になってしまった。
偶然に進みたい方向が同じ可能性だってあるが、女性の後を追いかけていくことには抵抗感しかない。
「大黒様、ダメですって!そっちには行かないでください!」
瑞貴の言葉に反応したのは秋月の方で、振り返ると瑞貴の予想に反して笑顔を見せて大黒様を見た。
「あれっ?……送ってくれるの?」
瑞貴に向けた言葉なのか大黒様に向けた言葉なのか分からなかったが少し嬉しそうな感じがしていた。
その言葉を聞くまでもなく当然のように大黒様は秋月の前を歩き始めており、瑞貴が言葉を挿む隙もなく『送っていく』ことが成立してしまっている。
大黒様は秋月の斜め前を歩いてしまい誰の犬なのか分からないほど堂々としていた。
「……急にどうしたんだろ?」
瑞貴と秋月は並んで歩くことになり、二人で大黒様の散歩をしているようになってしまい気恥ずかしさを感じる。瑞貴は秋月の家の方向を知らなかったが、先んじて歩く大黒様は何故か自信たっぷりで誘導してくれていた。
「大黒様は私を守ってくれるんだよ」
秋月がクスクスと笑いながら話をしてくれている。本当に楽し気な様子が伝わってくる柔らかな話し方だった。
――こんな話し方も出来るんだ
同じクラスというだけで瑞貴は秋月のことを何も知らない。瑞貴が知らないだけであり、本来の彼女は柔らかい空気に包まれていたのかもしれない。
瑞貴は心の中で少しだけ大黒様に感謝していた。
「……ある意味では最強のボディーガードかも」
世界を終わらせることが出来る無敵の存在なのだ。そんな力がなくても『シヴァ神』の名前は絶大である。
「それじゃぁ、これからもお願いしないとね」
「何か、気になることでもあるの?」
「……あっ、ううん。そういうわけじゃないんだけど」
秋月と大黒様で共通して気になることでもあるのかもしれないが、瑞貴は必要以上に踏み込むことを躊躇った。秋月と仲良くなれることは嬉しいが反面として怖さを感じてしまう。
この先に生まれるかもしれない感情は処理が難しくて厄介なモノになってしまうことは分かっている。
「……それなら、いいんだけど」
今の瑞貴にはここが限界である。
大黒様は一瞬だけ振り返り瑞貴を見ていたのだが、それすらも瑞貴は気付かないでいた。
ただ、関係を構築するときの経験が不足しているだけで、境界線の引き方が分からない。
――それでも今日は頑張った方だ
そんなことを考えて歩いているとメールの着信音が鳴った。
大黒様が来た時以来のメールである。
「着信音?」
「あっ、ゴメン。メールみたいだ」
「……メール?」
秋月は少し微妙な表情で瑞貴を見てから立ち止まってくれた。『読んでいいよ』と言う代わりに立ち止まってくれたのかもしれない。
だが、瑞貴には嫌な予感しかなく出来れば読みたくなかった。
秋月の前では読みたくない。今、この時間を台無しにしたくない。それでも待ってくれているのだから読むしかなくなってしまう。
スマホのメールアプリを展開して驚いた。送信者が『閻魔』となっている。
「えっ!?……閻魔って、閻魔大王?……閻魔大王って神様なの?」
思わず声に出してしまったことを後悔する。
やはり、ここで読むべき内容ではなかったのだ。案の定、秋月は怪訝な顔で瑞貴を見ていた。
「どうしたの急に?」
「いやっ、ゴメン。何でもないんだ。本当に」
慌てて弁明するが、不自然さは消せないだろう。それでも真実を話せないのだから言い訳を諦めるわけにはいかない。
「今やってるスマホゲームが開いてて、『閻魔大王』が神様側のキャラで登場したから驚いちゃったんだ」
そんなゲームが存在するのかも分からないが有耶無耶にするだけなので適当な言い訳で構わないと思っていた。
「……そう?」
それだけ言って、秋月はしゃがんで大黒様と遊び始めた。呆気なく聞き流されたことを残念と感じながらも、この程度で終えられた安心感も混在する複雑な心境。
メールの本文はと言えば、
『滝川瑞貴殿
明日、午前7時に熱田神宮の本宮前まで来られたし
先んじて浄玻璃鏡の太刀に触れることを忘れぬように
太刀の在処は父が知る』
今回は漢字が使用されており読みやすかった。
それでも『浄玻璃鏡の太刀』の読み方や意味が分からないでいた。
――『太刀』って太刀だよな?そんな物、家にあったか?
即座に理解出来たことは、明日の朝7時に熱田神宮に行けばいいと言うことだけ。
熱田神宮であれば歩いても行ける距離であり、明日は日曜日で学校は休み。特に支障のない場所や日時の指定に神様たちが気を遣ってくれているのだろうかと考えてしまう。
――閻魔大王の用事って、神社で済ませてもいいのかな?
閻魔様を祀っている寺ではなく、徒歩圏内の熱田神宮で用事を済ませてくれるのは助かるが少し心配になってしまった。
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