お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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三十四話

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 オーギュストはレイチェルのことをさほど親しくなさそうに語っていた。なのにどうしてこんな忠告をしてくるのか。いやそもそも、忠告なのか。脅しの間違いかもしれない。
 混乱した頭で首を傾げる。

「……どうしてなのかをお聞きしてもよろしいですか? レイチェル嬢に何か問題でも……?」
「いや、彼女自身には……だが、彼女の父親が問題だ」
「オブライエン伯が……?」

 オブライエン伯は長年、税務官として国に仕えている。いわば忠臣ともいえるような人だった。悪どいこともせず、私が王妃であったときに何かしらの問題を起こしたという話も聞かなかった。
 レイチェルがオーギュストに愛されてからも、城で大きな顔をすることはなく、己の職務をまっとうしている人だった――と記憶している。

「あれは何かとうるさいからな。娘と仲良くなったと知ればいろいろと口を出してくるだろう。結婚の準備をしたいというお前の意思を汲んだのは俺だが、だからといって黙っている男ではない。準備などそこそこでいいから早く結婚しろとせっつかれたくはないだろう」

 なるほど。オーギュストは私と結婚しようと思った理由として、口うるさい家臣をだまらせるためであることを挙げていた。そして、その口うるさい家臣のひとりがオブライエン伯ということか。

 たしかに、結婚の準備を急かされたくはない。ただでさえレイチェルの恋心でごたごたしていたのに、期限がさらに縮まったらどうにもならなくなる。
 だからといってレイチェルを茶会に呼ばないわけにもいかず――

「かしこまりました。節度ある付き合いを心がけます」
「ああ、そうしろ」

 納得したように頷いて、空になった食器を侍従が下げるのを見てから部屋を出る。
 節度ある付き合いの基準はわからないが、オブライエン伯によけいな口を出されても困らないようにすればいい、というのはわかった。
 税務官ということは書類関係を見る目は持っているだろう。ならば滞りなく結婚の準備を進めているように見せて、これだけ時間がかかるので、すぐに結婚なんてとてもできそうにない、という風を装えばいい。

 そうなると式で使う花の一部を伝統的で、それでいて取り寄せないといけないものにして、ドレスの刺繍は依頼が多くて仕事に取り掛かるのに時間がかかる職人に頼むべきだろう。
 迅速にことを進め、発注書を仕上げる段階までいけば、今さらキャンセルにはできないはず。

「なら……花はリンエルから取り寄せたほうがいいわね。母国の花を少しでいいから使いたいと言えば、そこまでおかしくはないでしょうし……災害の被害があまり出ていなかった地域は……」

 真剣に――挙げることのない結婚式の詳細を――考えながら、自室に戻る。
 私が出ている間に部屋を整えていてくれた侍女に、結婚式について相談があると持ち掛けて、リンエルやライナストンで一番人気のある職人に手紙を出すように頼んだ。
 それから、また数日後にレイチェルを招きたい旨も忘れずに。
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