転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

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百鬼夜行

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爺はレフリーに襲い掛かり、即座に倒してしまった。
そして、彩香の腕を掴み引っ張った。

「爺、何をするの?!」

驚いた彩香は抵抗するが、その力は爺には全く通用しない。
爺はほくそ笑んだ。

「姫よ、しばらく眠っておれ」

そう言うやいなや、爺は彩香のみぞおちに杖の一撃を入れて気絶させた。

会場全体が騒然となる中、爺は彩香を担ぎ上げると、自らが開けた大きな穴の中へ入り、二人の姿はかき消えた。

「あ、彩香が!」

焦った私は、舞台から飛び降り彩香と爺の後を追う。

「深月、止まれ!」

ユキちゃんが私の腕を掴んだ。

「ユキちゃん、なんで止めるの?!」

「あれを見ろ」

ユキちゃんの目線の先を追うと、そこは爺の開けた大きな穴で、先程よりも強烈に黒く光り、そこから黒い霧が溢れ出る。

それと共に大きな手がニョキっと現れ、辺りをまさぐる。
そして、地面に手を付いたかと思うと一気にその姿を現した。

あ、あれは!!

「鬼!!」

それは全長が3メートルはありそうな巨体で、肌の色は赤く、驚くことに顔は牛だ。
目は血走り辺りを舐め回すように見ている。
手には大きな鬼の金棒を持ち、大きく振り上げドドンと地面に叩きつけた。

ビリビリと地面は波打つように震え、私はバランスを崩し倒れそうになった。

「深月!」

ユキちゃんが私を抱えて空中へと駆け上がった。
シュリとハヤトくんも空へと駆けて、私の両脇を固める。

「あれは牛鬼か」

「牛鬼?」

あら、そのまんまの名前だ。

「そうだ。見ての通りの巨体で怪力だ。スピードならお前のほうが勝っているが、力負けするだろう。迂闊に近づくな」

うう、本当にあんな金棒で殴られたらイタイなんてもんじゃないだろう。
でも、殴られないように避ければいい訳で。

「ユキちゃん、私戦うよ。こんな所で尻込みしていたら、彩香を助けに行けないでしょ?」

私がそう言うと、「お待ちを」と言って、シュリが目の前で一礼する。

「私が参りましょう」

仲間になったばかりのシュリに頼んでもいいのかな?

「シュリ、牛鬼と戦えるの?」

シュリは眉間にシワを寄せ言った。

「戦えるの?なんて聞かないでください。私はいつでもあなたのお役に立ってみせます」

自信に満ちたシュリは、右手を前に突き出すと目を閉じた。
手のひらからは金色の光が溢れ、その輝きが凝縮したかのような黄金色の槍が現れた。
その槍を携え美しく微笑むと、スタっと地上に舞い降りた。

そういうことなら、腕前を披露してもらいましょうか。

シュリは鬼の金棒を振り上げた牛鬼の前まで来ると、両足を大きく開き低姿勢で槍を構えた。

「シュリ、攻撃!」

私の指示が飛ぶと、シュリの姿は掻き消えたと思うほどのスピードで動き出した。

牛鬼が金棒を振り下ろす間に何度攻撃をしたのだろう?
体中に無数の傷を作り血を流すけれど、牛鬼は自分の身に何が起こっているのか分かっていないようだ。

結局、牛鬼はそのままどっと倒れて起き上がることは無かった。

ユキちゃんと私は地上に降り立ち、倒れた牛鬼とシュリを見やる。

シュリは涼し気な表情で、槍についた血糊をぶんと払った。

「シュリ、あなた強すぎ」

あっけないまでの圧勝に驚いてそう呟いた。

「お褒めに預かり光栄です」

シュリは恭しく一礼し、私の後ろに控えた。

さあ、鬼は倒した。
彩香を助けに行くために大穴へと向かう。

そんな折、ハヤトくんが私の前に来て首を傾げながら言った。

「ミツキ待って。本気であのナマイキな娘を助ける気でいるの?」

「そうよ」

「あそこまでされたのに、どうしてさ。自業自得じゃないか。放っておこうよ」

苦虫を噛み潰したような顔のハヤトくんに、私は頭を振った。

「ダメよ。一度は助けるって決めたことだし、もしここで彼女を見捨てたら、きっと私が後悔する。後悔したまま生きるのが嫌だから、私はできる限りの事をしようと思っている」

