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十三話 ※アリシア視点

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 姉にだけ婚約者がいるのがずるい、と考えたわけではない。
 アリシアが考えたのは、公爵家の子息が婚約者だから次期当主とみなされているのでは――というものだった。

「だけど、もし……サイラス様が姉さまを当主にふさわしくないって言い出したら……」

 アリシアはこれまでサイラスと個人的なやり取りをしたことはない。だが、婚約者の妹に呼び出されれば応じるだろうことは予想できた。
 学園に来る前の茶会は各々の家で行われていたのだが、アンダーソン家で開かれる際にサイラスは毎回手土産を持参していた。
 そういった気遣いができるのだから、自分が呼び出しても邪険にはされないだろうと考えたのだ。

 そして案の定、サイラスはアリシアの呼び出しに応じた。
 男子生徒ばかりの武術棟の前で待つのは緊張していたが、サイラスが無事顔を見せると、アリシアはここぞとばかりに満面の笑みを浮かべた。

「本日は急な呼び出しに応じてくれてありがとうございます」
「……いや、構わん。それで、話というのは?」
「ここですと人目もありますし、もう少し静かに話せるところにいきませんか?」

 武術棟に女子生徒がいるのは珍しい。道行く人がちらちらとこちらを見ていることに気づき、アリシアは庭園に行こうと提案する。
 庭園は憩いの場としても使われているのでそこそこ人はいるが、注目を浴びるほどではない。
 サイラスは少し考えるようにしてから、わかったと頷いた。


 そして花々が咲き誇る庭園で、アリシアは胸の前で手を組み、あたかも姉を案じる妹の顔で話しはじめる。

「……姉さまはあまり明るい方ではないから……ちゃんと侯爵家を取り仕切れるのが不安なんです」
「……ふむ、そうか」
「それに当主でも女主人なら社交も重要になりますし、姉さまの性格を考えると難しいんじゃないかって……」
「……ふむ、そうか」
「……あの、聞いてます?」

 ふむ、そうかとしか言わないサイラスに、アリシアは少しだけ顔をひきつらせながら首を傾げる。

「ああ、聞いている」

 真剣な顔つきでこちらを見下ろすサイラスに、アリシアは若干の不安を抱きながらも、姉がいかに当主にふさわしくないかを語った。

「当主ともなると、自己主張も必要じゃないですか。だけど姉さまはあの通りで……やはり、次期当主の座は荷が重いのではないかな、と思うのです」
「……ふむ」
「それにサイラス様も……政略とはいえ、姉さまのような方が相手では気疲れしてしまうこともあるでしょうし……サイラス様ならもっとよい方と巡り会えるのではないか、と思うのです」

 上目がちに見上げ、アリシアはサイラスの腕にそっと手を添える。
 これでサイラスが自分を選んでくれれば、次期当主になれるかもしれない。そうでなくとも、サイラスの婚約者という立場がなくなれば、シェリルの次期当主という話はうやむやになるかもしれない。
 祈るように見上げるアリシアに、サイラスは一つ、頷いて返す。

「よし、わかった」

 その力強い返事に、アリシアは心の奥でほくそ笑んだ。


 だがそれから三週間ほどして、アリシアの耳に入ってきたのはサイラスとシェリルが二人で出かけるようだ――という話だった。
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