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四十五話 ※サイラス視点
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それからしばらく経ち、長期休暇まで残りわずかとなった。シェリルに見せる刺繍はいまだ完成していない。失敗作ならば大量にできたが。
「……しかたない、か」
できれば、学園にいる間に仕上げたかった。だが贈るかもしれないのなら出来のよいものを見せたいと思ってしまったがために、間に合わせることができなかった。
サイラスは針を入れている最中のハンカチを机に置き、部屋を出る。向かう先は、女子寮だ。
今日は休日で、予定がなければシェリルは寮にいるだろうと考えてのことだ。
刺繍は完成していないが、長期休暇中に父親と話す旨を伝えるべくシェリルを呼び出すと、少ししてから寮から出てくる彼女を見つけた。
「サイラス様。……本日はどのようなご用件でしょうか」
シェリルもサイラスを見つけ、挨拶を交わしてから本題に入った。
「長期休暇で父と……お前との婚約について話すことになった。どうなるかはわからんが、そのうちそちらにもなんらかの話がいくだろう」
父がどういった結論を出すのかは定かではないが、婚約を破棄したいとシェリルに伝えたことは手紙に綴った。どうなったとしても、詫びと今後の関係についての連絡をアンダーソン家に入れることになるだろう。
「そうですか……かしこまりました」
頷くシェリルにサイラスは視線をさまよわせる。伝えるべきことはこれですべてだが、もしかしたらこれが最後のやり取りになるかもしれない。
悩みに悩んだ結果、サイラスはゆっくりと口を開いた。
「……刺繍、のことだが……」
「はい。どうかされましたか?」
「その、まだ完成していない……長期休暇中にでも仕上がったら、感想を聞かせてもらえるだろうか」
「え、ええ。構いません」
ぱちくりと目を瞬かせるシェリルにサイラスはほっと一息つく。
アルフとは違い、サイラスはシェリルとの接点がほとんどない。婚約関係が終われば、顔を合わすことも、話すこともなくなるだろう。
だがほんのわずかとはいえ繋がりを持つことができたことに安堵しかけ――サイラスの脳裏にアルフの元婚約者がそばにいて気分のよい相手はいない、といった言葉がよみがえる。
シェリルがどういった相手を次の婚約者に選ぶのかはわからないが、元婚約者が思慕していると知って、快く交流を受け入れる相手はそういないことは、サイラスもわかった。
以前まではシェリルに抱いている感情を理解していなかったために考えが至らなかったが、今は違う。
「助かる」
だから、仕上がった刺繍を贈るのを最後にしようと心の中で誓い、笑みを浮かべる。
それでもなお刺繍を贈ることをやめようとしない自分と、胸に広がるもやもやとした感情から目を逸らして。
「……しかたない、か」
できれば、学園にいる間に仕上げたかった。だが贈るかもしれないのなら出来のよいものを見せたいと思ってしまったがために、間に合わせることができなかった。
サイラスは針を入れている最中のハンカチを机に置き、部屋を出る。向かう先は、女子寮だ。
今日は休日で、予定がなければシェリルは寮にいるだろうと考えてのことだ。
刺繍は完成していないが、長期休暇中に父親と話す旨を伝えるべくシェリルを呼び出すと、少ししてから寮から出てくる彼女を見つけた。
「サイラス様。……本日はどのようなご用件でしょうか」
シェリルもサイラスを見つけ、挨拶を交わしてから本題に入った。
「長期休暇で父と……お前との婚約について話すことになった。どうなるかはわからんが、そのうちそちらにもなんらかの話がいくだろう」
父がどういった結論を出すのかは定かではないが、婚約を破棄したいとシェリルに伝えたことは手紙に綴った。どうなったとしても、詫びと今後の関係についての連絡をアンダーソン家に入れることになるだろう。
「そうですか……かしこまりました」
頷くシェリルにサイラスは視線をさまよわせる。伝えるべきことはこれですべてだが、もしかしたらこれが最後のやり取りになるかもしれない。
悩みに悩んだ結果、サイラスはゆっくりと口を開いた。
「……刺繍、のことだが……」
「はい。どうかされましたか?」
「その、まだ完成していない……長期休暇中にでも仕上がったら、感想を聞かせてもらえるだろうか」
「え、ええ。構いません」
ぱちくりと目を瞬かせるシェリルにサイラスはほっと一息つく。
アルフとは違い、サイラスはシェリルとの接点がほとんどない。婚約関係が終われば、顔を合わすことも、話すこともなくなるだろう。
だがほんのわずかとはいえ繋がりを持つことができたことに安堵しかけ――サイラスの脳裏にアルフの元婚約者がそばにいて気分のよい相手はいない、といった言葉がよみがえる。
シェリルがどういった相手を次の婚約者に選ぶのかはわからないが、元婚約者が思慕していると知って、快く交流を受け入れる相手はそういないことは、サイラスもわかった。
以前まではシェリルに抱いている感情を理解していなかったために考えが至らなかったが、今は違う。
「助かる」
だから、仕上がった刺繍を贈るのを最後にしようと心の中で誓い、笑みを浮かべる。
それでもなお刺繍を贈ることをやめようとしない自分と、胸に広がるもやもやとした感情から目を逸らして。
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