お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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十九話

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 まず案内されたのは、憩いの場として利用されている噴水広場。老若男女問わず行合う広場には整備された草花が咲き、少しだけ足を止めてそれを眺める者もいる。

「どうしてこの噴水にはお金が入っているのかしら」

 きょろきょろと見回して目についたのは、噴水の中。覗きこめば水の底に何枚もコインが入っているのがわかる。

「あー……ちょっとしたおまじない、みたいなものですね。神頼み、とでも言えばいいのか……底の部分にいくつか小さな丸が書かれているんですが、そこに入ると願いが叶う、と言われているんです」
「願いが……」

 予知夢の中でそんな話を聞いたことはなかった。城下町に住む人たちのなかで広まっているものなのかもしれない。

「あなたもやってみたことがあるの?」
「小さい時だけですけど、ありますね」
「願いは叶った?」
「入らなかったので……入っても叶わないだろうなって今ならわかりますけど、子供の時は真剣で、小遣い全部使っても駄目で……家に帰ったら怒らて散々でしたよ」

 懐かしそうに笑う彼に、城下町での子供がどんな風に過ごすのかを想像する。
 最少額だとしてもお金を投入するのなら、ある程度裕福な家庭の子供しか噴水に願懸けするのは難しいだろう。
 それでもどうしても叶えたい願いがあって、わずかなお金を手に持ち、必死に噴水に投げ込むのかもしれない。

「……誰もが気軽に願懸けできる環境になるといいけど」

 いたたまれない気もちになり呟くと、ライナスがふ、と笑った。

「今の話でそんな感想になるんですか」
「手持ちが尽きて肩を落とす子供を想像してしまったのよ」
「シェリフ様は想像力が豊かなんですね。……リンエルにはこういった遊びはないんですか?」
「そう、ね……聞いたことはないわ」

 リンエルでは、王家が神に等しき存在だ。他者にはない力を持つ王家に願いを託すことはあっても、噴水に託したりはしないだろう。

「リンエルがどのような国なのかお聞きしてもよろしいでしょうか。俺は生まれも育ちもここで、他の国に言ったことがないから、興味があるんですよね」
「構わないけど……話せることはあまりないわよ」
「それでも、聞かせていただけたら嬉しいです」

 そうして、どこか休めるところで話そうとなった。城から噴水広場まで歩いてきたので休憩するには丁度いいと承諾し、案内されたのが、城下町の一角にある酒場だった。夜はお酒を提供しているが、昼間は軽食がメインとなっており、深夜帯でなければいつでも羽を休めるところになっているのだとか。

「お茶や茶菓子も提供していて、巡回路の途中にあるので休憩で訪れる騎士も多いんですよ」

 引かれた椅子に座り、店の中を見回す。
 石造りの床は隅まで磨かれているようで、木造りの椅子と机はささくれ一つない丁寧な作りだ。
 騎士――地位ある者がいつ訪れても大丈夫なようにと店主が気を遣っているのだろう。

「何か食べたいものはありますか?」
「お腹はあまり空いていないから軽いもので……あなたのおすすめでいいわ」
「かしこまりました」

 従業員を呼び止めて注文を終えるのを確認してから、口を開く。

「それでリンエルについてだけど……どんなことを知りたいの?」
「なんでもいいですよ。風習とかでもいいですし、特産品とかでもなんでも」

 とはいっても、本当にたいした話はできない。
 なにしろリンエルは小国だ。特産品らしき特産品は少なく、風習ともいえる王家の予知夢については話せない。

 だから面白くはないかもしれないと前置きして、リンエルが――私が育った国がどんな国なのかを話しはじめた。
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