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四話

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 シェリルとサイラスの婚約は八歳の頃に結ばれたものだ。
 なのでかれこれ八年ほどの付き合いになるのだが、月に一度しか顔を合わせず、共通の趣味もなければ話題もない。茶会の日には互いの近況報告をするだけで終わっていた。

「……相互理解?」

 だからこそ、シェリルは一人になった部屋で呟く。
 これまで互いに歩み寄ろうとしたことはない。刺繍を嗜んでいたシェリルと、剣に没頭していたサイラスとでは、歩み寄ったところでどうしようもないと互いにわかっていたからだ。
 なのに、婚約を破棄したいと言った口で、これまでしなかったことをすると宣言されたのだ。
 どうすればいいのかと思い悩むのも、しかたないことだろう。

「私がどうして婚約の破棄を受け入れるのかを話せばいいのかしら」

 あっさりと、とサイラスは言っていた。ならばあっさりとしないで受け入れればいいのだろうかと首を捻る。

 交流のあまりない武術科と学術科だが、年頃の異性が同じ敷地内にいるというだけで色めき立つ者もいる。
 その中でもサイラスは、筋肉が発達している他の武術科生よりも線が細いせいか、女子生徒の話題に上ることも多かった。
 成績も悪くなく、顔も整っている部類だ。しかも三男とはいえ公爵家の生まれ。もしも婚約者がいなければ、自分がと名乗りを挙げる者もいたかもしれない。
 少なくともシェリルの場合は、母親の生家と縁深くなければ、婚約どころか言葉を交わすことすらなかっただろう。

「……私にはもったいない相手だからと伝えたとして、理解してくれるかしら」

 シェリルは次の休みを思い、溜息を零す。

 相互理解を深めることができなければ、婚約は破棄されないかもしれない――と考えもしたが、そうなればアリシアが黙っていないだろう。
 ずるいと言われ、もったいない、不釣り合いだと言われるのが目に見えている。

 それは結婚しても終わらないだろう。毎日のように何か言われ、最悪の場合、サイラスとアリシアの逢瀬の現場を目撃してしまうかもしれない。
 シェリルは愛のある家庭を営みたいと思っているわけではない。だが、針の筵のような生活を送りたいとも思っていない。

「……好きにしてくれればいいのに」

 婚約を破棄したいのなら、そうすればいい。ずるいと思うのなら、勝手にすればいい。
 はあ、と溜息を落とし、シェリルはベッドの上に体を横たわらせる。
 シェリルは対立することにも、反論することにも疲れ果てていた。
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