神媒師 《第一章・完結》

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第一章 初めての務め

009 新たな日常

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 瑞貴の誕生日は慌ただしく過ぎてしまっていた。憂鬱な気分は消え去り、何もしていないはずなのに疲れ切ってしまっている。
 部屋に戻って勉強している間、大黒様には子どもアニメチャンネルの視聴で楽しんでもらうことにした。テレビには興味があるらしい。

――さすがに大丈夫だろ?

 アニメを食い入るように見ている姿は可笑しいし、可愛らしい。
 頭に直接響いた『むにかえす』と言っていた声も、幼い子どものようだったことを瑞貴は思い出していた。

――シヴァ神が子どもってことはないはずなんだけど

 その日は早く眠ることにして、大黒様にテレビを諦めるように説得することにした。
 渋々従う姿を子犬らしい可愛さと捉えるか神様の我儘と捉えるかで見え方が違ってしまう。

※※※※※※※※※※

 大黒様を迎えた翌日の朝、両親からの申し訳なさそうに御祝いの言葉を聞かされることになった。
 昨日の朝は、両親の都合で瑞貴が起きた時には既に外出しており、帰宅後のバタバタ感で忘れられてしまったのは仕方ないのかもしれない。

「そう言えば、誕生日おめでとう」

 せっかくの言葉でも『そう言えば』と前置きされてしまえば、台無しになってしまう。

「あっ、うん。ありがとう」

 これだけだと冷めた家族関係のように感じられてしまうが、瑞貴は両親に感謝しており、尊敬の念も持っている。神媒師のことを含めても会話する機会は多くあったし、それをうとましく感じていることもなかった。とにかく、今年は仕方ない。

 大黒様も一緒の朝食を済ませて部屋に戻る。二階にある瑞貴の部屋に行くには階段を上らなければならないが、大黒様の短い手足で階段の上り下りは不可能なため、『失礼します』と声をかけて瑞貴が抱えることになる。

「俺が学校に行っている間は、留守番をお願いします」

 昼寝用ベッドとお水、それにビスケットを数枚。全て当然のように全て犬用なのだが体制は整えてはある。
 トイレも犬用で準備しているのだが、大黒様が不機嫌になっている様子は見受けられない。部屋の隅で物陰に隠れて用を足せるようには気遣ったつもりだ。

 留守番を理解した大黒様は、テレビの前まで歩いていきお座りをした。

「わんっ!」

 昨晩、眠りにつく前は一生懸命見ていたので、続きが気になっているのかもしれない。

「えっ、テレビを点けるんですか?」

 映画で学習してテレビの中に映る演出された世界と現実世界の違いは分かってくれていると思うが、念のため。

「あの、これはアニメで事実ではないですから楽しく見てくださいね」

 大黒様の表情は、『そんなこと分かっている』と言わんばかりであり力強いモノだった。
 テレビを点けると画面に集中してしまい、瑞貴の言葉には全く反応してくれなかった。

 両親には部屋のテレビが点けっぱなしであることを伝え、学校へ行くことにした。

――神媒師の役割って言うよりも、犬を飼い始めた感覚に近いのかな?……でも、本当の子犬を飼うより、ある意味では楽なのかもしれない

 破壊衝動さえ抑えることが出来れば、ただの子犬よりも聞き訳が良い。
 しかしながら、その破壊衝動の規模が問題にはなりそうだった。

※※※※※※※※※※

 以後、明確な目的が分からないため大黒様が現世を視察する活動が最優先となり、瑞貴は行動を共にすることになった。

 瑞貴が学校に行く前の早朝と帰った後の夕方、現世の視察を実施されることにした。依代である子犬の身体をおもんばかり、のんびりと近所を歩く程度に考えている。
 ただの『散歩』と言われれば否定することは難しいかもしれなかった。

 視察だけでは不足してしまう情報は、ニュースや新聞も活用することで補っている。報道のされ方や記事の内容によっては瑞貴の頭で『むにかえす』が響く危険な状況におちいることもある。

「大黒ちゃん、この事件の犯人は捕まってるから大丈夫」

 母が顛末てんまつを説明して、ビスケットを食べさせてなだめてしまう。声が聞こえていないはずの母が容易く大黒様の変化に対応してしまう様子を見ていると、ビスケットが食べたいだけでないかと疑いたくなる。

 躊躇いながら使い始めた『大黒様』呼びも問題なく受け入れてくれたらしい。
 それでも、瑞貴と父は『大黒様』と敬いの気持ちを忘れずに呼んでいるのだが、母だけは『大黒ちゃん』呼びが定着してしまっていた。
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