お飾り王妃は愛されたい

神崎葵

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八話

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 部屋に戻り一息ついていると、朝食が運ばれてきた。
 オーギュストと一緒に食事を――なんてことはない。忙しいからと、夢の中でも私はいつも一人で食事をしていた。それは結婚していない今でも変わらない。

「陛下はご多忙ゆえ、ご理解くださいませ」
「ええ、いいわ。わかってるから」

 頭を下げる侍女に苦笑しながら返し、朝食に手をつける。

 リンエルが災害に見舞われた際、食料はほぼ底を尽きかけていた。そこらに生えている雑草を食べるしか手はなくなっていた頃に、ライナストンからの支援が届いた。
 まだ完全に復興しているとも言い難いため、その支援はいまだに続いている。
 生きるか死ぬかの瀬戸際で救われ、しかも姫君一人と引き換えに安定するまでの支援を約束されたのだから、我が国のライナストンに対する感謝の意は言葉では言い表せないほどだ。

 もしも夢のとおりに事が運んだとして、私が身を投げても父も母も、兄弟すらも文句を言うことはなかっただろう。
 むしろ、自ら選んだとはいえ死なせてしまったことに謝罪の品を送られ、感謝すらしていたかもしれない。
 彼らからしてみれば役立たずの姫が一人、死んだだけなのだから。

 夢を見てからあまり時間が経っていないからか、どうしても夢の内容ばかり思い出してしまう。
 滅入りそうな気持ちを落ち着けるために、瑞々しいサラダや柔らかいパンに集中する。分厚いベーコンとスープはほどよい塩味で、沈んだ気持ちのまま食べるのはシェフたちに申し訳ない。

「おいしかったと、彼らに伝えてもらえるかしら」
「かしこまりました」

 空になった食器を、朝食をここまで運んできてくれた侍女が下げる。

「ドレスの仮縫いや、式で使う花などは手配しておりますが……シェリフ様ご自身で選びなおされますか?」
「……ええ、そうね。そうするわ」

 そのままでもいいと言っても構わないけど、それではあっという間に準備が終わってしまう。
 しっかり――彼の愛する女性に似合うものを吟味し、一年かかってもしかたないと思われてもおかしくないように、時間をかけないといけない。

「それでは彼らがこちらに到着するまで、しばらくお待ちくださいませ」

 呼びました、はい来ました、とはいかない。
 仕立て屋や花屋、それから装飾品の類を頼むために宝石商にも文を飛ばし、城に到着したらしたで身分証の確認や危険物はないかなどの確認もしなければいけない。
 入城するためにはいくつかの書類にサインもしないといけないので、どうしても時間がかかる。
 だから、誰かしらに会うのは早くても明日。今日は完全な自由時間、ということだ。

「それなら城内を案内してくれる?」
「かしこまりました」

 リンエルに帰って愛してくれる人を探すよりは、ライナストンで探すほうがいい。
 王妃になる相手と見られるとは思うけど、王族の力を持たない姫として見下されるよりはマシだ。

 少しでもほのかな想いを抱いてくれれば、オーギュストとの結婚話がなくなったら良好な関係を築けるかもしれない。
 その相手が王都から離れた場所に家を構えていればもっといいけど、そこまで高望みはしない。

 一番大切なのは、私を愛してくれるかどうかだ。
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