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二十四話
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一週間が過ぎ、休みの日を迎えたシェリルは部屋着から着替えようとクローゼットを開けた。だがそこで手が止まる。
「……そういえば、次の休みにとは言われなかったわね」
三週間連続で会っていたので同じような感覚でいたが、今日は会おうとは言われていないことを思い出したのだ。
先週も先々週も、サイラスがいつ来るのかわからず急いで支度を終えていた。しかし、何も言われていない今日はその必要はないのだと気づき、クローゼットの扉を閉める。
朝食は部屋に運ばれてくるので着替える必要はない。遅くても、昼食までに着替えればいい。
「どうしようかしら……」
だが、それはそれで手持無沙汰だった。
他の女子生徒が主催する茶会の招待もなく、学園にある図書館から本を借りてきてもいない。
四週間前の自分はどうやって過ごしていたのか――考えはじめたところで、扉の叩く音が聞こえてきた。
「どうぞ」
シェリルが声をかけると、ゆっくりと扉が開かれた。扉の向こうにいたのは、女子寮の管理を任されている使用人だった。
使用人は深く頭を下げると、部屋に入ることはせずに用件だけを口にした。
「シェリル・アンダーソン様。お荷物が届いております」
何かを注文した覚えもなければ、実家から何か送られてくる予定もない。
そもそも、実家から送られてくるものといえば日用品などの生活必需品を買いそろえるための金銭ぐらいだ。
いったい何が――首を傾げながらも、荷物を受け取るためにシェリルは先ほど閉めたばかりのクローゼットを開けた。
危険物の持ち込みなどは禁止されているため、荷物は預かり所で一度開けて管理している者と一緒に中身を確認しなければならない決まりがある。
「必要ないとは思うけど、まあ規則だから……」
申し訳なさそうに管理人が差し出したのは、大きな花束だった。
色とりどりの、と言えば聞こえはよいが、種類も大きさもばらばらな花束にシェリルは首を傾げた。
まず間違いなく実家からではない。かといって、花を贈ってくる相手にも心当たりはない。
メッセ―ジカードも何も入っていない花束に、受け取るのを躊躇したシェリルは管理人に差出人に心当たりはないかと聞いた。
「えーと……」
ノートをめくりながら管理人が口にしたのは、学園都市にある一番大きな花屋。
そして、注文した人の名前は――サイラス・アシュフィールド。紛れもなく、シェリルの婚約者の名前だった。
「……サイラス様は、何を考えているのかしら」
休み明け、シェリルは歴史の授業で隣の席に座ったアルフにいつものように言う。
毎週休みが明けるたびにこの言葉を口にしているような気がした。
「今度は何があったの?」
「それが――」
花束の一件を話すと、アルフの口元に苦笑が浮かんだ。
「いや、まあ……花を贈るのに考えられる理由なんて、そんなにないんじゃないかな」
「これまで花を贈られたことはなかったわ」
誕生日などの折にアシュフィールド家から贈り物が届くことはあったが、アクセサリーのたぐいがほとんどで、何度か着けたところでアリシアの手に渡った。
十四歳からは焼き菓子の詰め合わせなどの食べるものになったが、それでも花を贈られたことはない。
「何か、心変わりをするようなことがあった、とか……?」
曖昧に言うアルフに、シェリルは何があっただろうかと考えを巡らせる。
心当たりがあるとすれば、喫茶店で交わしたやり取り。だが、改善を試みるという言葉と花束との間に関連性が掴めない。
ただただ首を捻るしかない贈り物は、次の休みにも、そのまた次の休みにも続いた。
そして贈られてきたものは花束ではなかった。どこかで見たことがあるようなアクセサリーやドレス。
店から直接届いたそれらには花束同様メッセージカードは付いていなかったが、代わりに納品書が一緒に届けられており、そこに記された名はサイラスだった。
そして四週間続いたところで、シェリルは届いた荷物を手に男子寮に赴いた。
「……そういえば、次の休みにとは言われなかったわね」
三週間連続で会っていたので同じような感覚でいたが、今日は会おうとは言われていないことを思い出したのだ。
先週も先々週も、サイラスがいつ来るのかわからず急いで支度を終えていた。しかし、何も言われていない今日はその必要はないのだと気づき、クローゼットの扉を閉める。
朝食は部屋に運ばれてくるので着替える必要はない。遅くても、昼食までに着替えればいい。
「どうしようかしら……」
だが、それはそれで手持無沙汰だった。
他の女子生徒が主催する茶会の招待もなく、学園にある図書館から本を借りてきてもいない。
四週間前の自分はどうやって過ごしていたのか――考えはじめたところで、扉の叩く音が聞こえてきた。
「どうぞ」
シェリルが声をかけると、ゆっくりと扉が開かれた。扉の向こうにいたのは、女子寮の管理を任されている使用人だった。
使用人は深く頭を下げると、部屋に入ることはせずに用件だけを口にした。
「シェリル・アンダーソン様。お荷物が届いております」
何かを注文した覚えもなければ、実家から何か送られてくる予定もない。
そもそも、実家から送られてくるものといえば日用品などの生活必需品を買いそろえるための金銭ぐらいだ。
いったい何が――首を傾げながらも、荷物を受け取るためにシェリルは先ほど閉めたばかりのクローゼットを開けた。
危険物の持ち込みなどは禁止されているため、荷物は預かり所で一度開けて管理している者と一緒に中身を確認しなければならない決まりがある。
「必要ないとは思うけど、まあ規則だから……」
申し訳なさそうに管理人が差し出したのは、大きな花束だった。
色とりどりの、と言えば聞こえはよいが、種類も大きさもばらばらな花束にシェリルは首を傾げた。
まず間違いなく実家からではない。かといって、花を贈ってくる相手にも心当たりはない。
メッセ―ジカードも何も入っていない花束に、受け取るのを躊躇したシェリルは管理人に差出人に心当たりはないかと聞いた。
「えーと……」
ノートをめくりながら管理人が口にしたのは、学園都市にある一番大きな花屋。
そして、注文した人の名前は――サイラス・アシュフィールド。紛れもなく、シェリルの婚約者の名前だった。
「……サイラス様は、何を考えているのかしら」
休み明け、シェリルは歴史の授業で隣の席に座ったアルフにいつものように言う。
毎週休みが明けるたびにこの言葉を口にしているような気がした。
「今度は何があったの?」
「それが――」
花束の一件を話すと、アルフの口元に苦笑が浮かんだ。
「いや、まあ……花を贈るのに考えられる理由なんて、そんなにないんじゃないかな」
「これまで花を贈られたことはなかったわ」
誕生日などの折にアシュフィールド家から贈り物が届くことはあったが、アクセサリーのたぐいがほとんどで、何度か着けたところでアリシアの手に渡った。
十四歳からは焼き菓子の詰め合わせなどの食べるものになったが、それでも花を贈られたことはない。
「何か、心変わりをするようなことがあった、とか……?」
曖昧に言うアルフに、シェリルは何があっただろうかと考えを巡らせる。
心当たりがあるとすれば、喫茶店で交わしたやり取り。だが、改善を試みるという言葉と花束との間に関連性が掴めない。
ただただ首を捻るしかない贈り物は、次の休みにも、そのまた次の休みにも続いた。
そして贈られてきたものは花束ではなかった。どこかで見たことがあるようなアクセサリーやドレス。
店から直接届いたそれらには花束同様メッセージカードは付いていなかったが、代わりに納品書が一緒に届けられており、そこに記された名はサイラスだった。
そして四週間続いたところで、シェリルは届いた荷物を手に男子寮に赴いた。
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