1 / 110
第一章 初めての務め
001 憂鬱
しおりを挟む
『貴方は神を信じますか?』
16歳の誕生日を迎えた滝川瑞貴は周囲の人間に聞いてみたい衝動に駆られていた。ただし、そんな質問を繰り返してしまえば怪しげな宗教の勧誘と疑われてしまい人間関係を破綻させてしまうかもしれない。
神様が人間の願いを叶えるために何かをしてくれることはなく、勝手に人間が心の拠り所にしていることを瑞貴は理解している。そして、自分の願いが聞き届けられないからと言って積極的に神様を責め立てる人もいないことも知っている。
信仰心とは見返りを求めることではなく、信じる心を持つことで救われるものだと瑞貴は考えていた。
瑞貴は子どもの頃から神様の存在について父親から散々聞かせれていた。宗教ごとに隔たりのある漠然とした概念ではなく、具体的な『神様』の存在についてだ。
そして、父から話を聞かされていた瑞貴には『神様=面倒な存在』の認識しかない。
篤い信仰心を持っている人たちからすれば失礼極まりない認識ではあるがやむを得ないものだと瑞貴は考える。瑞貴には神様を敬う気持ちもあるが、それでも面倒な存在なのだ。
『貴方は神を信じますか?』
この質問を瑞貴が受けたとすれば、
「俺が信じていなかったら、大変なことになりますよ」
と答えることになるだろう。16歳のなった瑞貴は、おそらく世界中の誰よりも神様に近い存在になっていたのだから当然の答え。
※※※※※※※※※※
「11月12日って、お前の誕生日じゃなかったか?」
憂鬱な気分の原因を再認識させられる一言が聞こえてきた。
授業は終わっていたのだが、席に座ったまま帰り支度にダラダラと時間をかけてしまったことが災いした。
この時間まで誰からも祝われなかったことで油断が生まれていたのだろう。窓から外の景色を眺めてしまい、正面に人が立っていることにも気付いていなかった。
「……そうだけど、よく覚えてたな」
昨日までの15歳の瑞貴と今日から始まる16歳の瑞貴。外見的に何も変わっていないが、実は目には映らない違いが確実に生まれている。
瑞貴は、視線を正面の人物に向き直していた。
「残念な日付だったから、記憶に残ってたんだよ。それに去年だって覚えてたから祝ってあげたはずだぞ」
「……ゴメン、覚えてない。……それにしても、残念な日付って何?人の誕生日を嫌な言い方するなよ」
「いや、だって、あと1日早ければ、1が4つ並んだって考えたら残念だろ?」
1が並んでいることで有名なお菓子の記念日になっている日。
声をかけてきた同じクラスの清水幸多はそんな覚え方をしていたのだ。ちなみに、彼の誕生日は5月10日であり、『こうた』となったと聞かされたことがある。
彼は、名前と誕生日が語呂合わせになって覚えやすく、他人の誕生日も記憶しやすい方法を思案していたのかもしれない。
清水は、瑞貴の中学時代からの友人である。広く浅い友人関係の中では、比較的深い方に区分される友人であり、瑞貴の相関図を広げてくれている人物だった。
清水の存在がなければ、狭く浅い友人関係となってしまい、もっと寂しい学生生活になっていたかもしれない。そういう意味では感謝していないこともなかった。
「わざわざ声をかけてきたんだから、当然何かくれるんだろ?」
「俺だって貰ってないのに、準備してると思うか?世の中、ギブアンドテイクが基本だよ。ただ、確認してみただけだよ。……まぁ、確認ついでに、おめでとうだけは言っとく」
ぶっきらぼうに答えている瑞貴に対して、清水は終始ニコニコしてくれていた。
「まぁ、ありがとう」
瑞貴は感情表現が、あまり上手い人間ではない。特に今回が16回目の誕生日であることで少し複雑な心境にもなっていた。
人付き合いが苦手なわけでもなければ、人間が嫌いと言うこともない。淡々と話をしてしまうタイプであることで瑞貴は損をしていたため、清水のように積極的に接してくれるタイプは有難い存在でもある。
多くを語ることは難しくても、瑞貴なりに一生懸命に清水と向き合ってはいた。
「まぁ、男からのプレゼントなんて余計に憂鬱になるから、欲しくはないけど……」
「誕生日なのに、憂鬱なのか?」
「ちょっとね」
家族以外の人間が誕生日を覚えてくれていたことに嬉しさを感じていないわけではなかったが、16歳の誕生日であったことが大きく起因して素直に喜べていない。