私の言葉に、ハヤトくんは相槌を打つ。

「そう···分かった。あの娘のことは、はっきり言って好きじゃないんだ。でもミツキのしようとしている事には賛成するよ。僕はそんなミツキを助けたい。僕もできる限りの事をするよ」

「ハヤトくん、ありがとう」

ハヤトくんは私の横に来て、ぎゅっと手を握った。
応援してくれてるんだね。
なんだか嬉しくなって、私も手を握り返した。

私達は黒い霧のわき出る大穴に近づいた。
この大穴は、一体どこに繋がっているのだろう?
黒い霧や鬼が出てきた事を考えると、闇が強くて恐ろしいところのように思える。
そんな穴の中に入るのはとても勇気がいる。

私は深く呼吸をして、その中を覗き込もうとした。

その時ぞわっと肌に感じる嫌な予感がして、後ずさった。

「ミツキ!危ない」

ハヤトくんが私の手を引っ張って、引きずられながら更に後退した。

大穴から黒い光が四方に射し、いくつもの影が躍り出てきた。

「鬼の群れ!?」

大穴からは、とめどなく鬼が出現する。
何でこんなにたくさん鬼が出てくるの?
突然の事に驚き、一瞬固まってしまった。

百鬼夜行びゃっきやこう!!」

ハヤトくんはそう言うと、私を守るように前に出た。

「ミツキ、指示を出して」

「わ、分かった。ハヤトくん、水撃」

ハヤトくんは両手を天に掲げ振り下ろした。
ハヤトくんの操る水の珠は、次々と目の前の鬼たちを倒してゆく。
しかしいくら倒しても、大穴からは続々と鬼が溢れ出し、一向にその数が減る気配がない。

そして、周囲は騒然となり、悲鳴があちこちから上がる。

私ははっとして会場を見回すと、客席は大混乱に陥っていた。

鬼から逃れようと、我先に非常口へと向かう人々でごった返し、殺気立っていた。

これはまずい。
観客に被害が及ばないようにしないと、無用な争いが起きたりけが人が出てしまう。
いや、下手したら死人が出る。

まずは私が落ち着かなきゃ。
深く呼吸をして、いつもの自分を取り戻そう。

「ユキちゃん、シュリ。鬼たちを客席へ近づけないようにして!」

二人は頷いて、それぞれ別方向から回り込み鬼たちに当たる。

百鬼夜行とは言うけれど、出現する鬼の数は百なんて可愛いものじゃない。
観客の対応と鬼との戦いを両立させることは、どう考えても無理がある。

まずは観客を外へと無事に誘導できる人物を探さなければならない。
私は辺りをぐるっと見回す。

あっ、あの人達だ。
頼めるのは彼らしかいない。

「真田さん!京香さん!」

真田さんは鬼に応戦するため、京香さんと共にこちらへ向かう途中だったようだ。

「嬢ちゃん!」

「深月!」

二人は私の声に気付き立ち止まった。

「鬼は私達がなんとかします。お客さん達の誘導を頼みます」

真田さんは「よし、分かった。頼んだぞ」と大きな声で叫ぶと踵を返し、京香さんも「気を付けなさいよ!」と叫んで真田さんに追随する。

これで私達は鬼と戦うことに専念できる。

「「「深月!」」」

そう呼ばれ声のする方を見れば、赤星事務所のみんなも鬼に応戦するために集結していた。

これは心強い。

「みんな!ありがとう。力を合わせて戦おう」

「「「おう!」」」

私が声をかけると、伶さんは片手を上げてサザンクロスを取り出した。
真尋は倶利伽羅剣を、拓斗さんは暁をそれぞれ取り出した。
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