転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

文字の大きさ
上 下
69 / 105

クラミツハVS.ハクタク2

しおりを挟む
ハクタクの持つ月雅に狙いを定め、渾身の力を込めて扇を振り上げる。

扇は見事にハクタクの右腕にヒットした。
ハクタクは月雅を取り落とすが、それを蹴り上げ左手で掴み取った。

月雅を取り戻したいけど、そう簡単にはいかないみたいだ。

「お主は雪村深月!!なぜここに居る?」

ハクタクは表情をこわばらせて後退し、私との距離を取った。

「私は大切な仲間を取り戻すために帰ってきた。ハクタク、覚悟しなさい!」

私はクラミツハの前に立ち、扇をハクタクへ向けた。

「解せぬ。お主は闇の大王の依代になったのではなかったか?我が君からは確かにお主の力を感じるのに、お主と我が君はなぜ一つになっておらぬのか?」

「それは私とクラミツハが友達だからよ」

ハクタクは白い眉を僅かに動かした。

「友達?いっそう分からぬ。闇の世界よりこちらの世界へ戻るには、多大な霊力を必要とする。いくら我が君の力が強大と言っても、雪村深月が依代とならぬ限り、こちらの世界に戻ることはできぬはず。それに、例えこちらに来て依代から離れたとしても、その姿を維持できまい。そのことと友達と、何の関わりがあるというのか?お主と我が君が友となる利点など、一つもなかろう」

勝手な事ばかり言ってくれる。
利害が一致しての友達なんて、ホントの友達じゃないんだから。
そんな考えじゃ、私達の繋がりはきっと理解できないんだろうな。

「ハクタク、私があなたの疑問に答える義務はないわ。ただこれだけは言っておく。全てがあなたの思い通りには行かないということよ」

私はクラミツハを縛る黒い網を払い取った。

「クラミツハ、大丈夫?」

手を差し伸べると、クラミツハは少し気だるそうに掴まり起き上がった。

「深月、我は大丈夫だから···」

いやいや、全然大丈夫じゃないでしょう。
起き上がる時に、ふらついてるし。
月雅に力を吸い取られたのが影響しているようで、力が入ってないよ。
こんな状態で戦うなんて無理がある。
こうなったらクラミツハを護るため、私が戦うしかない!

「クラミツハ、あなたは休んでいていいから。後は私に任せて」

クラミツハは私の言葉にショックを受けたらしく、呆然と立ち尽くした。
そして、両手を強く握りしめ、ぶるっと震えるとキッとハクタクを睨んだ。

「こんなにコケにされながら、黙って休んでるなんて我慢ならない。我が行く」

「ちょっ、クラミツハ!」

あちゃー、闘志が漲っちゃったよ。
クラミツハは、凄くプライドが高いみたいだ。
休んでいてと言ったのは、完璧に逆効果だった。
クラミツハは私の前に出て、ハクタクに人差し指を突きつけた。

「お前、ハクタクとか言ったか。我を欺いたこと、たっぷりと後悔させてやるから覚悟するがいい」

クラミツハの目が光り、その表情が邪悪に染まる。

「クラミツハ、落ち着いて···」

「落ち着いてなどいられない。深月、我は逆に楽しくなってきた。あの獣を血祭りにあげて、あなたに捧げるから楽しみに待っててくれる?」

ぎゃあぁ!
そんなのいらない。

私は思わず頭を抱えた。
クラミツハがヤバい感じになっちゃったよ。
やる気になってるのはいいんだけどね。
なんだか、ヤトの女性版を見てるような気分になる。
うう···。
これ、止める自信ないよ。

「我の炎は強力だけど、本気の力ではないんだからね。こっちが我の本領である」

そう言うと、胸の位置に両手を開いた。

手のひらの上には黒い水の塊が渦を巻いて現れ、横に伸びて細長い棒状のものを形作る。
あっという間にその水は、黒光りする武器へと変化した。
それは柄が長く大きな黒い鎌。てらりと光って今にも水が滴り落ちそう。
黒い水でできた死神の鎌だ。

