神媒師 《第一章・完結》

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第一章 初めての務め

001 憂鬱

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『貴方は神を信じますか?』

 16歳の誕生日を迎えた滝川瑞貴みずきは周囲の人間に聞いてみたい衝動に駆られていた。ただし、そんな質問を繰り返してしまえば怪しげな宗教の勧誘と疑われてしまい人間関係を破綻させてしまうかもしれない。

 神様が人間の願いを叶えるために何かをしてくれることはなく、勝手に人間が心の拠り所にしていることを瑞貴は理解している。そして、自分の願いが聞き届けられないからと言って積極的に神様を責め立てる人もいないことも知っている。
 信仰心とは見返りを求めることではなく、信じる心を持つことで救われるものだと瑞貴は考えていた。

 瑞貴は子どもの頃から神様の存在について父親から散々聞かせれていた。宗教ごとに隔たりのある漠然とした概念ではなく、具体的な『神様』の存在についてだ。

 そして、父から話を聞かされていた瑞貴には『神様=面倒な存在』の認識しかない。
 篤い信仰心を持っている人たちからすれば失礼極まりない認識ではあるがやむを得ないものだと瑞貴は考える。瑞貴には神様を敬う気持ちもあるが、それでも面倒な存在なのだ。  


『貴方は神を信じますか?』

 この質問を瑞貴が受けたとすれば、

「俺が信じていなかったら、大変なことになりますよ」

 と答えることになるだろう。16歳のなった瑞貴は、おそらく世界中の誰よりも神様に近い存在になっていたのだから当然の答え。


※※※※※※※※※※


「11月12日って、お前の誕生日じゃなかったか?」

 憂鬱ゆううつな気分の原因を再認識させられる一言が聞こえてきた。

 授業は終わっていたのだが、席に座ったまま帰り支度じたくにダラダラと時間をかけてしまったことが災いした。
 この時間まで誰からも祝われなかったことで油断が生まれていたのだろう。窓から外の景色を眺めてしまい、正面に人が立っていることにも気付いていなかった。

「……そうだけど、よく覚えてたな」

 昨日までの15歳の瑞貴と今日から始まる16歳の瑞貴。外見的に何も変わっていないが、実は目には映らない違いが確実に生まれている。

 瑞貴は、視線を正面の人物に向き直していた。

「残念な日付だったから、記憶に残ってたんだよ。それに去年だって覚えてたから祝ってあげたはずだぞ」
「……ゴメン、覚えてない。……それにしても、残念な日付って何?人の誕生日を嫌な言い方するなよ」
「いや、だって、あと1日早ければ、1が4つ並んだって考えたら残念だろ?」

 1が並んでいることで有名なお菓子の記念日になっている日。
 声をかけてきた同じクラスの清水幸多はそんな覚え方をしていたのだ。ちなみに、彼の誕生日は5月10日であり、『こうた』となったと聞かされたことがある。
 彼は、名前と誕生日が語呂合ごろあわせになって覚えやすく、他人の誕生日も記憶しやすい方法を思案していたのかもしれない。

 清水は、瑞貴の中学時代からの友人である。広く浅い友人関係の中では、比較的深い方に区分される友人であり、瑞貴の相関図を広げてくれている人物だった。
 清水の存在がなければ、せまく浅い友人関係となってしまい、もっと寂しい学生生活になっていたかもしれない。そういう意味では感謝していないこともなかった。

「わざわざ声をかけてきたんだから、当然何かくれるんだろ?」
「俺だって貰ってないのに、準備してると思うか?世の中、ギブアンドテイクが基本だよ。ただ、確認してみただけだよ。……まぁ、確認ついでに、おめでとうだけは言っとく」

 ぶっきらぼうに答えている瑞貴に対して、清水は終始ニコニコしてくれていた。

「まぁ、ありがとう」

 瑞貴は感情表現が、あまり上手い人間ではない。特に今回が16回目の誕生日であることで少し複雑な心境にもなっていた。
 人付き合いが苦手なわけでもなければ、人間が嫌いと言うこともない。淡々と話をしてしまうタイプであることで瑞貴は損をしていたため、清水のように積極的に接してくれるタイプは有難い存在でもある。

 多くを語ることは難しくても、瑞貴なりに一生懸命に清水と向き合ってはいた。

「まぁ、男からのプレゼントなんて余計に憂鬱になるから、欲しくはないけど……」
「誕生日なのに、憂鬱なのか?」
「ちょっとね」

 家族以外の人間が誕生日を覚えてくれていたことに嬉しさを感じていないわけではなかったが、16歳の誕生日であったことが大きく起因して素直に喜べていない。

「男からのプレゼントで憂鬱になるなら、女の子からプレゼントを貰えれば憂鬱な気分は解消されるんじゃないのか?」
「そんなことあり得ないって分かって言ってる?」
「いや……、可能性はゼロじゃないと思ってるんだけど……」

 茶化す意図を込めた言葉ではないらしく、少しだけ真顔になって清水が反論した。
 だが、瑞貴に彼女がいないことは清水も知っているし、清水に気付かれることなく彼女を作ることも不可能なこと。そもそもプレゼンの有無が影響して憂鬱になっているわけでもない。

「まぁ、今年は仕方ないとしても、来年に期待だな」
「何で、俺の誕生日のことでお前が期待するんだよ」

 会話の主導権を清水に握られてしまい、瑞貴は苦笑いするしかなかった。

「それでも、家族からは何かは貰えるんだろ?多少は気分が晴れるんじゃないのか?」
「いや、誕生日とクリスマスの制度は15歳までって決まってるから、何もないよ」
「何それ、滝川家オリジナルのルールってこと?もしかして憂鬱の原因はそれか?」
「まさか……。さすがにそんなことくらいで、落ち込んだりはしない。……16歳になるってことが問題なんだ」
「なんだよ、年取ると誕生日が嬉しくなくなるとか言うけど、若いうちは喜ばないと……だろ?」

 年齢と云うシステムが大雑把過ぎると瑞貴は考えていた。
 身長は169センチと小刻みに測定されており、170センチで申告すると鯖読みと言われてしまう。だが、誕生日は途中に閏年で微調整がされて一年のカウントが曖昧になっているので本当に16歳なのか疑問が残る。

 悪足搔わるあがきでしかない考え方だが、少しでも遅らせたい理由があった。

「我が家の決まりで16歳を過ぎると、が生まれるんだよ」
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