「男からのプレゼントで憂鬱になるなら、女の子からプレゼントを貰えれば憂鬱な気分は解消されるんじゃないのか?」
「そんなことあり得ないって分かって言ってる?」
「いや……、可能性はゼロじゃないと思ってるんだけど……」
茶化す意図を込めた言葉ではないらしく、少しだけ真顔になって清水が反論した。
だが、瑞貴に彼女がいないことは清水も知っているし、清水に気付かれることなく彼女を作ることも不可能なこと。そもそもプレゼンの有無が影響して憂鬱になっているわけでもない。
「まぁ、今年は仕方ないとしても、来年に期待だな」
「何で、俺の誕生日のことでお前が期待するんだよ」
会話の主導権を清水に握られてしまい、瑞貴は苦笑いするしかなかった。
「それでも、家族からは何かは貰えるんだろ?多少は気分が晴れるんじゃないのか?」
「いや、誕生日とクリスマスの制度は15歳までって決まってるから、何もないよ」
「何それ、滝川家オリジナルのルールってこと?もしかして憂鬱の原因はそれか?」
「まさか……。さすがにそんなことくらいで、落ち込んだりはしない。……16歳になるってことが問題なんだ」
「なんだよ、年取ると誕生日が嬉しくなくなるとか言うけど、若いうちは喜ばないと……だろ?」
年齢と云うシステムが大雑把過ぎると瑞貴は考えていた。
身長は169センチと小刻みに測定されており、170センチで申告すると鯖読みと言われてしまう。だが、誕生日は途中に閏年で微調整がされて一年のカウントが曖昧になっているので本当に16歳なのか疑問が残る。
悪足搔きでしかない考え方だが、少しでも遅らせたい理由があった。
「我が家の決まりで16歳を過ぎると、ある役割が生まれるんだよ」
16歳の誕生日を迎えた滝川瑞貴は周囲の人間に聞いてみたい衝動に駆られていた。ただし、そんな質問を繰り返してしまえば怪しげな宗教の勧誘と疑われてしまい人間関係を破綻させてしまうかもしれない。
神様が人間の願いを叶えるために何かをしてくれることはなく、勝手に人間が心の拠り所にしていることを瑞貴は理解している。そして、自分の願いが聞き届けられないからと言って積極的に神様を責め立てる人もいないことも知っている。
信仰心とは見返りを求めることではなく、信じる心を持つことで救われるものだと瑞貴は考えていた。
瑞貴は子どもの頃から神様の存在について父親から散々聞かせれていた。宗教ごとに隔たりのある漠然とした概念ではなく、具体的な『神様』の存在についてだ。
そして、父から話を聞かされていた瑞貴には『神様=面倒な存在』の認識しかない。
篤い信仰心を持っている人たちからすれば失礼極まりない認識ではあるがやむを得ないものだと瑞貴は考える。瑞貴には神様を敬う気持ちもあるが、それでも面倒な存在なのだ。
『貴方は神を信じますか?』
この質問を瑞貴が受けたとすれば、
「俺が信じていなかったら、大変なことになりますよ」
と答えることになるだろう。16歳のなった瑞貴は、おそらく世界中の誰よりも神様に近い存在になっていたのだから当然の答え。
※※※※※※※※※※
「11月12日って、お前の誕生日じゃなかったか?」
憂鬱な気分の原因を再認識させられる一言が聞こえてきた。
授業は終わっていたのだが、席に座ったまま帰り支度にダラダラと時間をかけてしまったことが災いした。
この時間まで誰からも祝われなかったことで油断が生まれていたのだろう。窓から外の景色を眺めてしまい、正面に人が立っていることにも気付いていなかった。
「……そうだけど、よく覚えてたな」
昨日までの15歳の瑞貴と今日から始まる16歳の瑞貴。外見的に何も変わっていないが、実は目には映らない違いが確実に生まれている。
瑞貴は、視線を正面の人物に向き直していた。
「残念な日付だったから、記憶に残ってたんだよ。それに去年だって覚えてたから祝ってあげたはずだぞ」
「……ゴメン、覚えてない。……それにしても、残念な日付って何?人の誕生日を嫌な言い方するなよ」
「いや、だって、あと1日早ければ、1が4つ並んだって考えたら残念だろ?」
1が並んでいることで有名なお菓子の記念日になっている日。
声をかけてきた同じクラスの清水幸多はそんな覚え方をしていたのだ。ちなみに、彼の誕生日は5月10日であり、『こうた』となったと聞かされたことがある。
彼は、名前と誕生日が語呂合わせになって覚えやすく、他人の誕生日も記憶しやすい方法を思案していたのかもしれない。
