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第一章 初めての務め
006 第六感
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そんな状態で一時間近く過ごしていると玄関でドアの開く音が聞こえてきた。両親が帰宅したことを報せてくれる。
「ただいま」
両親それぞれが手に大きなビニール袋を持っており、家の主であるにも関わらず様子を窺うようにリビングに入ってきた。かなり急いで帰宅してくれたのだろう、普段よりも帰宅時間は早かった。
そして、父は恐る恐るの雰囲気で声をかけてくる。
「瑞貴、その犬が『そう』なのか?」
瑞貴は父からの問いに『たぶんね』とだけ答えた。
いつの間にか子柴犬は起きており、座布団の上でお座りの体勢をしていた。そして、帰ってきたばかりの両親を眺めている。
父の慎重な態度とは対照的に母はニコニコしながら子犬の横に座ってしまう。
「随分と可愛らしいお客様ね」
母も滝川家の事情は理解しているはずなのだが、男二人の態度とは全く別のモノで余裕が感じられた。ただの子犬に接する態度でしかなく、緊張している様子は全く見られなかった。
母が選ぶ言葉は『神様』に対して使うものではなかったので、瑞貴は冷や冷やしながら聞いていた。過去、不遜な態度が原因で罰を受けた神媒師がいるのか聞かされていないが『可愛らしい』は瑞貴は現状で口にすることは出来ない。
そして、母は躊躇うことなく子犬の頭に手を伸ばした。
「あっ……」
瑞貴は母の行動を制止しようとしたのだが間に合わなかった。
もし短い前足が届いたとしても柔らかい肉球に振り払われるだけでダメージを負うことはないだろうが瑞貴は慌てる。
「えっ?」
瑞貴の予想を大きく覆して子柴犬は母親に黙って撫でられてしまっていた。眠っている時にだけ触れることが出来た瑞貴と対応が違う。
「本当に、この子犬がそうなのか?」
母に大人しく撫でられている子柴犬を見てしまったことで、父も信じられなくなっていた。
「……そう思ってたんだけど、これを見てると自信がなくなってきた」
「俺へのメールには『シヴァ神』って書いてあったけど、直接聞いたんじゃないのか?」
「いや、聞いたんじゃなくて、本人からメールが届いたんだ。」
「本人からの、メール?」
父の疑問を消し去るため、瑞貴は自分宛てに届いたメールを読ませることにした。画面を展開をして父に渡す。
「平仮名ばっかりで読み難いな。……でも、意味は分かる」
スマホを瑞貴に返しながら、ほとんど同じ感想を述べる。
「お前にメール以外で話しかけたりはしてこないのか?」
「いや、メールだけ。俺が話しかけると、ジッと見てるから言葉は理解しているとは思う」
「……メールを送ってるのに話してこないのか?」
「現状では」
「これだけの神が、喋らないってことがあるのか?」
「その比較は俺じゃ出来ないよ。神媒師として初めての神様なんだから。……でも、喋らないから子犬にしか見えないよね?」
「この世界で活動するための依代でしかないはずなんだが……」
瑞貴の本音では、100パーセント自信を持って『神様』として認定をするだけの証拠はない。メールが届いたタイミングも偶然かもしれないのだ。
男二人が会話をしている間も小柴犬を撫で続けていた母が視線を上げて瑞貴の顔と父を見た。
「間違いないわ。この子、普通の犬とは違う気配がするの」
「えっ、母さん分かるの?」
「……あなたたちが分からないほうが問題よ」
全くもって、情けない話ではある。
滝川家の血筋で受け継いでいる神媒師と関係のない母親が、唯一人強く確信していた。
あれこれと状況を繋ぎ合わせて解決しようとしている男たちを他所に、感覚勝負の『気配』だけで答えを導き出してしまったことになる。
「まぁ、母さんが間違いないって言うのなら、間違いないな」
「そんな他力本願な結論でいいの?『神媒師』ってそんな程度のものなの?」
先代神媒師が太鼓判を押している母の直感であれば問題ないかもしれない。両親には瑞貴の知らない関係性があるのかもしれない。
