転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

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式神戦

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悠也さんはこのビルの一室で、法具を作るとばかり思っていた。
不思議に思った私は、拓斗さんに聞いてみる事にした。

「悠也さんの作業場ってどこにあるの?」

「悠也の実家、火室家だ。あそこは代々法具師の家系だから、設備も充実してるんだ」

「へぇ、実家へ帰ったの」

「法具のメンテナンスや呪符の作製なら、ここでもできるけど、流石に一から法具を作るとなると、火室家に戻った方がアイツも本来の力を発揮できるんじゃないか」

「なるほど」

法具師の神様と言われる火室景正から始まった火室家。
千年も続く古い家系だ。
よほど凄い設備が揃っているに違いない。
一度見てみたいものである。

「どんな法具ができるのか、とても楽しみだね。完成までどのくらいかかるのかな?」

「そうだな。まあ、早くて三日、長くて一週間くらいか」

「えっ?!意外と速いんだ。私、一月くらいかかるのかと思ってた」

拓斗さんは、笑いながら答えた。

「他の法具師ならそのくらいかかる。だが、火室家は仕事が速いんだ。その上、出来栄えも見事なものだから、陰陽師は皆、火室家に依頼したがる。受けてもらえるかは別として」

それは凄いな。
そんな話を聞いたら、悠也さんが作る法具の完成が楽しみで、仕方がなくなる。

「そういえば、拓斗さん。須弥山はどうだったの?長丁場で疲れてるんじゃない?」

お昼を食べて少しは回復したように見える伶さんと拓斗さんだけど、顔色は優れず疲れは隠しきれない。
私の問に拓斗さんは頷いて話し始めた。

「確かに話したいことは山のようにある。俺の武勇伝を徹夜してでも聞かせてやりたいんだが、死にそうな程疲れていることも事実でさ。俺と伶さんはこのあと休むから。事務所の事は深月、頼んだぞ」

「う、うん。任せて。ゆっくり休んで」

いきなり事務所を任されてしまった。
私一人で大丈夫なのだろうか?と、不安になったけど、とにかく二人を休ませなくてはならない。
できるだけ一人で頑張らなくては。

私が不安顔でいるのを感じた拓斗さんは、自分の机の上からファイルと書類を手に取った。

「はい。これは今日の業務だ」と、拓斗さんから書類一式を渡された。

「これをPCに入力して、プリントアウトする。それをファイリングしてくれ。この量だと、まあ今日目一杯かかると思うから」

そう言われ、一通りのやり方を教えてもらった。
退出する伶さんと拓斗さんを見送って、私はPCの前に座る。

さあ、始めよう。
パソコンは得意とは言えないけど、嫌いではないからね。

キーボードを打ち込んで、プリントアウトしファイリングする。
何度か作業を繰り返すうちに、少しずつ慣れてきた。

だんだん楽しくなってきて、打ち込むスピードも上がってきたなと思っていた時、事務所の呼び鈴が鳴ったので、私はPCを閉じて入り口へ向かった。

「はい」

そう声をかけ入り口の扉を開くと、そこには若い男性の姿があった。

「たのもー」

「あの、なにか?」

「たのもー」

何この人?さっきからたのもーたのもーって。
道場破りかなんかなの?

この男性は、痩せ型でひょろっと背が高く、短めの黒髪、そしてサングラスをかけているので、人相ははっきりとわからない。ただ、全体的に線が細く、神経質そうな印象を受ける。
こののっぽな来客は私を通り越し、事務所内を窺いながら口を開いた。

「ここの所長を出してくれ」

所長を出せって、名乗りもせずにいきなり何なのよ。

「所長の赤星は只今席を外しております。失礼ですが、お名前は?」

私がそう言うと、のっぽの男性は眉をぴくっと上げた。

「俺は霜月賢吾しもつきけんご。二十歳」

いやいや、歳なんか聞いてないんだけど。
って、わたしと同い歳か。

「ご用件は···」

私が言いかけると、霜月さんは「どけ」と言い放ち、私をぐいっと押して中に入ろうとした。

「ちょっと!ダメよ」

私が両手で彼を押し止めようとしたとき、ユキちゃんがすっと間に入った。

「これ以上、我が主に無礼を働いたら、貴様を許さん」

霜月さんは、ビクッとして後ずさった。

「お前、まさか式神か?」

その問に答えるでもなく、ユキちゃんは私の前に立ち、腕を組んで霜月さんを睨みつける。

そしてヤトとハヤトくんも、私を守るように両脇を固めた。

「嘘だろ?!式神を出しっぱなしなんて、よく力が尽きないな。しかも式神が喋ってる」

信じられないものでも見るように、霜月さんはサングラスを外し、大きく目を見開いた。

とはいっても、その細い目を精一杯開いても、糸目なのだけれど。

「あのー、所長は不在ですし、今日のところはお引き取り願えますか?」

私がユキちゃんの横から顔を出して言うと、霜月さんは首を振り、ニヤリと笑った。

「あんた、陰陽師だな」

「え?まあ、一応」

「一応ってことがあるか!そんなにぞろぞろと式神を引き連れておいて。···あんたでいいか。よし!あんたに対外試合を申し込む」

「はあ?対外試合ってなんですか?」

「大会前に自分の実力を測るため、練習試合をするのさ。だから、予選形式の式神対式神で試合をする。で、負けたほうが勝ったほうの言うことを一つ聞くってのはどうだ?」

うわ、試合って!しかも、罰ゲーム付き。
なんでそんな事しなくちゃならないのよ。
今は就業時間中なんだから。

「いえ、私は仕事が忙しいので、遠慮しときます。では」

そう断って、入り口を閉めようと扉に手を掛けると、霜月さんはすかさず私の手首を握ろうとした。

「いい度胸だな」

額に青筋を立てたユキちゃんが、霜月さんの手をはたき落とした。

後ずさる霜月さんの胸ぐらを掴んだユキちゃんは、睨みつけながら言った。

「式神を出せ。望み通り戦ってやる」

ユキちゃんは霜月さんを突き飛ばし、スタスタと歩きだした。

霜月さんはその勢いにたじろぎ、一瞬ぶるっと震えた。
それを隠すように、またサングラスをかけ、ユキちゃんの後に続いた。

「ああ、これじゃ仕事になんないよ」

そう呟いて、私も二人の後を追った。

ここは、事務所の裏手にある公園。
その真ん中で、ユキちゃんと霜月さんが睨み合っている。
あっ!ここで戦ったら他の人の迷惑になっちゃうよ。

「ハヤト君、結界を張ってくれる?」

「深月、わかった!」

ハヤト君が私達を覆う結界を張った。
この結界なら他の人からは見えないし、被害も出ないはずだ。
この中でなら思う存分戦っても大丈夫!

「なんだ、この超強力な結界は?!」

霜月さんはキョロキョロと辺りを見回して、唸り声を上げた。

「そんな事はどうでもいい。早く式神を出せ」

「くっ!し、式神、コマとケン」

霜月さんはカードを二枚、ユキちゃんへ向かって投げた。
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