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二十三話 ※アルフ視点

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「……サイラス様が何をしたいのか、本当にわからないわ」

 悩みぼやく友人シェリルに、アルフは小さく唸る。
 かつての友人は、ある日を境に交流が途切れた。だが学園に入学し、彼の婚約者と友人になったことにより――幼少期の頭痛の種が、今もまた頭痛の種と化していた。

「考えるだけ無駄だと思うよ」

 そうは言ってみるが、シェリルは考えるのをやめることはできないだろう。それが正常だ。
 鍛錬となればそれ以外がすべて頭からすっぽ抜ける武術科生がおかしいのだと、アルフは心の中で苦笑を浮かべる。

「寝覚めが悪いと言うのなら、視界に収めず忘れてしまえばよろしいのに」

 ため息を零すシェリルの顔は、それが本意であるとうかがえる。
 休みの日に出かけたことは知っている。だが踏みこみ過ぎてはいけないだろうと、細部までは聞いていない。
 だがそれでも、シェリルの口振りと顔色からしておかしなことが起こったことは予想がつく。
 アルフはどうしたものかと頭を悩ませる。

 サイラスとシェリルは今のところ婚約関係を結んでいる。そこで「あいつは馬鹿だから深いこと考えてないと思うよ」と言うのは、さすがに躊躇われた。

「……武術科生は、馬みたいなのが多いんだよね。目先にぶら下がったにんじんしか見えないというか……」

 必死に言葉をこねくり回し、サイラス一人ではなく武術科生全体にまで広げ、さらには直接的な言葉も避けた。
 だがいくらあがこうと、当たり障りのない聞こえのよい言い回しはできなかった。

「まあ、だから、君が悩むほどのことではないと思うよ」
「ええ、そうね……」

 儚げに微笑むシェリルにアルフがさらに何か言うよりも先に、次の授業を知らせる音が鳴り響いた。



 アルフを悩ませている頭痛の種は、サイラスだけではない。
 この二、三日の間、いるはずのない人物を鍛錬場に見かけるようになったのだ。

「ですから、私だって――」

 場にそぐわない高い声。鍛錬場は武術科生以外にも開放されているとはいえ、女子生徒が混ざるのは本当に稀だ。
 女子がいるというだけで士気が高まるのはいいことだが、よからぬことを考える輩が出ないとも限らない。
 サイラスは問題行動も少なく鍛錬場の常連なので、彼がいる前で女子生徒相手に何かしようと思う奴はいないだろうと安心――できないのが今の状況だ。

 何しろここ最近のサイラスはどこか気が抜けている。暇さえあれば鍛錬場にこもっていた男が、この数週間は休日の鍛錬を途中で抜け、前回の休日では休みをもらっていた。
 その理由を知ってはいるので不思議には思わないし、休日を休むのはいたって普通のことなのであまり気にしていなかったが――前回の休日を終えてからというもの、鍛錬の真っ最中でもぼんやりとしたり、途中で抜けることが増えたのだ。
 これまでの鍛錬漬けがおかしかったのと、他の生徒から不平不満の声が上がっていないので教師陣はたいして気にしていない。
 だが昔からサイラスのことを知っているアルフからしてみれば、今の彼の状態は正常とは言いがたい。
 他の武術科生に注意したりを期待できるか怪しい、とアルフしかたなく鍛錬場に続く扉を開いた。

「君たち! 鍛錬場はお喋りの場じゃない! 手を足を動かす気がないのなら、さっさと掃除を済ませて他の場所に行け!」

 鍛錬場にいる面々に声をかけ、その中にサイラスと――それからシェリルの妹アリシアの姿を見つけ、アルフは痛みそうになるこめかみを押さえた。

 鍛錬場は誰にでも開放されている。開放されているが、アリシアが足繁く通っていると聞けば、シェリルはあまりよい気分にはならないだろう。だが、どう説明すればいいのか――

 日に日に増えていく頭痛の種に、アルフはそろそろ頭痛薬でももらうべきだろうかと悩んだ。
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