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二十七話

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「――お前にどうしてなのか聞くべきだったと、今は思っている」

 机を挟んだ先で静かに言うサイラスにシェリルはわずかに目を伏せた。
 聞かれたとして、答えられたかどうかわからなかったからだ。

 家庭の内情を人に話すのは、貴族社会においてはなるべく避けたほうがいい。学園にいる間はそこまで気負わず接することのできる相手でも、外に出れば色々なしがらみが生まれ、他人の足をすくわなければならない事態も起こりえる。
 できる限り弱みを見せず、隙を生み出さないようにしなければならない――次期当主になる身として、そう考えたとしてもおかしくはない。

「過ぎたことは、構いません。それよりも……この度贈っていただいたこちらですか、私に受け取る理由はありませんので、お返しいたします」

 だから明言することを避け、サイラスに会いに来た本題に戻した。

「それはお前に贈ったものだ。お前に持っていてほしい」
「……妹と、アリシアと似たようなものを持てとおっしゃるのですか?」
「あいつが奪ったものはすべてこちらに回すように言ってある。……似たものを持ちたくないと言うのなら、さらに手を入れて別物にしてもいい」

 机の上に置かれたブローチを頑なに受け取ろうとしないサイラスに、シェリルは小さく息を吐いた。
 これを受け取れない理由は、アリシアのことだけではない。
 もっと根本的な問題がある。

「……婚約を破棄した相手に貢いでいた、だなんて噂が立つのは……私にもサイラス様にもよろしくありません」

 婚約の破棄を宣言したのが前か後かは問題ではない。短期間で貢いだ事実と婚約を破棄した事実が重なれば、よからぬ噂を立てる者も出てくるだろう。

「ですから私は、受け取るわけにはいかないのです」
「……それは……すまなかった。そこまで、考えが回せなかった……」

 苦々しく紡がれた声に、シェリルはふとアルフの言っていた「目先のにんじんしか見えていない」という言葉を思い出す。
 つまりは、そういうことなのだろう。アリシアから話を聞き、義憤に駆られ、突っ走った。その結果が今なのだと考え、シェリルはため息をこぼす。

「私のことはどうぞお気になさらず。他のものも後日お返しいたしますので……今日はこれで失礼いたします」

 ブローチを机の上に置いたまま席を立つ。一礼し立ち去ろうとした背中に「シェリル」と彼女を呼ぶ声がかけられた。
 まだ何かあるのかとシェリルは振り返り――

「シェリル・アンダーソン。俺はお前に、剣を捧げる」

 地面に膝をつき、口早に言うサイラスにシェリルは驚いて目を丸くした。こちらを真っ直ぐに見据える青い瞳と真剣な表情。
 いったい何を考えているのか――シェリルが問いかけるよりも早く、サイラスの口が開かれ。

「――ようやく、目が合ったな」

 そう言って、サイラスはどこかほっとしたように顔をほころばせた。
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