婚約破棄ですか。お好きにどうぞ

神崎葵

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七話

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 学術科が内包されている学舎を通り抜け、武術科のある学舎にまで辿りつくと、サイラスはようやく足を止めた。
 シェリルは武術科に用がないため、ここまで来たことはない。武術棟の外観は学術棟とはあまり変わらないが、よくよく見回してみると鍛錬のために使われているであろう広い運動場が目に入った。

 慣れない光景にきょろきょろと辺りを見回しているのに気付いたのだろう。サイラスがコホンと咳払いを落とす。

「武術棟にも小さいがテラスがある。……利用者はあまり多くないから今日も空いているはずだ」
「まあ、そうなのですね」

 学術棟にも普段茶会で利用しているのとは質は落ちるが、テラスがある。だが学術棟の生徒が何かと利用しているため、予約制になっていた。
 シェリルも何度かお茶会を開くからと呼ばれたことがあるので、学術棟のテラスがどんなものかは把握している。
 武術棟にも同じものがあるのなら、会話をするには差し支えないだろう。

 再度背を向けて歩くサイラスを追いながら、シェリルはこの後何を話すかを必死に考えはじめた。



 そうして武術棟のテラスに到着した二人は、お茶の準備を学園に雇われている使用人に伝えて、それぞれ椅子に腰を落ち着けた。

「……それで、婚約の破棄についてだが」

 何かしらの雑談を挟むことなく本題を切り出したサイラスに、シェリルはこくりと頷きを返す。

「サイラス様が婚約の破棄をお望みでしたら、私はそれで構わないと思っております。元々、私とサイラス様の婚約は私の母とアシュフィールド公が旧知の仲だったからこそ。両家に対してそこまでの益はありませんでした。……ですので、婚約を破棄されたとしても、そこまで問題にはならないでしょう」

 アンダーソン侯爵家はアシュフィールド公爵家との縁を繋ぐことができ、サイラスは侯爵家の婿になる。それも益といえば益なのかもしれないが、そこまで重視するようなものではない。
 武術科で好成績を収めているサイラスを婿にしたいと願う家は他にもいるだろうし、アンダーソン家も無理にアシュフィールド家との縁を繋がなく必要はない。

 どうして婚約の破棄を了承したのか――シェリルの考えついた結論は、誰かが不利益を被るわけではないから、というものだった。

「違う。そうじゃない」

 だが、サイラスにとっては気に入らない回答だったのだろう。険しい声で首を横に振った。
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