お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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十五話

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 愕然としている私を見て、オーギュストが不可解そうに眉をひそめた。

「価値観……?」

 思わず漏らした呟きを拾い、首を傾げている。

「え、ああ、えーと……その、リンエルでは子をなすことよりも重視されていることがありまして……教養といいますか、資質といいますか……それが私は他の王族よりも劣っていたため、役立たずと呼ばれておりました」

 予知夢については伏せて、言葉を濁して説明する。
 子をなすことができない。そんな話が広まるのは困る。
 最初から対象外として見られてしまったら、愛情を育むための交流すら難しくなるだろう。
 もしも私が子を産めない体だったとしても、愛を得たあとならば子がなくてもと思ってもらえるかもしれない。

「なら、君は子を……」
「確実に産める、かどうかはわかりませんが……産めないと断言することもできません」

 試したことがないのでどちらも断言はできない。
 曖昧な言い方をする私に、オーギュストは何か考えるようにわずかに目を伏せた。

「……一つ、伺ってもよろしいでしょうか」

 伏せられた目が上がる。何を聞きたいのかと探るような眼差しに、私は居住まいを正した。
 オーギュストが勘違いしてしまうほど、貴族――そして王族にとって、子を産めるかどうかは重要だ。

「子をなせないと……そう思っていながら、どうして私を妻に望んだのですか」

 子を産めない妻では、どうあがいてもオーギュストの血を継ぐ子供を王位につかせることはできない。
 彼の愛を得た伯爵令嬢がいたが、この時点の彼はそんなこと知らないはず。

 もしかしたらすでに、彼は伯爵令嬢のことを愛していて、私の知らない障害があって結婚できないので、お飾りの妃を求めたのでは――そんな想像すら生まれてしまう。

「……君には関係のないことだ」
「…………どなたか、愛する方がいて……結婚できない事情があるのでしたら教えてください。協力いたします。……私の処遇にお困りでしたら、どなたか良い方をご紹介いただけたら大丈夫ですので、安心して――」

 思わず漏れてしまった欲に、オーギュストの顔が不快そうに歪んだ。

「俺は誰かを愛するつもりはない。そもそも、君は俺がそんな――他に相手がいて妻を娶るような、不誠実な男に見えるのか」

 十分見えるし、知っています。
 
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