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帰還

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「夜が明けた。まさか··」

クラミツハはそう呟くと、呆然と立ち尽くした。

辺りの空気は澄み渡り、泉の水もまた清らかに湧きいでる。

今まで暗闇だったこの世界は、陽の光を浴びて、緑がうっすらと大地を覆う。
あまりの美しさに、私は時の経つのも忘れ、しばらく見とれていた。

クラミツハはというと、雰囲気がガラリと変わった。
先程まで漂っていた闇特有の薄暗さや悲壮感は消え去り、明るい表情になっている。
頬はほんのりと朱がさし、可憐さが格段に上がっている。
彼女は大空を見上げ、両手を大きく広げた。

「なんて美しいの···。こんな日がやってくるなんて、我は夢でも見ているの?」

感極まって、その瞳からぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。

涙は、大地に落ちる寸前に数羽の小鳥になって舞い上がった。

「クラミツハ、凄い。涙が鳥になったよ!」

「ああ、これは祝福だよ。闇の神の我が光の大地に祝福を与える····か。ならば、これはどうかな?」

そう言うと、クラミツハは泉の水をひと掬い手に取り、ぱっと大地にばら撒いた。

そこから花や木が生えて、次に小川ができ、大地に彩りを与えた。

「うわぁ」

これって、天地創造ってやつじゃないの?!
凄いものを見てしまった!

「うん、このくらいで良しとしよう。もう我がこの世界を離れても大丈夫。後は成り行きに任せておけばいいはずだからね」

私はひたすら感心して、クラミツハの祝福を眺めていたんだけど。
今思えば私、とんでもない人を式神にした?!
この子ってば、神様なんだよね。
草木や小川、鳥を産み出したりって、凄すぎるよ。

「深月、そろそろあなたの世界に行こう。仲間を助けるんでしょう?」

そうだよ。
感心している場合ではないのだ。
元の世界に帰れば、ハクタクとの戦いが待っている。
よし!
と、気合を入れ直してクラミツハに向き合った。

「クラミツハ。私の世界に行けば、戦いが待っているんだ。一筋縄ではいかない相手だから、気をつけていこう。何しろ私を依代にして闇の大王クラミツハを降臨させる為に、ここへ送り込んだ奴なんだから」

するとクラミツハは目を細めてほくそ笑んだ。

「へぇ。それは面白そうだね。深月に酷い仕打ちをしたのなら、それ相応の報いを受けてもらわなければならない」

うわっ!
なんだかクラミツハの後ろに闇の龍がぐわっと大きく口を開けた気がする。
顔は笑っているのに少しも笑ってない!
めっちゃ怖いんですけど。
クラミツハは絶対に敵に回してはいけない。
仲間で良かったと心の底から思った。

「ところで、元の世界にはどうやって行くの?」

「我が誘導するから深月はその通りにしてくれる?」

「うん、わかった」

「まず、我の手を取って目を瞑る」

私はクラミツハの前に立ち、右手を差し出した。

クラミツハは私の手を握る。
その手の温もりを感じながら、私は目を閉じた。

ヒヤリと額に水がかかったように感じた。
クラミツハが触れたようだ。
 
「ああ、彼方から我を呼ぶ声がする。この波動は深月と縁深き敵のもの。深い深い闇···だが我を凌ぐ程ではない···」

ふふっと静かな笑いが聴こえ、繋いだ手に力が込められた。

「ここと彼方を繋ぐ道を示せ」

クラミツハの声と共に、力が開放された。
弾けた力に私の力が引っ張られるように開放される。
目を瞑っているのに、瞼の裏に光が見える。
その光は二人の力。
二つの光は螺旋を描きながら矢のように飛び、一筋の光の道を創り上げた。

「行くよ!」

「えっ?!」

それは一瞬の出来事だった。
体が宙に浮いたかと思うと、ぐいっと何かに思いっきり引っ張られたように光の道を移動したみたい。

「うわわっ!!」

恐怖を感じる間もなく、私は地に足をつけていた。
勢い余ってこけそうになったのは、内緒だけどね。

ていうか、もう着いたの?!
思った以上に早い到着で、焦って辺りを見回した。

「あれ?」

私の呟きはその空間に吸収されたように響かない。

ここは確かに見覚えのある場所だ。
目の前にはハクタクと悠也さん、彩香の姿が見える。
けれどおかしな事に、誰も身動き一つしない。
まるで時が止まってしまったかのように、世界は色褪せて見える。

「クラミツハ、これってどういう事?」

「時を操作したの」

「あ、やっぱり!」

周りはセピア色に見えるし、誰もが呼吸を忘れた彫像のようになってしまっている。
全くもって、生気というものを感じ取れない。

時を止めるなんて、流石神様のすることは違うよね。
そんな中でも、私とクラミツハは動いていられるから不思議だ。

「深月が敵に飛ばされた直後に戻ってきたの。この堕落した神獣が敵なんだよね。どうする?今のうちに殺っちゃおうか」

うわーっ!
なんてこと言うの、この人は!!

「そんな卑怯な手を使っちゃダメだって。正々堂々戦うんだよ」

「深月、相手が卑怯な手を使うのなら、こちらだってそれ相応の手を使うべきだよ」

私はぶんぶんと首を横に振った。
クラミツハの言う通りにしていたら、確かに勝てるかもしれない。
でも、そんな事をしてハクタクを倒しても、少しも嬉しくないよ。
いや、逆に後悔する。

「ねえクラミツハ。いくら相手が卑怯な真似をしたからって、自分も同じ事をしたらなんにもならないでしょ?」

クラミツハは少しバツの悪い顔をして考え込んだ。

「ん、じゃあどうしようかな···あ!そうだ。深月、あなたはしばらく隠れてて」

「隠れるって、どうして?」

「いいからいいから」

「いや、いいからって言ってもね···」

「我に考えがあるの。あの神獣に相対するのは我一人で十分。結界を張るから、深月は仲間と合流するといい。因みにこの結界の中は、あの神獣には見えないようにしておくからね」

なんだか強引に勧めてくるけど、大丈夫なんだろうか?
いくら考えがあると言っても、相手はあのハクタクだからなぁ。
でも、彩香や悠也さんが心配なのは確かだ。
ハクタクの相手はクラミツハにしてもらって、私は二人と合流させてもらおう。

「分かった。クラミツハ、くれぐれも無理をしないようにね」

「大丈夫!我に任せて」

ニカッと笑うクラミツハは、またもや指をパチンと鳴らした。
すると、一瞬で黒銀に光る結界が張られた。
流石、神!と、感心するけれど。

「あれ、そういえば私結界の中に入ってないよ。いいの?」

その結界の中には彩香と悠也さんの姿はあるけど、私だけ結界の外側にいるんだよね。
一旦結界を解かなきゃ、合流できないんじゃないのかな?

「深月、我の勾玉があるでしょ。それを持っていれば、結界の出入りは自由にできるから」

うわ、凄い。なんて便利なの!
私は手の平にある勾玉を握りしめ、結界を通過してみる。
結界はふわっと光って、私は難なく通過することができた。

「それじゃあ、時を動かすから」

クラミツハの声に、私は大きく頷いた。
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