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十話
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そうして日は流れ、休みの前日になり、シェリルは一人部屋の中で首を捻っていた。
「……何を着ていけばいいのかしら」
普段の茶会ではそれにふさわしいものを選んでいた。
アリシアがずるいと言うので簡素なものばかりだが、サイラスと会うのに失礼のないようにと誂えられたものは素材も織りもそれ相応のものを用意してもらえていたからだ。
だから、普通に考えれば茶会と同じものを着ていけばいいのだが――
「街に出て、何をするのかしら」
学園の周りには様々なお店が並んでいる。貴族の令息令嬢を相手することが多いためか、品揃えは豊富で質もいい。
喫茶店などもあるので、そういったところで過ごすのなら普段通りの服装で構わないだろう。
だが、シェリルの脳裏にとある令嬢たちのやり取りがよみがえる。
「――ほんとうに信じられないのよ!」
そう言って憤っていたのは、武術科に婚約者のいる令嬢だった。
何人かの令嬢を集めた茶会で、街中に遊びに出たと聞いたけどどうだったのか、と別の令嬢が質問したとたん、そう言いだしたのだ。
「武具店に連れていかれても、何をしろって言うのよ。どれが合うかなんて聞かれても知らないわよ。自分の筋肉と相談してなさいよ」
「ああ、武術科の方ってそういうところあるわよね。私も前に遊びに行こうと誘われて……丁度新しい喫茶店が開いたばかりだったから、そこに連れて行ってくれるのかと思っておめかししたのよ。それなのにあの人、馬に乗ろうとか言い出して――」
武術科に婚約者や恋人がいる令嬢たちが思い思いに口を開くのを、シェリルはカップに口をつけながら聞いていた。
サイラスも武術科生である。動きにくい服装をしている時に遠乗りをしよう、と言い出さないとは限らない。
「身軽なもの、のほうがいいわよね」
普段以上に簡素な装いになってしまうが、どのような事態にも対応できるほうがいいだろう。
シェリルは衣装棚を開き、できるだけ動きやすそうな服を物色しはじめた。
一方その頃、武術棟の鍛錬場では。
「いいか、あいつらは武器に興味がない」
「ああ、防具にもだ」
「風が気持ちいいから馬に乗ろうと言ったら怒られた」
「山菜が上手い時期だから山に行こうと言ったら帰られた」
「それに長時間歩くのにも慣れていないんだよな。朝から晩まで歩いていたら店ぐらい入ろうと言われた」
「デートは鍛錬の場じゃないとも言われたことがある」
――そんなやり取りが繰り広げられていた。
「……何を着ていけばいいのかしら」
普段の茶会ではそれにふさわしいものを選んでいた。
アリシアがずるいと言うので簡素なものばかりだが、サイラスと会うのに失礼のないようにと誂えられたものは素材も織りもそれ相応のものを用意してもらえていたからだ。
だから、普通に考えれば茶会と同じものを着ていけばいいのだが――
「街に出て、何をするのかしら」
学園の周りには様々なお店が並んでいる。貴族の令息令嬢を相手することが多いためか、品揃えは豊富で質もいい。
喫茶店などもあるので、そういったところで過ごすのなら普段通りの服装で構わないだろう。
だが、シェリルの脳裏にとある令嬢たちのやり取りがよみがえる。
「――ほんとうに信じられないのよ!」
そう言って憤っていたのは、武術科に婚約者のいる令嬢だった。
何人かの令嬢を集めた茶会で、街中に遊びに出たと聞いたけどどうだったのか、と別の令嬢が質問したとたん、そう言いだしたのだ。
「武具店に連れていかれても、何をしろって言うのよ。どれが合うかなんて聞かれても知らないわよ。自分の筋肉と相談してなさいよ」
「ああ、武術科の方ってそういうところあるわよね。私も前に遊びに行こうと誘われて……丁度新しい喫茶店が開いたばかりだったから、そこに連れて行ってくれるのかと思っておめかししたのよ。それなのにあの人、馬に乗ろうとか言い出して――」
武術科に婚約者や恋人がいる令嬢たちが思い思いに口を開くのを、シェリルはカップに口をつけながら聞いていた。
サイラスも武術科生である。動きにくい服装をしている時に遠乗りをしよう、と言い出さないとは限らない。
「身軽なもの、のほうがいいわよね」
普段以上に簡素な装いになってしまうが、どのような事態にも対応できるほうがいいだろう。
シェリルは衣装棚を開き、できるだけ動きやすそうな服を物色しはじめた。
一方その頃、武術棟の鍛錬場では。
「いいか、あいつらは武器に興味がない」
「ああ、防具にもだ」
「風が気持ちいいから馬に乗ろうと言ったら怒られた」
「山菜が上手い時期だから山に行こうと言ったら帰られた」
「それに長時間歩くのにも慣れていないんだよな。朝から晩まで歩いていたら店ぐらい入ろうと言われた」
「デートは鍛錬の場じゃないとも言われたことがある」
――そんなやり取りが繰り広げられていた。
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