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二十話
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リンエルは本当に小さな国だ。それは山が多く、土地として使える場所があまり多くないことが関係している。しかも天候が変わりやすく、災害が起きやすい。
予知夢――王家の誰かが天災を予見し、それに備えるために物資の輸入をすることはあるが、基本的には自給自足が根付いているため他国との貿易もそれほど盛んではない。
――というのを、予知夢の部分を省いて説明する。
「他国との交流自体それほど重要視していないので、王家に誰かが嫁いできたり、王家の誰かを嫁がせることも稀で……私のように他国に嫁ぐために国を出るのは数百年振りになるかもしれません」
王族の結婚相手は国内で見繕う。下手な相手と縁付けば、王家に備わる力が他の国に知られるかもしれないからだ。
私がライナストンに嫁ぐことが認められたのは、支援に対する感謝の表れでもあるが、何よりも私に王家の力がないと思われていたのが大きい。
外に出しても脅威にはなりえないと、そう判断されたのだ。
「ずいぶんと閉鎖的な国なんですね」
「他の国からしてみれば、変わっているように見えるでしょうね」
王家に予知の力がなければ、とうの昔に滅びていただろう。だが大きな災害を予知し、備えてきたから今の今まで国として成り立っていた。
だからこそ、国が傾くほどの天災を予知できなかった役立たずとして扱われた。
――いや、役立たずだと言われた所以はそれだけではないか。
王家の者はみな、予知夢の中で自分の死か、あるいは近しい者の死を見る。天災によって困窮し息絶える民を見る。
いくら備えて無事だったからといっても、予知夢を見た者からすれば実際に起こりえた出来事で、味わった苦しみだ。
他の者――予知夢ができない者が知ることのない苦痛の共有。それが王家に連なる者を強く結びつけている。
だから、それを知ることのなかった私に対し、どうしてこの子だけと思ってしまうのはしかたのないことだろう。
私の母は王家の血をひいてはいなかったが、それでも兄や姉が飛び起きて苦しむのを見てきた。
国の存続のためとはいえ、起きて夢の中の自分の無力さを嘆き、どうすればいいのかを考える我が子の姿に、胸を痛めたこともあるだろう。
なのに私だけが何も見ず、困窮し苦しむ民をみなで見ることになり、どうしようもないほどの異物感を、私に抱いたのだろう。
王の子ではないのかと疑われなかっただけでもありがたい。だけど子として扱われたからこそ役立たずと呼ばれ、複雑な思いを抱いて、私はライナストンに嫁いできた。
「シェリフ様、どうされましたか?」
「……国のことを思い返していたら、懐かしくなってしまって……」
「あ、それは……そうですよね。簡単に行き来できる場所ではないですが、落ち着いたら一時帰国できるように手配しましょう」
「ええ、そうね。その時はお願いするわ」
予知夢の中の私は落ち着くこともなく、終わりを迎えた。
あの私は国に帰れたのか、それとも王妃だからライナストンの地で眠ったのか。
どちらにせよ、今の私には関係ないことだと小さく頭を振る。
予知夢の力は強く、同じ道筋を辿れば同じ未来に至ると言われている。だから、同じ道筋を辿らないようにと、絶対にオーギュストと結婚してなるものかと、改めて強く決意した。
予知夢――王家の誰かが天災を予見し、それに備えるために物資の輸入をすることはあるが、基本的には自給自足が根付いているため他国との貿易もそれほど盛んではない。
――というのを、予知夢の部分を省いて説明する。
「他国との交流自体それほど重要視していないので、王家に誰かが嫁いできたり、王家の誰かを嫁がせることも稀で……私のように他国に嫁ぐために国を出るのは数百年振りになるかもしれません」
王族の結婚相手は国内で見繕う。下手な相手と縁付けば、王家に備わる力が他の国に知られるかもしれないからだ。
私がライナストンに嫁ぐことが認められたのは、支援に対する感謝の表れでもあるが、何よりも私に王家の力がないと思われていたのが大きい。
外に出しても脅威にはなりえないと、そう判断されたのだ。
「ずいぶんと閉鎖的な国なんですね」
「他の国からしてみれば、変わっているように見えるでしょうね」
王家に予知の力がなければ、とうの昔に滅びていただろう。だが大きな災害を予知し、備えてきたから今の今まで国として成り立っていた。
だからこそ、国が傾くほどの天災を予知できなかった役立たずとして扱われた。
――いや、役立たずだと言われた所以はそれだけではないか。
王家の者はみな、予知夢の中で自分の死か、あるいは近しい者の死を見る。天災によって困窮し息絶える民を見る。
いくら備えて無事だったからといっても、予知夢を見た者からすれば実際に起こりえた出来事で、味わった苦しみだ。
他の者――予知夢ができない者が知ることのない苦痛の共有。それが王家に連なる者を強く結びつけている。
だから、それを知ることのなかった私に対し、どうしてこの子だけと思ってしまうのはしかたのないことだろう。
私の母は王家の血をひいてはいなかったが、それでも兄や姉が飛び起きて苦しむのを見てきた。
国の存続のためとはいえ、起きて夢の中の自分の無力さを嘆き、どうすればいいのかを考える我が子の姿に、胸を痛めたこともあるだろう。
なのに私だけが何も見ず、困窮し苦しむ民をみなで見ることになり、どうしようもないほどの異物感を、私に抱いたのだろう。
王の子ではないのかと疑われなかっただけでもありがたい。だけど子として扱われたからこそ役立たずと呼ばれ、複雑な思いを抱いて、私はライナストンに嫁いできた。
「シェリフ様、どうされましたか?」
「……国のことを思い返していたら、懐かしくなってしまって……」
「あ、それは……そうですよね。簡単に行き来できる場所ではないですが、落ち着いたら一時帰国できるように手配しましょう」
「ええ、そうね。その時はお願いするわ」
予知夢の中の私は落ち着くこともなく、終わりを迎えた。
あの私は国に帰れたのか、それとも王妃だからライナストンの地で眠ったのか。
どちらにせよ、今の私には関係ないことだと小さく頭を振る。
予知夢の力は強く、同じ道筋を辿れば同じ未来に至ると言われている。だから、同じ道筋を辿らないようにと、絶対にオーギュストと結婚してなるものかと、改めて強く決意した。
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