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式神戦2

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ユキちゃんの前に現れたのは、二匹の狛犬。

一匹は獅子のような姿で、もう一匹は角の生えた狛犬だ。
その二匹は、もふもふとしていて、どちらも大変愛らしい。

「コマ、ケン!攻撃だ!」

コマとケンはユキちゃんに向かって、体勢を低くしウーっと威嚇の声を上げた。

ギロリとユキちゃんが睨むと、コマとケンは『キャンキャン』と鳴いて飛び上がり、尻尾を巻いて逃げ出した。

「話しにならん」

白けきったユキちゃんは私の元へと戻ってきた。

「コマ!ケン!何やってる?行け、戦え」

そして、逃げ出したコマとケンは、霜月さんの言うことも聞かずに、何故か私の元へとやって来て、『クーンクーン』と甘えた声をだす。

「うわ!可愛い」

つぶらな瞳で見つめられ、尻尾はち切れんばかりにぶんぶんと振っている。
あまりの愛らしさに私は両手を差し出すと、二匹のもふもふはすり寄ってきた。

「いい子だねー」

よしよしと撫でていると、二匹のもふもふは喉を鳴らしお腹を出した。

ねえ。
いいのこれ?

この格好って服従のポーズよね。
私って敵方だと思うんだけど。
ちらっと霜月さんの方を見ると、両腕をぶんぶん振り回し、慌てまくっている。

「こら、コマケン!何やってるんだ、こっちに来い」

コマとケンは霜月さんの指示を思いっきり無視して、私と戯れ幸せそうにしている。

「くおら!コマケン」

怒った霜月さんは真っ赤な顔をして私の元まで来ると、コマとケンの首根っこを引っ掴み、嫌がる二匹を無理やり連れ戻した。

「もう勝負はついている。早々に立ち去れ」

ユキちゃんが冷ややかな目をして言い放った。

霜月さんはコマとケンをカードに戻し、違うカードを取り出して叫んだ。

「こんなので終われるか。次はこれだ!式神、カカシ」

私達の前に現れたのは、ひょろっと細長いカカシだ。
麦わらの三角帽子を被り、みのを纏っている。
木と藁でできた体は脆弱そうに見えるんだけど?
この体でどうやって戦うのだろうか?
ぶっちゃけ弱そうである。

「なんだ、それは?そいつが式神か?」

霜月さんは、バカにするなと言わんばかりに、顔が赤くなり肩を怒らせた。

ユキちゃんはそんな事は気にもとめず、つかつかと歩き、カカシに近づいたかと思うと、カカシの胴体を掴み放り投げた。
それはハヤトくんの結界に当たり、バキッと折れた。
カカシはたちまちバラバラのカードになり、舞い落ちた。

「お、おい。嘘だろ?俺の式神が全く通用しないなんて」

「ねえ、もう終わった?終わったんなら帰りましょう」

「ちょっ!人の話を聞いてるのか?少しは話しの相手をしてくれよ」

「えー!嫌よ」

「嫌よって!なんでだよ」

霜月さんの話しの相手をしている暇なんてないのだ。
早く事務所に帰って仕事をしなければ。

「勝手に押しかけておいて、何言ってんの?私だって忙しいんだからね」

霜月さんは、言い返せずに口をパクパクさせている。

「あ、そうそう。罰ゲームの件だけど、あれは保留にしておいてくれる?今度の大会の時まで考えておくから」

「罰ゲームって···そういえば、あんた、名前は?」

「えっ、あー言ってなかったかな。私は雪村深月!じゃあ、またね」

「えっ?!お、おい···」

挨拶もそこそこに、私はハヤトくんに結界を解除するよう指示を出し、事務所へ戻った。

やれやれ。
これでやっと仕事が出来る。
私がPCの前に座ったとき、またしても事務所の呼び鈴が鳴った。

「はい」

そう言って扉を開けると、そこには小さな女の子が二人立っていた。

その子達は双子のようで、とても良く似ている。
片方の子はポニーテールで、もう片方の子はツインテールだ。
どちらもくりっとした大きな目をして可愛らしい。

「「たのもー」」

ええっ!またあ?

「あなた達、もしかして陰陽師?」

「そうだよ!練習試合に来たんだよ」

「ねえ、お姉ちゃん陰陽師でしょ?私達と戦って」

こんなに幼い子供が陰陽師?!
戦うって、ホントに大丈夫なのかな?
でも、こんな可愛らしい子達に頼まれたんじゃあ断れないな。

今日は千客万来。
仕事はしょうがない、諦めよう。

「いいよ!あなた達のお名前は?私は雪村深月というの」

「私、水無月桜子みなつきさくらこ。十歳」
「私、水無月薫子みなつきかおるこ。十歳」

ふーん。
桜子ちゃんがポニーテールで薫子ちゃんがツインテールね。
十歳か。
身長は子供バージョンのハヤトくん位だな。

「桜子ちゃん、薫子ちゃんね。戦い方は式神戦でいいのかな?」

「「うん!いいよー」」

うわ!双子でハモってる。なんて可愛いんだろうか。

「それなら私に付いてきて」

私たちは先程の公園にやってきた。
またしてもハヤトくんに結界を張ってもらうと、それを見た桜子ちゃんと薫子ちゃんは二人揃って頬を赤く染めた。

「わ!イケメン」

「ホントだ!カワイイ」

二人共ハヤトくんを見てキャーキャーと騒ぎ出した。何やらハヤトくんがモテております。
外見は同い年くらいに見えるからね。
そんな三人を見てると、ついついにんまりしてしまう。


「ハヤトくん!次、戦ってくれる?」

ハヤトくんはジト目で私を見ると言った。

「ねぇミツキ。変な事考えてないよね」

「別に考えてないよ。あの可愛い子達と楽しくやってきてくれたらそれでいいから」

「楽しく?僕は手加減なんてしないからね」

憮然としてハヤトくんは進み出た。

「わ!あのイケメン式神なの?」

「ちょっ!式神なのに喋ってるよ。凄くない?」

二人して盛り上がっているのを尻目に、冷静なハヤトくんは腕を組んで「式神、早く出しなよ」と言う。

桜子ちゃんと薫子ちゃんは、顔を真っ赤にしてうんうんと頷き、それぞれがハヤトくんに向かってカードを投げる。

「式神、森のくまちゃん」

「式神、森のわんちゃん」

あら!式神まで可愛らしい。

森のくまちゃんって、子熊だ。
それがトテトテと歩いている姿を見ると、可愛すぎてつい手を差し伸べたくなる。

そして、森のわんちゃんって、子犬だ。
こちらもまた、愛くるしい姿でトテトテと歩いてくれば、ぎゅうっと抱きしめたくなる。

こんな愛らしいくまちゃんとわんちゃんと戦うなんて、私にはできない。

式神戦でホントに良かったよ。

ハヤトくんはため息をつきながら、子犬と子熊の首根っこを掴み持ち上げ、二匹を抱えた。

「こんなんじゃ戦いにならないんだけど」

二匹を抱えたハヤトくんはとても絵になる。
桜子ちゃんと薫子ちゃんはそれを見て、「キャー」と黄色い叫び声を上げる。

そして二人共おもむろにスマホを取り出し、撮影会が始まってしまった。

あ、あのー。
これじゃちっとも練習試合にならないんだけど。
あなたたち、一体何しに来たの?

「仕方ない、メンバーチェンジしよう。ヤト、戦って」

ヤトは頷いて、進み出た。
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