転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

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大会

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伶さん、なんて綺麗なの!!

それは、あまりにも美しくて、視線を外すことは最早不可能と言っていい。

「王子様···」

その一言を呟いて、私はようやく息を詰めていたことに気が付いて、大きく息を吐きだした。

周りの人たちが伶様と呼ぶ気持ちがわかる。

この世のものとは思えない。
神聖な絵画を見ているような、そんな気分だ。

紺色の衣装は細かく刺繍が施され、見た目に豪華な上に、機能性にも富むという作りになっている。
長めのマントはAラインで、シャツは薄めの青色。
パンツは細めの濃紺で、体のラインをより美しく見せている。
靴は黒い編み上げのブーツ。
青のグラデーションで纏められ、作り手のセンスがうかがえる。

更に銀色のサークレットを冠したその姿は、王子様、又は妖精王とお呼びして、ひれ伏したくなる。

こんな姿を会場でさらした日には、卒倒する女性が続出すると思われる。

私は感動のあまり悠也さんのもとに駆け寄り、その手を取ってブンブンと振った。

「悠也さん!素晴らしい出来栄えです!いい仕事してますね」

悠也さんは、若干引き気味に顔を引きつらせ言った。

「はは···まあな。じゃ、そろそろ時間だし出るぞ」

私は半ば引きずられるようにしてワゴン車に乗り込み、大会の会場へと向かった。

全日本陰陽師統合記念大会。

というのが大会の正式名称らしいんだけど、長ったらしくて言い辛いので、みんな大会と言うんだそうな。

過去に東と西の陰陽師がいがみ合い、どちらが上か勝負をしたのが始まりらしいけど、今じゃ東も西も統合され、それを記念しての大会ということになっている。
一般の人たちも見学ができるそうで、楽しいお祭りみたいなものだ。

車内にて大会についての説明を聞くけれど、伶さんに見とれていた私は、その内容は半分くらいしか頭に入らなかった。

そして気がつけば、会場である陰陽師連盟総本部に到着していた。

んー、やっぱりここは広いし大きい。
迷子にならないように気を付けなければ。
それに、凄い人混みだ。
出店なんかもある。
かき氷やたこ焼きなど、お店の前には行列ができている。
ホントにお祭りみたい。

後でお店を覗いてみようと横目で見ながら、私達はメイン会場であるドームへ向かった。

道すがら、周囲の人々を観察する。
コスプレの人たちはおそらく陰陽師だ。
魔法使いの格好だったり、鎧をつけた戦士だったりと様々で面白い。

コスプレの人たちは、みんなかなり目立っている。
だけど、行き交う人々は私達をジロジロと見る。
なんだか他の陰陽師よりも目立っている気がする。
こちらには伶さんもいるから、女性の目は伶さんに釘付けだ。
予想通り「キャー」と叫んでは、バタリと倒れてしまう女性の多いこと!
罪な男である。

でも、それだけじゃないみたい。
特に、コスプレの人たちがこちらを注目しているようなんだけど?

「ねえ、なんだかみんなこっちを見てる気がするんだけど、気のせいかな?」

私が拓斗さんに小声で話しかけると、辺りを見回した彼は私に耳打ちをする。

「気のせいじゃないだろうな。みんなお前を見てるんじゃないか?色んな意味で注目を集めているからな」

「へ、なんで?」

「···後でわかるよ」

なによそれ?
むむ、あっ!わかった。
このイケメン集団の中に、平凡な女子が紛れ込んでいるから、悪目立ちしているとか。
きっとそんな所だろう。

そう勝手に解釈をして暫く歩くと、ドームの前にたどり着いた。

予選と本選はこのドームで行われる。
ドームの入口で受付を済ませた私達は、ドームの中に足を踏み入れた。

「深月!」

名前を呼ばれ、声のした方を見やる。

私を呼んだ声の主は狩衣姿で烏帽子をかぶり、まさに平安時代の装いで、足早にこちらに向かってくる。

あっ!

あれは千尋?!
夢に見た藤原千尋がそのまま現れたようで、私はとても驚いた。
彼は私の前まで来ると、私の肩に手を置きまじまじと見つめる。

「深月、無事だった··」

そう言うと、「ああ、良かった。心配したんだ」と言いながら私をギュッと抱きしめた。

ひええぇ?!
何なの?
急に抱きしめられた私は、動揺してあたふたする。

だけど、そんなことよりも力が強すぎて身動きが取れない!
く、苦しい。

「離せよ、千尋!」

私が叫んだ言葉に反応し、千尋はがばっと身を離した。
そして、大きく目を見開き私を凝視する。

「深月、今なんて言った??」

ん?
あれ·····。

あ、私間違えた。
ここに平安時代の千尋がいるわけ無いじゃん。
この人は真尋だよね。
しまった、思わず千尋って言っちゃったよ。

「ごめん真尋!間違えた」

冷や汗を流しながら上目遣いで真尋を見ると、彼は首を横に振る。

「深月、今千尋って言ったよな!」

「えっ?う、うん」

そう言うと、「ちょっと来て」と真尋は私の右手をむんずと掴んで歩きだした。
人気のない広場まで来て、真尋はまた私の肩に手を置いた。

「なんでその名前を知ってる?」

「え、えーと···」

過去生(前世)の記憶があるからです。なんて言って理解できるんだろうか?
いや、でも真尋はなんで千尋って名前に反応するんだろうか?

「深月、まさか君は祭雅?」

「ええっ?!」

うわっ!
なんで真尋がその名前を知ってるの?!
千尋って名前に反応した上に、祭雅の名前まで出してくるなんて。
もしや、真尋は···。

「祭雅だよな、それでなきゃ千尋の名前を知ってるわけないから。な、そうなんだろ?」

私は真尋の問に頷いた。

「そう、だね。私は祭雅だった」

私の返答に、真尋は目を輝かせる。

「やっぱりそうか!」

そう言うと真尋はまた私をギュッと抱きしめた。

「ま、真尋?!」

「深月、俺すごく嬉しい。初めて会った時に君を見て本当に驚いたんだ。あまりに君が祭雅に生き写しだったから。それに名字も雪村だろう?」

ああ。
須弥山で会った時、よく似た知り合いがいて名字も同じなので、そのことにとても驚いていた。
あれは祭雅のことを言っていたんだね。

「でも真尋はなんで祭雅を知っるの?それに千尋ってあなたの過去の名前よね。もしかして、過去生のことを覚えてるの?」

真尋は私をゆっくりと解放し、言った。

「ああ、覚えているよ。小さな頃からよく夢に見てた。たまに、どっちが現実かわからなくなる程、リアルな夢でね」

そういう真尋は、遠い目をしてため息を一つつき、微笑んだ。

「ああ、まさか祭雅が深月になって、また俺の前に現れてくれるなんて、思いもよらなかったよ。それに、君も過去の記憶があるのには驚いた」

「それは私も驚いたよ。でも、私が覚えてるのはほんの一部分だから」

「いや、それでも嬉しいんだ。深月、今日は一緒に行動できないかな?」

真尋はそう言うと右手を差し伸べた。

「ん、わかった。一緒に行動しよう」

陰陽寮での相棒だった千尋。
今は真尋。
彼と一緒にいることは、ごく自然なことと思える。
それに、祭雅であった頃のことを何か思い出せるかもしれない。
私は真尋の手を取った。
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