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三十四話 ※アルフ視点

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 アルフにとってサイラスは幼少期に付き合いがあっただけにすぎない。
 だが武術科生の監督を務めるようになってからは、嫌でも視界に入ってきた。
 何しろ暇さえあれば鍛錬場に入り浸っているような男だ。男子寮でも彼の話題が上ることは少なくなく、武術科生同士の諍いにもよく顔を出していた。

 剣にしか興味のない真面目な男、それが周囲がサイラスに下している評価だった。

「君は昔から自分を基準に物を考えすぎなんだよ」

 アルフはサイラスのことを嫌っているわけではない。ただただ根本的に合わないと思っているだけだ。

「君がシェリルを守りたいと思うのは君の勝手だけど、彼女が新しく選んだ相手も同じことを考えるなんて思わないほうがいい」

 むしろ、元婚約者が騎士になっているのを嫌う相手のほうが多いだろう。
 だがサイラスはそれを考えに入れていない。シェリルのことと目の前のことでいっぱいで、その先にまで考えが及んでいないのだとアルフは小さく息を吐く。

「もしも新しい婚約者が君の解任を条件に出してきたらどうするつもり?」
「それは……」

 揺らぐ青い瞳にアルフは溜息を落とす。
 やはりそこまで考えていなかったのだろう。

 アルフは体の弱い子供だった。大病を患ったわけではないが、ことあるごとに体調を崩し、医者にかからなければならなかった。
 そしてアシュフィールド領を訪ねるたびサイラスに連れ回され、毎回のように体調を崩していた。体が弱いというのがどいうことなのか、幼いサイラスは理解しなかったのだ。

 年の離れた二人の兄に可愛がられ、何不自由なく育ったサイラスに他者に対する気遣いが欠けていたのはしかたのないことだろう。
 しかも幼い頃の話だ。子供なんてものは何よりも自分が優先だということは今のアルフならわかっている。
 だがその当時はアルフも子供で、本を読もうと言っても鍛錬や運動にしか誘わないサイラスに我慢ができなくなった。

 たとえ付き合いのある相手でも、アシュフィールド公爵のほうが家格は上だ。その子供に不満をこれでもかとぶつけたのだから、大問題になってもおかしくはなかった。
 だがアシュフィールド公爵はアルフの言動を許し、逆にサイラスをたしなめた。

「もしくは、相手が文武に長けている相手だったら? そうしたら君が騎士になる必要はないよね。……それならしかたないって引きさがれる」

 それからいくらかしてから、サイラスから謝罪の手紙が届いた。
 忠告を胸に刻み精進する、と子供なりの拙い文字と言葉が綴られていたそれに、アルフは頭を抱えた。

 サイラスは考えの足りない部分はあるが、基本的に素直なのだ。ただキレただけの言葉を忠告と受け取る程度には。

「無理だよね。婚約者にふさわしくないって身を引こうとしてるのに、未練がましく騎士になろうとしてるんだから」

 そんな素直な男が、身を引こうとしながらもシェリルのそばに自身の立ち位置を作ろうとしている。
 どうしてそんな矛盾した行動を取るのか。考えられる理由など一つしかないだろう。

「彼女のことが好きなら、それにふさわしい行動を取りなよ」
「す……いや、それは……」

 みるみるうちに赤くなる顔と揺らいでいる瞳に、アルフは痛みそうになるこめかみを押さえた。
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