清水は、瑞貴の中学時代からの友人である。広く浅い友人関係の中では、比較的深い方に区分される友人であり、瑞貴の相関図を広げてくれている人物だった。
清水の存在がなければ、狭く浅い友人関係となってしまい、もっと寂しい学生生活になっていたかもしれない。そういう意味では感謝していないこともなかった。
「わざわざ声をかけてきたんだから、当然何かくれるんだろ?」
「俺だって貰ってないのに、準備してると思うか?世の中、ギブアンドテイクが基本だよ。ただ、確認してみただけだよ。……まぁ、確認ついでに、おめでとうだけは言っとく」
ぶっきらぼうに答えている瑞貴に対して、清水は終始ニコニコしてくれていた。
「まぁ、ありがとう」
瑞貴は感情表現が、あまり上手い人間ではない。特に今回が16回目の誕生日であることで少し複雑な心境にもなっていた。
人付き合いが苦手なわけでもなければ、人間が嫌いと言うこともない。淡々と話をしてしまうタイプであることで瑞貴は損をしていたため、清水のように積極的に接してくれるタイプは有難い存在でもある。
多くを語ることは難しくても、瑞貴なりに一生懸命に清水と向き合ってはいた。
「まぁ、男からのプレゼントなんて余計に憂鬱になるから、欲しくはないけど……」
「誕生日なのに、憂鬱なのか?」
「ちょっとね」
家族以外の人間が誕生日を覚えてくれていたことに嬉しさを感じていないわけではなかったが、16歳の誕生日であったことが大きく起因して素直に喜べていない。
「男からのプレゼントで憂鬱になるなら、女の子からプレゼントを貰えれば憂鬱な気分は解消されるんじゃないのか?」
「そんなことあり得ないって分かって言ってる?」
「いや……、可能性はゼロじゃないと思ってるんだけど……」
茶化す意図を込めた言葉ではないらしく、少しだけ真顔になって清水が反論した。
だが、瑞貴に彼女がいないことは清水も知っているし、清水に気付かれることなく彼女を作ることも不可能なこと。そもそもプレゼンの有無が影響して憂鬱になっているわけでもない。
「まぁ、今年は仕方ないとしても、来年に期待だな」
「何で、俺の誕生日のことでお前が期待するんだよ」
会話の主導権を清水に握られてしまい、瑞貴は苦笑いするしかなかった。
「それでも、家族からは何かは貰えるんだろ?多少は気分が晴れるんじゃないのか?」
「いや、誕生日とクリスマスの制度は15歳までって決まってるから、何もないよ」
「何それ、滝川家オリジナルのルールってこと?もしかして憂鬱の原因はそれか?」
「まさか……。さすがにそんなことくらいで、落ち込んだりはしない。……16歳になるってことが問題なんだ」
「なんだよ、年取ると誕生日が嬉しくなくなるとか言うけど、若いうちは喜ばないと……だろ?」
年齢と云うシステムが大雑把過ぎると瑞貴は考えていた。
身長は169センチと小刻みに測定されており、170センチで申告すると鯖読みと言われてしまう。だが、誕生日は途中に閏年で微調整がされて一年のカウントが曖昧になっているので本当に16歳なのか疑問が残る。
悪足搔きでしかない考え方だが、少しでも遅らせたい理由があった。
「我が家の決まりで16歳を過ぎると、ある役割が生まれるんだよ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
転生おばちゃんナースの異世界徒然日記
Debby
ファンタジー
私、ヴィヴィアーチェには前世の記憶がある。
名前は忘れちゃったけど、大往生した“おばちゃん”で、ウン十年看護師の経験がある女性の記憶だ。
あ、大往生したならおば“あ”ちゃんだろうという突っ込みは受け付けませんよ。孫がいたことまでは何となく覚えているけど、どちらかといえば30~40代くらいの記憶が強く残っていて、おばあちゃんだった感じがしないのよね。今世の身体は16歳だから尚更よ。
ある日、知り合いの薬屋さんから受けた仕事をこなすために目的地に向かう道中、怪我をした一匹の大型犬?を囲んで話し合う男女を見かけた。
短い話し合いの末、いつ魔獣が出てきて襲われてもおかしくない森の中に、なんの躊躇いもなく犬と共に置き去りにされてしまったお兄さんに、私は声をかけた。
「あなた、お裁縫は出来る?」
★
全話予約投稿済みです
作中に出てくる薬剤の使用や処置の方法について──あくまでもフィクションです。