ゆったりマイペースな母が、不思議な感性を持っていることは意外でしかなかった。
「ただいま」
両親それぞれが手に大きなビニール袋を持っており、家の主であるにも関わらず様子を窺うようにリビングに入ってきた。かなり急いで帰宅してくれたのだろう、普段よりも帰宅時間は早かった。
そして、父は恐る恐るの雰囲気で声をかけてくる。
「瑞貴、その犬が『そう』なのか?」
瑞貴は父からの問いに『たぶんね』とだけ答えた。
いつの間にか子柴犬は起きており、座布団の上でお座りの体勢をしていた。そして、帰ってきたばかりの両親を眺めている。
父の慎重な態度とは対照的に母はニコニコしながら子犬の横に座ってしまう。
「随分と可愛らしいお客様ね」
母も滝川家の事情は理解しているはずなのだが、男二人の態度とは全く別のモノで余裕が感じられた。ただの子犬に接する態度でしかなく、緊張している様子は全く見られなかった。
母が選ぶ言葉は『神様』に対して使うものではなかったので、瑞貴は冷や冷やしながら聞いていた。過去、不遜な態度が原因で罰を受けた神媒師がいるのか聞かされていないが『可愛らしい』は瑞貴は現状で口にすることは出来ない。
そして、母は躊躇うことなく子犬の頭に手を伸ばした。
「あっ……」
瑞貴は母の行動を制止しようとしたのだが間に合わなかった。
もし短い前足が届いたとしても柔らかい肉球に振り払われるだけでダメージを負うことはないだろうが瑞貴は慌てる。
「えっ?」
瑞貴の予想を大きく覆して子柴犬は母親に黙って撫でられてしまっていた。眠っている時にだけ触れることが出来た瑞貴と対応が違う。
「本当に、この子犬がそうなのか?」
母に大人しく撫でられている子柴犬を見てしまったことで、父も信じられなくなっていた。
「……そう思ってたんだけど、これを見てると自信がなくなってきた」
「俺へのメールには『シヴァ神』って書いてあったけど、直接聞いたんじゃないのか?」
「いや、聞いたんじゃなくて、本人からメールが届いたんだ。」
「本人からの、メール?」
父の疑問を消し去るため、瑞貴は自分宛てに届いたメールを読ませることにした。画面を展開をして父に渡す。
「平仮名ばっかりで読み難いな。……でも、意味は分かる」
スマホを瑞貴に返しながら、ほとんど同じ感想を述べる。
「お前にメール以外で話しかけたりはしてこないのか?」
「いや、メールだけ。俺が話しかけると、ジッと見てるから言葉は理解しているとは思う」
「……メールを送ってるのに話してこないのか?」
「現状では」
「これだけの神が、喋らないってことがあるのか?」
「その比較は俺じゃ出来ないよ。神媒師として初めての神様なんだから。……でも、喋らないから子犬にしか見えないよね?」
「この世界で活動するための依代でしかないはずなんだが……」
瑞貴の本音では、100パーセント自信を持って『神様』として認定をするだけの証拠はない。メールが届いたタイミングも偶然かもしれないのだ。
男二人が会話をしている間も小柴犬を撫で続けていた母が視線を上げて瑞貴の顔と父を見た。
「間違いないわ。この子、普通の犬とは違う気配がするの」
「えっ、母さん分かるの?」
「……あなたたちが分からないほうが問題よ」
全くもって、情けない話ではある。
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あれこれと状況を繋ぎ合わせて解決しようとしている男たちを他所に、感覚勝負の『気配』だけで答えを導き出してしまったことになる。
「まぁ、母さんが間違いないって言うのなら、間違いないな」
「そんな他力本願な結論でいいの?『神媒師』ってそんな程度のものなの?」
先代神媒師が太鼓判を押している母の直感であれば問題ないかもしれない。両親には瑞貴の知らない関係性があるのかもしれない。
ゆったりマイペースな母が、不思議な感性を持っていることは意外でしかなかった。
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