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三十一話
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私の私財は本当に微々たるものだ。なにしろ、飢餓に陥り困窮していた国からの嫁入りである。他国の王もとに嫁ぐというのに、嫁入り道具なんてものは持たされなかった。オーギュストがこちらになんでも揃っているから何も持ってくる必要はない。それよりも早めにこちらに来るようにと、要求したのが原因のひとつでもあるけど。
それでも、さすがに何もないのはと思ったのだろう。輸出するには数が少なく、災害時にはなんの役にも立たないからと倉庫に眠っていた宝石をいくつか持たせてくれた。
未来視の中の私は、その宝石を売ることもせずに手元に置き続けた。不用な人間に不要なものを持たせただけだとしても、家族からの最後の贈り物だったから。
「でも、本当にいいんですか?」
「箪笥のこやしにするよりは、ずいぶんといい使い道だと思うわ。それに、加工したり売る手間はあなたの実家に任せることになるのだから、遠慮しなくていいわよ」
はい、と手渡した手の平サイズの革袋。中には爪の先ほどの宝石が十数個入っている。そのまま売るにしても、加工して売るにしても、時間がかかるし手間も必要になる。
だからすぐに作業を開始できるとは思えないが、実家が復興する可能性があればライナスはレイチェルの想いを受け入れたりはしないだろう。
「……それでもどうしても気おくれするのなら、一番最初に採れた鉱石を私に贈ると約束してくれるかしら」
「いやそりゃあ、投資してくれるんですからそれ相応のお返しは用意しますよ。……用意できたら、の話にはなりますけど」
「それでじゅうぶんよ。それに、あなたの実家を立て直すのは私のためでもあると言ったでしょう? 恋や実家のことで頭を悩ませて、私の護衛をおろそかにされたら困るわ」
「さすがに俺も騎士としての矜持があるから、おろそかにはしませんよ。……それじゃあ、これはありがたく使わせていただきます。鉱山の件と合わせて家族に伝えようと思うので……また数日ほどお休みをいただいても構いませんか?」
「もちろんいいわよ。万が一紛失されたら困るから、しっかりと届けてちょうだい」
ライナスの剣の腕前がどのぐらいかはわからないが、配達人に預けて野盗のたぐいに奪われる可能性を考えたら彼が自ら持っていくほうが安全だろう。
あとはどのぐらいで、宝石を掘り当てることができるか――自分にできるのはここまでだ、とようやくひと息つく。
「……そういえば、あなたって賭博に興味はある?」
「これを元手に賭けたりしないんで安心してください」
ふと、ライナスが違法賭博に手を出したことを思い出した。時期的にはまだ先だが、もしかして実家の財政状況と関係あるのではと思っての質問だったが、まったく違う受け取られ方をしたようだ。
「今のは聞き方が悪かったわね。あなたがそんなことをするとは思っていないわ。ただ……賭博に興じたことがあるのか気になっただけよ。純粋な好奇心からの質問だから、気軽に答えてちょうだい」
「いやあ、心配になったとしか思えないんですけど……えーと、賭博ですか……。これまでしたことはないですし、するつもりもありませんよ。胴元が儲けるだけってわかってるものに手を出すほど馬鹿じゃないんで、信用してください」
純粋な好奇心からの質問とは受け取ってくれていないようだけど、彼の返答はおそらく真実だろう。こちらをまっすぐに見る瞳にやましさはない。
「そう……ならいいわ」
そうなると、ライナスが違法賭博をしようと思ったのは、やはり実家が原因だろう。どうにもならなくなって、そんな馬鹿なことをしでかした、と。
「……この場合、どうなるのかしら」
実家が持ち直せば、ライナスは法を破ることはなくなり、騎士の資格もはく奪されない。
だけどレイチェルが自分の恋心に見切りをつけたのが、ライナスが騎士ではなくなったからだとしたら――。
ちらりとライナスの様子をうかがう。大切そうに革袋を持つ彼に、まあいいか、と苦笑する。
