お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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十四話

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 聞こえてきたため息に首を傾げる。
 何かおかしなことを言っただろうか。口にしたのは、行事のない月がいいことと、時間がある時ぐらい。
 行事がない月を指定するのはそんなおかしな話ではないはずだ。そして時間がある時は彼が愛しい人と一緒に回るためで――そこまで考えて、失言に気づいた。
 私は彼が愛せる人と出会うことを知っているけど、彼はそうではない。

「そんな暇があるはずがないだろう」

 慌てて弁明するよりも早く、オーギュストの冷えた声が届いた。

「いえ、それは……」

 私とではないと言っても、どういうことだと問い詰められるだろう。
 予知夢をできることは国家機密だ。リンエルの民であれば誰でも知っているけど、それでも一応箝口令は敷かれているし、国家機密扱いになっている。
 他の国に知られれば、攻め入られ、王女も王子も――下手すると王までもどこかの国に宛がわれ、子を産むための道具にされかねないからだ。
 だから庶民も貴族も、他国との貿易で生計を立てている商人までも、自国が攻め入られては困るからと、他の国に対しては口を閉ざす。

 小国だからこその団結力とでも言えばいいのか。リンエル王家の持つ力に関しては、誰もが協力的だ。

「家臣がうるさいから結婚するだけだと言ったはずだ。無駄な時間を割く余裕もなければ、そうするつもりもない」
「私もするつもりはないのでご安心ください。先ほどのは口が滑っただけですので」

 自分を愛していない人と国を――しかも大国であるライナストンを一周するほどの時間を過ごすだなんて、どんな拷問だ。
 夜は共にせず、昼も会話せず。そんな冷え冷えとした旅行は断固として拒否する。

「口が滑るということは、望んでいたということだろう。まったく……支援をして、子を孕めない女を娶ってやるだけでも感謝してほしいものだというのに……」

 やれやれと言わんばかりに、うんざりとした顔で言うオーギュストに顔をしかめてしまう。
 望んでないと言っているのに。あらいざらい――予知夢についてぶちまけてやろうかとも思ってしまうが、自制する。
 役立たずだからと外に放りだされた私だけど、それでもリンエル王家は私の家族で、リンエルの民は母国の民だ。
 力があったのだから悔しく思い気持ちもあるけど、だからといって滅ぼしたいわけではない。
 歯噛みし、オーギュストの態度に耐えようと拳を握った私だけど、彼の言葉に違和感を抱いた。

「……子を、孕めない?」

 いったいどこの誰がそんなことを。

「調べがついていないとでも思ったのか? 君は役立たずだと言われていたのだろう」

 王女の務めはどこかに嫁ぎ、子を産むこと。
 だからそう、一般的な感覚でいえば役立たずな王女と呼ばれているのなら、子を産むのに支障があると考えても不思議ではない。

「か、価値観の違い……」

 リンエルと外の世界とのギャップに思わず愕然としてしまった。
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