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Epilogue

ダイヤモンドが宿す未来

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 あれから数ヶ月。
 ハンス・リヴドは、ディアナの拉致・傷害事件により爵位を剥奪され、貴族としては初めて刑事罰が適用された。
 それに伴い、人身売買やテロにかかわった組織や人物たちが国を跨いで次々と解明され、現在、順次相応の裁きが下されている。
 これらの件には、国内の貴族院議員数名の関与も認められたため、議会の在り方も抜本的に見直しがはかられることとなった。
 リヴドの息子であるイアンも、父同様にその爵位を剥奪され、社交界から完全に姿を消した。亡き養父の代から力を注いでいた投資部門にも捜査のメスが入り、会社は存続不能に。彼はトップとして、その責任を負わされる羽目に陥った。
 さらには、当時まだ未成年だった彼が引き起こしたあの事件も、十三年越しに再捜査が行われることに決まったのである。
 これにより、歴史の一部が静かに終焉を迎え、新たな一頁が加わった。

 長きに渡る因縁にようやく打たれた終止符。
 季節は、まもなく二度目の春を迎えようとしていた。

「あ、おかえりなさいませ」
「ただいま」
 夕方。
 庭で作業しているディアナのもとへ、ジークが仕事から帰宅した。
 白いワンピース姿の彼女は、いつものように髪を結い、如雨露じょうろ片手に水やりをしていた。両の耳朶には、一対の白真珠が輝いている。
 まだ空は明るい。こんなにも早い彼の帰宅は珍しいが、それには理由があった。
「外に出たりして大丈夫なのか? 体調は?」
 今朝、ディアナは身体の不調を訴えていた。全身がだる重く、なんだかぼーっとするのだと。
 よって、朝食はジークが用意し、ディアナを寝室で休ませたまま一人で出勤した。その後の彼女の体調が気になり、数時間だけ休みを取って、早めに退勤したというわけである。
「今は大丈夫です。父のお見舞いにも行ってきましたし」
 朝の様子とは一変。にこやかに彼女はこう話した。
 彼が用意してくれていた食事を昼に摂った後、父——ハロルドの見舞いに行ってきたのだという。
 昨年の冬に撃たれた傷はほぼ完治し、懸命なリハビリのすえ、ハロルドは歩けるまでに回復した。主治医の話によると、まもなく退院できるそうだ。
 早く仕事に復帰しなければと焦る父に、無理は禁物だと娘は念を押してきた。
 諸々の所用を済ませ、彼女もつい先ほど帰宅したばかりらしい。
「そうか。だが、もし症状が改善されないようなら、早めに病院へ行ったほうがいいんじゃないか?」
 現在の顔色を見る限りでは、これといってとくに問題はなさそうだ。
 けれども、今朝の様子がいまだ気にかかっているジークは、憂いを完全には払拭できずにいた。
 そんな夫に、妻はにこりと微笑みかける。
 その笑みには、いつもとは違う色の『喜び』や『嬉しさ』が滲んでいるようだった。
「病院には行ってきたんですよ? 診察もちゃんと受けてきました」
「……え?」
 芝生を吹き渡る爽やかな風が、二人のもとへ春を運んでくる。
「実は——」
「——!!」

 青い若芽が息吹き、萌ゆる若葉が風に揺れる。
 愛し愛された証を宿し、想いを繋いでゆく。

 時を超えて、

 繋いでゆく。


 これは、一人の気高き竜人と、清廉なヒトの少女が紡ぐ、結婚から始まる物語。


 <END>


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