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#2 祭の夜

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祭りの当日は、普段は人の往来も少ない村の中が少しだけ賑やかになっていた。
この日、普段は村外に住んでいる村の出身者が帰省することも多いらしい。

夕方。

微かに涼を含んだ風が吹き、空が薄暗くなりかけた頃に祭りはおごそかに始まった。
村の代表が列を連ねて氏神の社に供物を捧げ、祝詞が奏上される。
それを終えると、祭りのために造られた舞台の上でこの地域に古くから伝わるという舞が奉納された。
それは素朴なものだったが、よそ者であるはずの僕にも微かな高揚と村との一体感を与えてくれた。

舞の奉納が終わり、人々が散っていく中でタケシさんに声をかけられた。

「高山先生、村の舞はどうだった?」
「あ、タケシさん。僕はこういう舞台を見たのが初めてなので、とても感動しました」
「そうか、それはよかった。ところで……これから宴があるんだが、先生も参加してくれるよな?」
「え、僕なんかがいいんですか?」
「もちろんだよ、でないと場が締まらないしな」
「そうですか……であれば参加させていただきます」
「そうか、じゃあ行こうか。ついて来てくれよ」

そう言うとタケシさんは社の裏手に向かって歩き出した。

あれ? てっきり社の中で用意が進んでいる宴席のことかと思ったんだけど……。

僕の戸惑いが伝わったのか、歩きながらタケシさんが話し始める。

「祭りのしきたりでな、独り者の男は別の場所に集まって宴をすることになってるんだ」
「へぇ、そうなんですか」
「ああ。とは言っても若い人間が減るばっかりのこの村だから、宴に出るのは先生も含めて五人だけなんだけどな」
「なるほど……」

今まであまり込み入った話をしたことがなかったこともあって、僕はこの時初めてタケシさんが独身だったと知った。

賑やかな社の音が背後に遠ざかり、暗い木立の中をタケシさんのライトを頼りに数十メートルほど進むと、小さな木造家屋の前にたどり着いた。
古そうだが、造りはしっかりしている。

「ここは?」
「昔からの寄合処さ。今は下の方に新しい集会所があるから、祭りの時ぐらいしか使わないんだけどな」

タケシさんが建物の横手に僕を手招きした。
そこには、お湯が張られた大きめのたらいがあり、横の木の棚には白い衣類のようなものが畳まれて置いてある。

「中に入る前に、身を清めてその浴衣に着替えてくれるか。身につけていいのはそれだけの決まりなんだ」
「え? えーと、下着もですか?」
「そうだ」

そう言うとタケシさんは無造作に着ているものを脱ぎ始めた。
すぐに全裸になると、手桶で盥のお湯をすくって体に掛け始める。
つられるように僕も慌てて服に手をかけた。
僕が服を全て脱いで手桶からお湯を浴び始める頃には、タケシさんは既に浴衣に着替えていた。
タケシさんがライトで僕のほうを照らしてくれる。

「あ、すみません」

置かれていたタオルで体を拭き、浴衣を手に取る。

「先生、色白いな」

タケシさんがぼそりとつぶやいた。

「はは、元々北国育ちなもので」

逆光で表情はわからなかったけど、タケシさんは静かに「そうか」とだけ応えた。


###


寄合処の木戸をくぐるとそこには四畳ほどの土間があり、その奧は広めの畳の部屋になっていた。
部屋には既に酒宴の用意がされているらしく、五人分の膳が並び三人の男の人が座っている。
いずれも祭りの準備の時に何度か顔を会わせていた人達だった。
僕とタケシさんが座ると、タケシさんが改めて三人を紹介した。

小田徹おだとおる……トオルさんは、タケシさんとは従兄にあたり腹周りに少し余裕がある最年長の四十三歳。

沼木雄大ぬまきゆうだい……ユウダイさんは、身長が高い精悍な顔つきの三十八歳。

木田篤きだあつし……アツシさんは、農業と街での仕事を兼業している厚めのメガネをかけた三十五歳。

「それじゃ先生も来てくれたし、始めるか」

トオルさんの声で、各々の前に置かれた徳利を手に持ち隣の人にお酒を注いだ。
猪口ちょこの中身を飲み干すと、隣のタケシさんとユウダイさんからすぐに次が注がれる。

「先生、いける口だな」
「いえ、そんなに強くはないのでお手柔らかに……」

タケシさん達のペースに流されるまま猪口を飲み続けていると、妙に周りの話し声が籠もって反響するように聞こえてきた。
体も左右に揺れているような気がする。
急激にまぶたが重くなる。

だいじょうぶかい?

遠くでタケシさんの声が聞こえた気がした。

だけど、僕はそれに答える前に意識を失っていた。

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