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二十五話
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「珍しいな……どうかしたのか?」
シェリルの呼び出しに応じたサイラスは、わずかに目を丸くしながら首を傾げた。
その仕草に、シェリルは顔をひきつりそうになるのをこらえる。
「どうかしたのかも……いえ、ここでは少々人目に付きますので……場所を変えませんか?」
行き交う男子生徒が珍しいものを見るかのようにちらちらとこちらを気にしている。さすがにその中で贈られてきたものに関する文句を言うことはできず、シェリルは声を落としながら言った。
サイラスも周囲に視線を這わせてから頷くと、前に利用したテラスにシェリルを案内した。
「……こちらですが、受け取れません」
そしてテラスに到着し一息ついたところで、シェリルは本日届いた贈り物を机の上に置く。小さな木箱の中には、ブローチがひとつ。大粒の宝石が中央にはめこまれ、周囲を飾るように小粒の宝石が散っているそのブローチは、一目で高価なものだとわかる代物だった。
「いえ、こちらだけではありません。この間から贈られてきているものすべて、お返しいたします」
「……理由を聞いてもいいだろうか」
「花束程度でしたら婚約関係ということもあり、義理として受け取ることもできましたが……それ以外は、いずれ婚約を破棄することを踏まえると、あまりにも値が張りすぎています」
「それなら心配するな。……鍛錬ぐらいしかすることがなかったから、金なら山ほどある」
武術科生は時々鍛錬という名目で、木の伐採やらなんやらの手伝いをしていることはシェリルも聞いている。そして手伝い賃をもらっていることも。
ちょっとした小遣い稼ぎにいいらしいと、武術科生に婚約者のいる令嬢が話していたからだ。その後に「でも自分の武器や防具を新調するのに使うのよ」と不満を漏らしていたこともついでに思い出し、シェリルは小さく息を吐いた。
「山ほどあるのでしたら、私に何か贈るのではなく剣などを新調されればよろしいのでは?」
「……剣の手入れは定期的に行っている。……それに、それはお前が受け取るべきものだ」
木箱に視線を落として言うサイラスにシェリルは首を傾げる。
受け取るべきだと言われても、まったく心当たりがなかったからだ。
「やはり、少し違っていたか。……一から作れればよかったのだが、いかんせん時間が足りなかったからな。既製品に手を加えるという形になってしまったのは、すまない」
「いえ……サイラス様。なんのお話をされているのですか?」
「何と言われても……それはお前が以前持っていたもの――に似せて作らせたものだ」
目を瞬かせてシェリルは木箱の中に目を向けた。
見たことがあるような気はするが、それだけだ。シェリルが困惑していると、サイラスがさらに言葉を続けた。
「……過ぎた時間を取り戻すことはできない。だからせめてお前が奪われたものを、と思ったんだが……」
奪われたという言葉で頭をよぎるのは、アリシアがシェリルのもとから持っていったドレスやアクセサリーの数々。
そのすべてをシェリルは覚えているわけではない。いつからか、どうせ取られるからと興味を向けることすらもやめていた。
だから木箱に入っているブローチがその一つ――正確にはよく似せたものらしいが――なのだと言われても、ピンとこなかった。
「……どうして、サイラス様がそのことを?」
それよりも気にかかったのが、どうしてサイラスがそれを知っているのか、ということだった。
「聞いたからだ。お前の妹から」
シェリルの呼び出しに応じたサイラスは、わずかに目を丸くしながら首を傾げた。
その仕草に、シェリルは顔をひきつりそうになるのをこらえる。
「どうかしたのかも……いえ、ここでは少々人目に付きますので……場所を変えませんか?」
行き交う男子生徒が珍しいものを見るかのようにちらちらとこちらを気にしている。さすがにその中で贈られてきたものに関する文句を言うことはできず、シェリルは声を落としながら言った。
サイラスも周囲に視線を這わせてから頷くと、前に利用したテラスにシェリルを案内した。
「……こちらですが、受け取れません」
そしてテラスに到着し一息ついたところで、シェリルは本日届いた贈り物を机の上に置く。小さな木箱の中には、ブローチがひとつ。大粒の宝石が中央にはめこまれ、周囲を飾るように小粒の宝石が散っているそのブローチは、一目で高価なものだとわかる代物だった。
「いえ、こちらだけではありません。この間から贈られてきているものすべて、お返しいたします」
「……理由を聞いてもいいだろうか」
「花束程度でしたら婚約関係ということもあり、義理として受け取ることもできましたが……それ以外は、いずれ婚約を破棄することを踏まえると、あまりにも値が張りすぎています」
「それなら心配するな。……鍛錬ぐらいしかすることがなかったから、金なら山ほどある」
武術科生は時々鍛錬という名目で、木の伐採やらなんやらの手伝いをしていることはシェリルも聞いている。そして手伝い賃をもらっていることも。
ちょっとした小遣い稼ぎにいいらしいと、武術科生に婚約者のいる令嬢が話していたからだ。その後に「でも自分の武器や防具を新調するのに使うのよ」と不満を漏らしていたこともついでに思い出し、シェリルは小さく息を吐いた。
「山ほどあるのでしたら、私に何か贈るのではなく剣などを新調されればよろしいのでは?」
「……剣の手入れは定期的に行っている。……それに、それはお前が受け取るべきものだ」
木箱に視線を落として言うサイラスにシェリルは首を傾げる。
受け取るべきだと言われても、まったく心当たりがなかったからだ。
「やはり、少し違っていたか。……一から作れればよかったのだが、いかんせん時間が足りなかったからな。既製品に手を加えるという形になってしまったのは、すまない」
「いえ……サイラス様。なんのお話をされているのですか?」
「何と言われても……それはお前が以前持っていたもの――に似せて作らせたものだ」
目を瞬かせてシェリルは木箱の中に目を向けた。
見たことがあるような気はするが、それだけだ。シェリルが困惑していると、サイラスがさらに言葉を続けた。
「……過ぎた時間を取り戻すことはできない。だからせめてお前が奪われたものを、と思ったんだが……」
奪われたという言葉で頭をよぎるのは、アリシアがシェリルのもとから持っていったドレスやアクセサリーの数々。
そのすべてをシェリルは覚えているわけではない。いつからか、どうせ取られるからと興味を向けることすらもやめていた。
だから木箱に入っているブローチがその一つ――正確にはよく似せたものらしいが――なのだと言われても、ピンとこなかった。
「……どうして、サイラス様がそのことを?」
それよりも気にかかったのが、どうしてサイラスがそれを知っているのか、ということだった。
「聞いたからだ。お前の妹から」
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