闇の大王の持つ死神の鎌って、ハマりすぎて怖い。

クラミツハは両手で死神の鎌を握ると、目にも止まらぬ速さでハクタクに向けて斬り上げた。

「くっ!」

ハクタクは月雅で死神の鎌を受け止めるけれど、圧倒的な強さのクラミツハにぐいぐいと押される。

堪らずハクタクは後ずさると、月雅を右に振るった。

月雅からは黒いかまいたちが、クラミツハに向けて放たれた。
死神の鎌を振り上げ、ほくそ笑むクラミツハ。
かまいたちはその瞬間に全て消え失せた。

「こんなちゃちな攻撃じゃ、我に傷一つ付けることもできないよ。次は我の番」

間合いを詰めて、死神の鎌を振り下ろし、すかさず切り替えした。
ハクタクは得意の中国拳法で反撃の機会を伺うけれど、鎌を避けるのに必死で、攻撃に転ずる事ができずにいる。

クラミツハの動きは素早く空をも駆け、その攻撃は変幻自在だ。どこから鎌が飛んでくるのか、全く予測がつかない。
ハクタクはそこかしこから血を流し、満身創痍の状態だ。

そして何度目かの打ち合いの末、ハクタクは肩に大きな傷を負い後退した。

「むう、このままでは儂に勝ち目はないのう。力を開放するしかないようじゃ」

そう言うとハクタクは月雅を頭上に掲げた。

月雅からは黒い霧が辺りに撒き散らされる。
ハクタクを中心に黒い霧が、厚い雲のようにこちらに迫ってくる。
今まで見た黒い霧とは比べようもない程、濃い密度とスピードで広がってゆく。

あの黒い霧はホントにヤバい。
いくらクラミツハが闇の大王だからといって、あの霧に捕まったが最後、動けなくなってしまう。

「クラミツハ、逃げて!あの黒い霧に触れたらダメよ」

「深月、私を誰だと思ってるの?闇を司る神だよ。あんな霧、我が吹き飛ばしてあげる」

うわっ!
駄目だ。闇の神のプライドが邪魔をして、私のアドバイスを聞こうとしない。
たった今優勢だからってハクタクを甘く見てはいけない。
黒い網にかかって動けなくなったのを、忘れた訳ではないだろうに。

クラミツハはパチンと指を鳴らし、風を巻き起こした。
その風は突風となって黒い霧に向かって行くが、全て霧の渦の中に吸収されてしまった。

「嘘っ?!」

ほら、やっぱりね!

クラミツハは自分の攻撃が効かなかったことを受け入れられず、何度も黒い霧を払おうと試みる。
しかし、どの攻撃も黒い霧を払うことができずに、その力は霧に吸収される。

クラミツハの間近まで黒い霧が迫るのに、逃げることはまるで頭に無いようだ。
このままじゃまずいよ。
なんとかクラミツハを逃さないと。
こうなったら陰陽師としての力を行使するしかない!

お願い!私の指示に従って。

私は勾玉を握りしめ、それに力を注ぎ込み叫んだ。

「クラミツハ、退避」

クラミツハは私の声に反応し、黒い霧に捕まる瞬間に、宙を舞って退避し私の後ろに控えた。

危なかったー!
はらはらしたけれど、なんとか上手く行ったので、私は胸を撫で下ろした。

それを見たハクタクは、驚き目を見開いた。
そのためか否か、黒い霧の動きが停滞し、ハクタクと私達の間にあった霧が僅かに晴れた。

「なんと?!我が君が雪村深月の指示に従うとは!もしやお主、我が君を式神にしたのか?」

私はクラミツハを護るため、両手を広げ言った。

「その通り。彼女は私の式神で私の大切な友達よ」

ハクタクは愕然として呟いた。

「むぅ、なんということか。長い年月をかけて仕込んだ計画が狂うてしもうた。まさか、闇の大王を従える人間が出現するとはのう···」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

狐メイドは 絆されない

一花八華
キャラ文芸
たまもさん(9歳)は、狐メイドです。傾国の美女で悪女だった記憶があります。現在、魔術師のセイの元に身を寄せています。ただ…セイは、元安倍晴明という陰陽師で、たまもさんの宿敵で…。 美悪女を目指す、たまもさんとたまもさんを溺愛するセイのほのぼの日常ショートストーリーです。狐メイドは、宿敵なんかに絆されない☆ 完結に設定にしていますが、たまに更新します。 ※表紙は、mさんに塗っていただきました。柔らかな色彩!ありがとうございます!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...