未来視の中ではほとんど交流のなかった彼だけど、今は私の護衛騎士である。落ちぶれるのが自業自得であるのならともかく、追い詰められてのことだったのなら、きっとこれでよかったはずだ。
レイチェルの恋心は、またあとで考えよう。
それでも、さすがに何もないのはと思ったのだろう。輸出するには数が少なく、災害時にはなんの役にも立たないからと倉庫に眠っていた宝石をいくつか持たせてくれた。
未来視の中の私は、その宝石を売ることもせずに手元に置き続けた。不用な人間に不要なものを持たせただけだとしても、家族からの最後の贈り物だったから。
「でも、本当にいいんですか?」
「箪笥のこやしにするよりは、ずいぶんといい使い道だと思うわ。それに、加工したり売る手間はあなたの実家に任せることになるのだから、遠慮しなくていいわよ」
はい、と手渡した手の平サイズの革袋。中には爪の先ほどの宝石が十数個入っている。そのまま売るにしても、加工して売るにしても、時間がかかるし手間も必要になる。
だからすぐに作業を開始できるとは思えないが、実家が復興する可能性があればライナスはレイチェルの想いを受け入れたりはしないだろう。
「……それでもどうしても気おくれするのなら、一番最初に採れた鉱石を私に贈ると約束してくれるかしら」
「いやそりゃあ、投資してくれるんですからそれ相応のお返しは用意しますよ。……用意できたら、の話にはなりますけど」
「それでじゅうぶんよ。それに、あなたの実家を立て直すのは私のためでもあると言ったでしょう? 恋や実家のことで頭を悩ませて、私の護衛をおろそかにされたら困るわ」
「さすがに俺も騎士としての矜持があるから、おろそかにはしませんよ。……それじゃあ、これはありがたく使わせていただきます。鉱山の件と合わせて家族に伝えようと思うので……また数日ほどお休みをいただいても構いませんか?」
「もちろんいいわよ。万が一紛失されたら困るから、しっかりと届けてちょうだい」
ライナスの剣の腕前がどのぐらいかはわからないが、配達人に預けて野盗のたぐいに奪われる可能性を考えたら彼が自ら持っていくほうが安全だろう。
あとはどのぐらいで、宝石を掘り当てることができるか――自分にできるのはここまでだ、とようやくひと息つく。
「……そういえば、あなたって賭博に興味はある?」
「これを元手に賭けたりしないんで安心してください」
ふと、ライナスが違法賭博に手を出したことを思い出した。時期的にはまだ先だが、もしかして実家の財政状況と関係あるのではと思っての質問だったが、まったく違う受け取られ方をしたようだ。
「今のは聞き方が悪かったわね。あなたがそんなことをするとは思っていないわ。ただ……賭博に興じたことがあるのか気になっただけよ。純粋な好奇心からの質問だから、気軽に答えてちょうだい」
「いやあ、心配になったとしか思えないんですけど……えーと、賭博ですか……。これまでしたことはないですし、するつもりもありませんよ。胴元が儲けるだけってわかってるものに手を出すほど馬鹿じゃないんで、信用してください」
純粋な好奇心からの質問とは受け取ってくれていないようだけど、彼の返答はおそらく真実だろう。こちらをまっすぐに見る瞳にやましさはない。
「そう……ならいいわ」
そうなると、ライナスが違法賭博をしようと思ったのは、やはり実家が原因だろう。どうにもならなくなって、そんな馬鹿なことをしでかした、と。
「……この場合、どうなるのかしら」
実家が持ち直せば、ライナスは法を破ることはなくなり、騎士の資格もはく奪されない。
だけどレイチェルが自分の恋心に見切りをつけたのが、ライナスが騎士ではなくなったからだとしたら――。
ちらりとライナスの様子をうかがう。大切そうに革袋を持つ彼に、まあいいか、と苦笑する。
未来視の中ではほとんど交流のなかった彼だけど、今は私の護衛騎士である。落ちぶれるのが自業自得であるのならともかく、追い詰められてのことだったのなら、きっとこれでよかったはずだ。
レイチェルの恋心は、またあとで考えよう。
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