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準備は整った

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 アマテラスは私を落ち着かせるように、優しく私の頭をポンポンとなでた。

「今の状態の青龍を回復させる方法が、一つだけあると言ったら、深月はどうする?」

 その言葉に私は驚いて聞き返した。

「えっ!青龍を助ける方法があるの?」

 アマテラスはにこりと笑い頷いた。

「深月が青龍を調伏するの。この神器の能力は凄いわよ。呪詛なんて簡単に跳ね除けられるから。衰弱が激しい青龍を回復させる為に、今すぐにでも調伏するべきね」

 神器!

 そうだよ。私には天の美月がある。
 神器には秘された能力があると思ってたけど、呪詛を跳ね除けられるなんて凄い!

 それに、私が調伏をすれば、傷付いた青龍でも回復させる事ができる。

 光明が見えたことにホッとして、胸を撫で下ろした。

 でも、そう安心してはいられない。
 急がないとすぐにでも命の灯火は消えてしまう。

 待ってて、すぐに私が助けるからね。  

 私はホルダーから神器·天の美月を取り出して青龍の眉間にあてがった。

 ふうっと息を吐く。

 胸の中央から力が湧き上がってくる。
 全身へとその力が巡り、体の外へと溢れ出してきた。
 力は集束して天の美月から青龍へと流れ込む。

 青龍の中を光が巡る。

 その中で、回路を焼き切るようにパチ、パチと音がし、光がスパークする。

 呪詛が悲鳴を上げて燃え上り、消滅した事が感じ取れた。

 一つ、心が軽くなり、更に私は力を流し込む。

 先程、土偶を調伏した時とは力の流れ方が違う。

 あの時はありったけの力が、これでもかという程膨大に流れ込んだのに対し、青龍の調伏では流れ込む力は優しく微細だ。

 衰弱した青龍を壊さないように包みこんで癒やしてゆく。

 私は頭の中に浮かんだ名前を叫んだ。

「調伏、蒼士そうし

 青龍はカッと目を見開いた。

 神器から溢れ出る力を余す所なく吸収し、その瞳には生気が戻り力がみなぎり始めた。

 鱗はみるみる修復され輝きを取り戻し、手の中にある宝珠の仄かな輝きは、時が経つに従い、力強く輝き出した。

 私の力が全て流れ込むと、青龍は空中へと浮かび上がった。

 その姿は過去に私の式神だった時よりも一回り大きく、全身の色味も深くて艷やかな濃い青色になったようだ。

「お前は祭雅なのか!?俺は夢を見ている訳ではないのだろうな?」

 嬉しそうに響く青龍の声を聞き、私の声も弾んだ。

「青龍、いえ蒼士。そうよ、夢ではないわ。今の私は雪村深月と言うの。深月と呼んでくれる?」

 叡智を宿したその瞳をすっと細め、蒼士は優しく笑った。

「深月···俺を窮地から救ってくれたこと、心より感謝する」

「気にしないで。当然の事をしただけだから。これからの戦いで、あなたの力が必要になるの。私と共に戦ってくれる?」

「ああ、勿論だ」

 ···これからの戦いについて、正直に話しておかなければならない。
 私の敵は私自身。
 祭雅の姿を見たら蒼士はきっと混乱するだろう。

「蒼士。今度の戦い、私の敵は祭雅の姿を取った闇の月雅と、それに付き従う玄武と朱雀なの。そして···」

 私の話を途中で遮り、蒼士は目を細め表情を強張らせた。

「深月、皆まで言うな、事情は察している。調伏されてお前とつながった瞬間、過去の出来事は全て把握できている」

「そう···。仲間同士で戦わなきゃならないの。それでも私に付いてきてくれる?」

「無論、承知の上だ。俺の持つ力の全てをお前に捧げよう。そして、何があっても、お前の事は守ってみせるから安心しろ」

「蒼士···ありがとう」

 蒼士は怒ったような、笑ったような表情をしている。

「今後、俺のことはソウシと呼んでくれ」

「わかった。ソウシ、よろしくね」

「深月、よろしく頼む」

 そう言ってソウシは大地に降り立ち、見る間に人の姿をとった。

 青みのかかった黒髪は短めだ。
 彫りの深い面立ちは、見るものを魅了する。
 その出で立ちは武官のようで、群青色の衣を纏い、薙刀様の柄の長い刀を持っている。
 その刀は幅広で、柄には青龍の意匠が施されている珍しい物だ。

 彼は大地にその刀をドンとついて一礼すると、私の後ろへ進み控えた。

 これで、全ての四神が揃った。

 だけど···。

 四神のうち二人が敵方にいる今の状況を打開しなければならない。
 四神同士で戦わなければならないなんて、辛すぎるから。
 祭雅に奪われたハヤト君、シュリ、ヤトを奪還し、一刻も早くユキちゃんを助ける。

 私は決意も新たに、足元のユキちゃんを抱き上げた。

 アマテラスが神楽鈴を取り出して、シャランと鳴らした。
 すると、その場の空気は一変した。
 まるで神殿の中にでもいるようだ。
 一瞬で浄化されたことに、私は息を呑んだ。

 アマテラスは私達の周りを鈴を鳴らしながらまわると、神聖で強力な結界を張った。

「深月。神器も出来上がり、式神もこれだけ増えれば戦力としては十分よ」

「そうだね」

 確かに、ここに来た目的は、新たな武器と、式神を手に入れることだ。
 アマテラスの言うように、神器を手に入れ、式神の数も十二分に増えた。
 目的を達成した今、帰る時がやって来たのだ。

 アマテラスは頷き、結界の中央に神楽鈴で円を描いた。

「これは異界へと通じる門よ。ここを通れば、須弥山から出られる。準備ができたら門を開くわよ」

 私はみんなの前に立ち、声高く話し始めた。

「これから大きな戦いになる。みんな、私を信じて付いてきて!」

 オオー!と、みんなの声が私を後押ししてくれる。
 とても心強く、温かい瞬間だ。 
 私は式神たちの顔を一人ひとり見て、大きく頷いた。

「みんな、行くよ!!アマテラス、お願い」

「分かったわ!」

 アマテラスは神楽鈴で異界の門に触れた。
 その途端、門は開きこちら側から門へと光が流れ出した。

 私は一歩、門へと踏み出した。

 光の渦の中を私達は歩き、たどり着いた先には懐かしい顔が見えた。

「クラミツハ!」

 私の声にクラミツハは微笑むと、ガクリと膝を折った。

「深月、我はもう限界かも···」

 私は慌てて、ふらつくクラミツハを支えた。

 今まで時を止めてくれていたクラミツハは、額から冷や汗を流し、荒い息遣いを繰り返している。

 ギリギリまで頑張ってくれて、本当に感謝しかない。

「クラミツハ、ありがとう。もう、大丈夫だからね!」

 クラミツハは私の手にある神器と、周りの式神たちを見て口の端を上げた。

「流石深月。やっぱりあなたはやってくれると思ったよ」

「戦いの準備は整った!クラミツハはしばらく勾玉の中で休んでて」

「ん、そうする。じゃあ、時を動かすから。深月、健闘を祈る」

「任せて!」

 クラミツハが神器の勾玉へ戻ると同時に、止まっていた時が動き出した。

 私の後ろには、式神たちが並び立つ。

「悠也さん、ユキちゃんの本体を頼みます」

 悠也さんは頷いて、石化したユキちゃんを守るために呪符で結界を張った。

 いよいよ、最後の戦いが始まる。

「さあ、みんな!戦闘開始!!」
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