それを含め、よろしくお願いします。
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~
ふゆ
ファンタジー
私は死んだ。
はずだったんだけど、
「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」
神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。
なんと幼女になっちゃいました。
まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!
エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか?
*不定期更新になります
*誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください!
*ところどころほのぼのしてます( ^ω^ )
*小説家になろう様にも投稿させていただいています
小さな小さな花うさぎさん達に誘われて、異世界で今度こそ楽しく生きます!もふもふも来た!
ひより のどか
ファンタジー
気がついたら何かに追いかけられていた。必死に逃げる私を助けてくれたのは、お花?違う⋯小さな小さなうさぎさんたち?
突然森の中に放り出された女の子が、かわいいうさぎさん達や、妖精さんたちに助けられて成長していくお話。どんな出会いが待っているのか⋯?
☆。.:*・゜☆。.:*・゜
『転生初日に妖精さんと双子のドラゴンと家族になりました。もふもふとも家族になります!』の、のどかです。初めて全く違うお話を書いてみることにしました。もう一作、『転生初日に~』の、おばあちゃんこと、凛さん(人間バージョン)を主役にしたお話『転生したおばあちゃん。同じ世界にいる孫のため、若返って冒険者になります!』も始めました。
よろしければ、そちらもよろしくお願いいたします。
*8/11より、なろう様、カクヨム様、ノベルアップ、ツギクルさんでも投稿始めました。アルファポリスさんが先行です。
神様のミスで女に転生したようです
結城はる
ファンタジー
34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。
いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。
目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。
美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい
死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。
気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。
ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。
え……。
神様、私女になってるんですけどーーーー!!!
小説家になろうでも掲載しています。
URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」
結界魔法しか使えない役立たずの聖女と言うなら国を見捨てることにします
黒木 楓
恋愛
伯爵令嬢の私ミーシアは、妹のミリザに従う日々を送っていた。
家族はミリザを溺愛しているから、私を助ける人はいない。
それでも16歳になって聖女と判明したことで、私はラザン王子と婚約が決まり家族から離れることができた。
婚約してから2年が経ち、ミリザが16歳となって聖女と判明する。
結界魔法しか使えなかった私と違い、ミリザは様々な魔法が使えた。
「結界魔法しか使えない聖女は役立たずだ。俺はミリザを王妃にする」
婚約者を変えたいラザン王子の宣言と人々の賛同する声を聞き、全てが嫌になった私は国を見捨てることを決意する。
今まで国が繁栄していたのは私の結界があったからなのに、国の人達はミリザの力と思い込んでいた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる