転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

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百鬼夜行2

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戦いの最中、場内アナウンスがかかった。

『陰陽師連盟総本部よりご連絡をいたします。緊急事態が発生いたしました。戦闘能力の高い陰陽師の方は、式神カードもしくは法具を装備の上、メイン舞台へお越し下さい。ご来場の皆様に申し上げます。私達、陰陽師は皆様の安全の為、死力を尽くす所存です。どうか、落ち着いた行動をお願いいたします』

アナウンスのお陰で観客は立ち止まり、協力体制で戦おうとする私達に注目し始めた。
冷静さを取り戻した観客は、整列して行動するようになった。
真田さんや京香さんも観客の誘導に力を尽くしてくれている。

ひとまず、観客の方は落ち着いた。私達は鬼たちに集中する。


『オン・マリシエイ・ソワカ』

拓斗さんが真言を唱えると、左手に持った弓は美しい暁色を放ち大きくなった。

「式神·炎」

暁から炎を纏った剣士が現れ、拓斗さんの前で剣を構えた。

「炎、剣で鬼を倒しまくれ」

拓斗さんの指示を受けた炎は、剣を振り上げ鬼の群れに突っ込んでゆく。

拓斗さんはふうっと呼吸を整え、弓に矢をつがえる。
弦をキリキリと引き矢を放った。
ビュンと凄まじい音を上げながら、暁色の矢は鬼の心臓部に突き刺さる。
連続して射られる矢は、的を外すことがない。

累々と重なった鬼の屍は、黒い粒子となって上空に立ち上ぼり消えていった。


『ノウマク·サンマンダ·バザラダン·センダ·マカロシャダ·ソワタヤ·ウンタラタ·カンマン』

真尋が真言を唱えると、独鈷からすらりと長い剣が現れた。これが倶利伽羅剣の真の姿なんだ。

「式神·ヤタガラス」

倶利伽羅剣から三本足の黒いカラスが現れ出で、真尋の左腕にとまった。

「ヤタガラス、疾風撃」

ヤタガラスは『クルアー』と一声鳴くと舞い上がり、翼を大きく広げ旋回する。

その翼に風を纏い、鬼へ向け羽ばたいた。
風の刃は疾風となって、鬼たちを切り裂いてゆく。

真尋は倶利伽羅剣を上段に構えると、素早い動きで鬼に斬りかかった。

自分よりも遥かに大きな鬼相手に、力負けしていない。


倶利伽羅剣を振るうと、その剣は炎を纏って輝く。
そして鬼の金棒ごと、ばっさりと斬り倒してゆく。
あまりにも簡単に斬っているように見えてしまうんだけど、真尋の腕が良いのと、倶利伽羅剣の切れ味が凄まじいのである。


『ノウマク·サンマンダ·ボタナン·インダラヤ·ソワカ』

伶さんが真言を唱えると、サザンクロスは細身の剣になった。

「式神·アメノウズメ」

妖艶な姿の女性の式神·アメノウズメが伶さんのサザンクロスから飛び出した。

「アメノウズメ、リボンで攻撃」

アメノウズメは腰からリボンを外し、鬼の群れの中で踊りながら振り回す。
そのリボンは鋼の如き切れ味で、見る間に鬼の数を減らしてゆく。

サザンクロスを構えた伶さんは、いつも以上のスピードで鬼へと向かう。
鬼の倒し方たるや、伶さんの通った後には草も生えない徹底ぶりだ。

みんなの奮闘は素晴らしく、みんなが居てくれるだけで、力が湧いてくる。
自然と気合が入る。
さあ、私も参戦しよう。

そう思い、月雅を握りしめたとき、可愛らしい声が響いた。

「「ミツキお姉ちゃん」」

声の主は、桜子ちゃんと薫子ちゃんだ。
アナウンスを聞いた双子は、戦いの場に駆けつけてくれた。
だけど、いくら戦闘能力の高い陰陽師と言っても、子供がこんなところに来たらだめだ。
これは試合ではなく、命を懸けた戦いなのだから。
二人には、まだ早すぎる。

「桜子ちゃん、薫子ちゃん!ここは危険よ、帰りなさい」

「「でも、私達も戦えるよ。お姉ちゃんを助けたいの」」

なんて健気なの!
二人の気持ちが伝わってきて、胸の奥がジーンと熱くなった。
凄く嬉しいんだけど、情に流されるわけにはいかないのだ。

私は二人の手を握りながら言った。

「二人とも、ありがとう」

「「ミツキお姉ちゃん···」」

「あなた達にお願いしたいことがあるの」

「お願いってなあに?」

二人は不安な様子で顔を見合わせて、視線を私に戻した。

「よく聞いてね。今、この会場にはたくさんのお客さんが来てるよね」

「「うん」」

「桜子ちゃんと薫子ちゃんには、お客さん達を会場の外まで無事に送り届けてほしいの」

「「え、でも···」」

戦う気満々でやって来た二人は、戸惑いを隠しきれない。

だけど、二人の安全を考えると、これが一番良い方法ではないかと思う。

「お客さんたちは戦う力がないの。鬼に襲われたらひとたまりもないことは分かるよね」

「「うん」」

「でもあなた達には力がある。お客さん達を護ることができるの」

「「そうだけど···」」

「人々を護るのも、陰陽師の大切な仕事よ。私はあなた達を信頼してこの仕事を頼むの。ね、出来る?」

二人はしばらく考えて頷いた。

「私、やってみる」

「私も!」

やっと納得した二人に、私は胸をなでおろす。
私達がすべき事は、しっかり鬼を食い止めて、二人に危険が及ばないようにする。

「おい、深月」

名を呼ばれ声がする方を見れば、賢吾がコマとケンの手を引いてやって来るところだった。

「俺も水無月の双子と一緒に、観客の護衛に入る」

賢吾はそう申し出てくれた。
なんで有り難いんだろう。
賢吾が護衛にまわるのなら、コマケンも一緒に行ってもらおう。

「賢吾!ありがとう。桜子ちゃんと薫子ちゃんを頼むね」

「任せておけ!」

賢吾の手を離したコマとケンは、「「みつきちゃーん」」と言うと、私に抱きついてきた。

むむ、かわいい!
かわいさのあまり、二人の頭をグリグリと撫でた。
コマとケンは気持ち良さそうに目を細めている。

「コマ、ケン。あなた達はもうしばらく賢吾と一緒に行動してね。桜子ちゃんと薫子ちゃんを会場の外まで送り出したらすぐに戻ってきなさい」

「「わかったー!!」」

コマとケンはぴょこっと飛び上がると、賢吾の元へ戻った。

護衛一行を見送った私は、再び戦いの場に戻ってきたんだけど。
いくら倒しても、次から次へと現れる鬼たち。
これをどうにかしないとならない。

大穴は、あいも変わらず黒い霧と鬼たちを送り出しては黒く光る。

「深月ー」

「悠也さん!」

悠也さんが呪符を投げ、鬼を食い止めながらこちらへやって来た。

「大丈夫か?」

心配して様子を見に来てくれたようだけど。

「悠也さん、この大穴どうにかなりませんか?」

「ああ。実は俺もこの大穴を閉じようと思って来たんだ」

閉じてしまう方が良いというのは分かるんだけど、すんなりお願いしますとは言えない。
なぜなら私は爺と彩香の後を追わなければならないから。

「悠也さん。向こう側から来る鬼は封じ込めて、こちら側からはこの穴を通れるようにしたいんです。それは可能ですか?」

「えっ?また難しいことを言うなあ」

そう言って、悠也さんは顎に手を当て暫く考えた後、はっと顔を上げにやりと笑った。
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