お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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四十六話

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「関わらせない……?」
「未来……?」

 何かがおかしいなと同時に首を傾げて、同時に声が重なる。
 つまりは、こういうことなのだろう。

 私は何か知っていて――それが何かはよく知らないけれど――危ないことが起きるとわかっている。ならば、危険な場所に私を連れていくのはもちろん、関与させるつもりもない、と。
 そのまんますぎて、なぜ気づかなかったのだと自分を責めたい。

 威圧感がすごかったけれど、それはおそらく、私を止めようと意気込んでいたからなのだろう。怖かったので、もう二度とやらないでほしい。

「未来、とはどういうことですか?」

 そして今一番の問題は、私がさらに口を滑らせてしまったことだ。聞き間違いだとか、言い間違いだとか言えるような雰囲気ではない。

 予知夢はリンエルの極秘事項だ。広く知られれば、その力をどうにか利用できないかと目論む人が出てくる。たとえ危機を予知できても、防げるのは王族の人数分だけ。それ以上攻められれば、小国でしかないリンエルはあっさりと陥落するだろう。

 だから、リンエルの人はこの話をけっして外に漏らさない。攻められれば被害を受けるのは民であり騎士であり土地であり王族であり――あの国にいるすべてのものたちだ。

 そしてそれは私も例外ではない。王族の数だけ危機を予知できるのであれば、数を増やそうと考える人も当然出てくるだろう。
 敗戦国の王族として丁重に扱ってくれるのならいいが、数を増やせと子をなすだけの道具として扱われる可能性のほうが高い。

 だから、けっして漏らさぬように。誰にも言わないようにと。幼いころから何度も何度も言い聞かせられた。
 そのような目に父を、兄を、姉を遭わせたくはないでしょう。そのような目に遭いたくはないでしょう。だから他国の者とどれだけ親しくなろうと、踏みこませてはいけないと何度も説明された。

 ――それをわが身可愛さにあっさり口を滑らせてしまうなんて。
 役立たずの王女どころではない。売国奴と罵られてもしかたのないほどだ。

「……シェリフ様?」

 うまい言い訳も思いつかず、自己嫌悪で泣きたくなってくる。もういっそ、売国奴らしく、国の体面も支援も何かも知るものかと逃げ出してしまおうか。それで追手に殺されるのが似合いだろう。
 この期におよんでも、自ら命を絶ってすべて曖昧にする道を選べない自分が情けなくて、いろいろなことが嫌になってくる。

 私はただ、誰かに必要とされたいだけなのに。愛されて、愛したいだけなのに。どうしてなにひとつとして上手にできないのだろう。
 国の危機を予知することができず、予知した夢を変えることも満足にできず、結局私はどこにいっても役立たずの王女なのだと思い知らされる。

「……すみません、もう聞きませんから……」

 役立たずだと罵られて、私のせいだと責められて、国のために媚を売ってこいと、それぐらいでしか役に立てないのだからと追い出されて――

「そういえば、私……追い出されていたわね」

 力が目覚めなかった私の子供も、同じく王族として認められない――力のない子供に違いない。だから役立たずの私が唯一役に立てるのはオーギュストに媚を売り、支援を継続させることだけだと、そんな感じのことを言われて追い出された。
 予知夢のせいでたいぶ前のことのように思えて、どこかおぼろげではあるが、たしかにそんなことを言っていた。
 私の子供は王族として認められない――力のないものは、王族ではない、と。

 つまり、今の私は王女ですらない。私の家族にとっては、という話ではあるけれど。

「ねえ、ライナス。何があっても私を守ってくれるかしら」
「もう聞かないというのは撤回します。説明をお願いします」

 王族でないのなら、王族の責務も当然発生しないと考えていいはず。なら私の家族は王族として頑張って身を守ってもらうとして、私は私の身を守りさえすればいいのでは。
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