お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

文字の大きさ
上 下
20 / 58

二十話

しおりを挟む
 リンエルは本当に小さな国だ。それは山が多く、土地として使える場所があまり多くないことが関係している。しかも天候が変わりやすく、災害が起きやすい。
 予知夢――王家の誰かが天災を予見し、それに備えるために物資の輸入をすることはあるが、基本的には自給自足が根付いているため他国との貿易もそれほど盛んではない。

 ――というのを、予知夢の部分を省いて説明する。

「他国との交流自体それほど重要視していないので、王家に誰かが嫁いできたり、王家の誰かを嫁がせることも稀で……私のように他国に嫁ぐために国を出るのは数百年振りになるかもしれません」

 王族の結婚相手は国内で見繕う。下手な相手と縁付けば、王家に備わる力が他の国に知られるかもしれないからだ。
 私がライナストンに嫁ぐことが認められたのは、支援に対する感謝の表れでもあるが、何よりも私に王家の力がないと思われていたのが大きい。
 外に出しても脅威にはなりえないと、そう判断されたのだ。

「ずいぶんと閉鎖的な国なんですね」
「他の国からしてみれば、変わっているように見えるでしょうね」

 王家に予知の力がなければ、とうの昔に滅びていただろう。だが大きな災害を予知し、備えてきたから今の今まで国として成り立っていた。
 だからこそ、国が傾くほどの天災を予知できなかった役立たずとして扱われた。

 ――いや、役立たずだと言われた所以はそれだけではないか。

 王家の者はみな、予知夢の中で自分の死か、あるいは近しい者の死を見る。天災によって困窮し息絶える民を見る。
 いくら備えて無事だったからといっても、予知夢を見た者からすれば実際に起こりえた出来事で、味わった苦しみだ。

 他の者――予知夢ができない者が知ることのない苦痛の共有。それが王家に連なる者を強く結びつけている。

 だから、それを知ることのなかった私に対し、どうしてこの子だけと思ってしまうのはしかたのないことだろう。

 私の母は王家の血をひいてはいなかったが、それでも兄や姉が飛び起きて苦しむのを見てきた。
 国の存続のためとはいえ、起きて夢の中の自分の無力さを嘆き、どうすればいいのかを考える我が子の姿に、胸を痛めたこともあるだろう。

 なのに私だけが何も見ず、困窮し苦しむ民をみなで見ることになり、どうしようもないほどの異物感を、私に抱いたのだろう。

 王の子ではないのかと疑われなかっただけでもありがたい。だけど子として扱われたからこそ役立たずと呼ばれ、複雑な思いを抱いて、私はライナストンに嫁いできた。

「シェリフ様、どうされましたか?」
「……国のことを思い返していたら、懐かしくなってしまって……」
「あ、それは……そうですよね。簡単に行き来できる場所ではないですが、落ち着いたら一時帰国できるように手配しましょう」
「ええ、そうね。その時はお願いするわ」

 予知夢の中の私は落ち着くこともなく、終わりを迎えた。
 あの私は国に帰れたのか、それとも王妃だからライナストンの地で眠ったのか。

 どちらにせよ、今の私には関係ないことだと小さく頭を振る。
 予知夢の力は強く、同じ道筋を辿れば同じ未来に至ると言われている。だから、同じ道筋を辿らないようにと、絶対にオーギュストと結婚してなるものかと、改めて強く決意した。
しおりを挟む
感想 190

あなたにおすすめの小説

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

下げ渡された婚約者

相生紗季
ファンタジー
マグナリード王家第三王子のアルフレッドは、優秀な兄と姉のおかげで、政務に干渉することなく気ままに過ごしていた。 しかしある日、第一王子である兄が言った。 「ルイーザとの婚約を破棄する」 愛する人を見つけた兄は、政治のために決められた許嫁との婚約を破棄したいらしい。 「あのルイーザが受け入れたのか?」 「代わりの婿を用意するならという条件付きで」 「代わり?」 「お前だ、アルフレッド!」 おさがりの婚約者なんて聞いてない! しかもルイーザは誰もが畏れる冷酷な侯爵令嬢。 アルフレッドが怯えながらもルイーザのもとへと訪ねると、彼女は氷のような瞳から――涙をこぼした。 「あいつは、僕たちのことなんかどうでもいいんだ」 「ふたりで見返そう――あいつから王位を奪うんだ」

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

【完結】私を忘れてしまった貴方に、憎まれています

高瀬船
恋愛
夜会会場で突然意識を失うように倒れてしまった自分の旦那であるアーヴィング様を急いで邸へ連れて戻った。 そうして、医者の診察が終わり、体に異常は無い、と言われて安心したのも束の間。 最愛の旦那様は、目が覚めると綺麗さっぱりと私の事を忘れてしまっており、私と結婚した事も、お互い愛を育んだ事を忘れ。 何故か、私を憎しみの籠った瞳で見つめるのです。 優しかったアーヴィング様が、突然見知らぬ男性になってしまったかのようで、冷たくあしらわれ、憎まれ、私の心は日が経つにつれて疲弊して行く一方となってしまったのです。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

私は既にフラれましたので。

椎茸
恋愛
子爵令嬢ルフェルニア・シラーは、国一番の美貌を持つ幼馴染の公爵令息ユリウス・ミネルウァへの想いを断ち切るため、告白をする。ルフェルニアは、予想どおりフラれると、元来の深く悩まない性格ゆえか、気持ちを切り替えて、仕事と婚活に邁進しようとする。一方、仕事一筋で自身の感情にも恋愛事情にも疎かったユリウスは、ずっと一緒に居てくれたルフェルニアに距離を置かれたことで、感情の蓋が外れてルフェルニアの言動に一喜一憂するように…? ※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

処理中です...