お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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十二話

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「ライナス・エルフィディナント。このたび、シェリフ様の護衛をさせていただくことになりました」

 ピシっとした騎士の敬礼。枯草色の髪を一つに結んだ青年の顔には見覚えがある。
 融通の利く人を――というお願いを聞いてくれたのだろうけど、融通の利きすぎる人選に、私は一瞬、言葉を忘れた。

 なにしろ彼は一年後、賭博に興じた罪で王都騎士団から除名される。

「あ、え、ええ。よろしくお願いね」

 腕は悪くない。だが良いというほどでもない、中の中。これといった功績もない、子爵家の三男。
 ちょっとした賭け事程度なら黙認されるのだが、彼は違法賭博に手を出してしまう。しかも運が悪いことに、王都の治安を守るべく調査していた諜報員が彼を見つけてしまい、懲戒免職を食らうことになった。

 この人選が悪意によるもの――とは言えないのが、これまた困った問題である。
 今の彼はまだ賭博に手を染めていない。それなりに軽い性格ではあるけど、私が融通の利く人をお願いしたから、それなりに軽い性格をしている人を選んだ結果だろう。

「……俺の顔に何かついていますか?」

 目を丸くしてしまったのに気づかれたのか、ライナスは訝しげな顔で自分の頬を触っている。
 騎士爵をはく奪される彼だけど、今はまだ何もしていない。そして、彼が選ばれたのは私がお願いしたから。
 誰も悪くないのに、気まずい。

「いえ、問題ないわ」

 笑みを作って、気を取り直す。法に触れはしたけど、誰かに暴力をふるったとか、金銭を奪ったとか、そういった荒事をしたわけではない。
 ただちょっと、軽すぎただけ。

「あなた、城下町には詳しい?」
「まあ……人並みには詳しいかと思います。巡回をすることもあるので」

 だけど、その軽さが今の私にはちょうどいいかもしれない。遊びに出たいと言ったら、二つ返事で頷いてくれそうだ。

「それならよかったわ。城下町に降りることがあれば、案内をお願いしたいの」
「城下町に、ですか?」
「ええ、そう。王妃になるのなら、民の生活を肌に感じておいたほうがいいでしょう?」

 なるほど、と納得するライナスに、苦笑の混ざった笑みを向ける。
 騎士ではなくなる彼では、良い人を紹介してもらうのは難しいかもしれない。だけど、手に職をつけるために色々見て回るのには丁度よさそうだ。
 なんとも言えない人選に、私は感謝すればいいのか、うなだれればいいのか、少しだけ悩んだ。
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