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二十話

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 学園を出ると、シェリルはサイラスを見上げた。
 アリシアの介入があったこともあり、結局どこに行くのか何も知らないからだ。

「サイラス様。……本日のご予定は?」
「あ、ああ……そうだな……」

 だがサイラスはそこまで言うと黙りこみ、行き先を告げない。
 まさかまったく予定を立てていなかった、ということはないだろう。ならば考えられるのは、出発時間がずれたことにより、予定していた場所に行けなくなった――という可能性にシェリルは行き着く。
 昼前に待ち合わせをしていて、今はすでに昼を過ぎている。普通に考えれば、食事の予定とかを組みこんでいたとしても不思議ではない。
 予約などの時間に制限のある予定をいれていたとしたら、予定が狂っていたとしてもおかしくないからだ。

「……少々小腹も空きましたし、空いているお店に入って軽食でもいただきませんか?」

 人気のあるお店は予約していないと入れない場合が多い。休日などの学園の生徒が行き交う日はとくに。
 だが喫茶店などの、客の入れ替わりが早い店であれば予約がなくとも入れることが多い。
 シェリルの提案にサイラスは悩むように唸ってから「行きたい店はあるか?」と聞いてきた。

 シェリルは普段街中に遊びに出かけることはあまりない。学術科の生徒に誘われれば応じはするが、自ら何かほしい、何かしたい、と思ったことがないからだ。
 だから行きたい店と問われても、ピンとはこない。

 だが先ほどのアリシアとサイラスとのやり取りを思い出す。武術科生らしい考えをしているサイラスのことだ。
 これまでに耳にした武術科生とのお出かけ事情を考えると、サイラスもあまり詳しくない可能性が高い。

「そう、ですね。……美味しいサンドイッチを出すお店があるそうですので、そちらでもよろしいでしょうか?」

 シェリル自身は行ったことはないが、流行に敏感な者の多い学術科において、街中に新しくできた店や取り扱っているものに関しての話題は尽きない。
 これまで聞いてきた中から、ケーキなどの好みがわかれそうなものをはぶき、それでいてそこそこ腹にたまりやすいものを選んだ。
 サイラスもとくに不満はないようで、素直に頷いた。


 そしてシェリルの案内のもとたどり着いた喫茶店で、出された飲み物で喉を潤してから、シェリルは目の前に座るサイラスを見る。
 ここに来るまでも、到着してからも難しい顔をしている。アリシアに強靭な魂がどうとかを説いていた時には饒舌だった喋りも、今は失われている。

 アリシアとサイラスが親しい間柄だったから――と考えるには、あのやり取りはどこかおかしかった。
 むしろ、シェリルのことをおもんばかっての言葉だった。そう言われるほうがしっくりくるほどだった。

「……サイラス様」
「ん? どうかしたのか?」

 首を傾げるサイラスにシェリルは逡巡する。
 抱いた疑問を口にしてもいいのだろうか、と。
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