転職したら陰陽師になりました。〜チートな私は最強の式神を手に入れる!〜

万実

文字の大きさ
上 下
32 / 105

総長

しおりを挟む
私は首を傾げながら月雅をお姉さんへ差し出した。

「はい、開きましたよ」

お姉さんは月雅を受け取り、目を見開いて私をまじまじと見つめる。

「あなた、名前は?」

「私は深月。雪村深月と言います」

「雪村?へぇ、そう。私は火室京香。悠也の姉よ」

暫く私を見ていた京香さんだけど「じゃあ始めるわ」と言って、開いた月雅の鑑定に戻った。

そして、先程のように眼鏡をかけて隈なく観察をする。
ある一点を見た瞬間、京香さんは眼鏡を外し「嘘でしょ?!」と呟いた。

悠也さんと同じセリフを呟いている。

「な!驚くだろ?」

「ええ。にわかに信じがたいわ。こんな事ってあるのかしら?」

むむ、話の流れが全く見えない。
一体何がこの扇に刻まれているのだろうか?

「あの、何がわかったんですか?」

「この鑑定が正しければ、この扇はとんでもない物だと言うことがわかったわ」

更に言っている意味がわからない。
私は訝しみながら、京香さんを見る。

「とんでもない物?どういうことですか?」

「この扇のこの部分に製作者名が刻まれているの。でもそれが問題でね」

「製作者って誰なんですか?」

「火室景正かげまさ。火室家の創始者で法具師の神様みたいな人よ。でも彼の生きたのは千年も昔。彼の製作した法具は伝説になっていて誰も見たことがないの。まあ、当たり前よね。千年前の物だもの。だからこの法具が、この状態で現存していることがおかしいのよ」

なるほど。
確かに祭雅は千年前に生きていた。
この月雅が、どういう経緯で須弥山にあったのかはわからないけれど、私がそれを持ち帰ってきた。

「この月雅は、私が須弥山の泉にあるのを見つけて持ち帰ったんです」

「須弥山?!しかも、泉というと霊泉のことよね。それなら時の流れがこことは違うし、霊泉の効果で劣化も防げていたということかしらね」

京香さんは顎に手を当てて思案したあと、頷いた。

「これは総長に鑑定し直してもらいましょう」

そう言うと、返事も聞かずにスタスタと歩きだした。
悠也さんと、私、式神達も慌ててその後に続いた。

そして、ある部屋の前に来たらドアをノックしてバンと開いた。

「総長!入るわよ」

京香さんに続いて、私達も総長室に入る。
そこは白基調の広い部屋で、大きな執務机に、大きな書棚、豪華なテーブルと椅子が並び、部屋の奥には更に扉が見える。

しかし、部屋には誰もおらず、京香さんはチッと舌打ちをして奥の扉を開けた。

「総長、鑑定依頼よ。タバコは程々になさい」

「あー、お客か。今行く」

低い声が響き、大柄な男性が姿を現した。

四十代くらいだろうか?
長めの髪には少し白髪が混じり、後ろで括っている。
鷲鼻で少したれた眼は鋭い光をたたえている。
黒縁のメガネをかけており、一見穏やかそうに見えるが、本当の所は謎だ。

「総長の真田さなだだ、よろしく」

「赤星事務所から参りました、火室と雪村です。よろしくお願いします」

私達は挨拶を済ませた。真田さんは私達をじっくりと見て、式神達に目を止めると言った。

「で、こっちの式神は誰の?」

「彼らは私の式神です」

私がそう言うと、「ほう、これはこれは···」と、値踏みするように見られた。

「嬢ちゃん、少し遊ばないか」

真田さんは笑顔で真っ直ぐ立ったままだ。
しかし、どこにも隙がなく、その目からは殺気が溢れ出す。 

これ、ヤバいんじゃない?!襲い来る威圧が物凄い。
額から嫌な汗が流れる。
私は身構え、ヤトとハヤトくんも私の両脇を固める。
そして、月雅からパシュッとユキちゃんが姿を現し、私の前に立つ。

「深月、気を付けろ。この男、底が知れない」

私は頷いた。
ユキちゃんの言うことはよくわかる。この殺気から十分に感じ取れる。
まともに相手をしちゃ駄目だ。

「また一人、式神が増えやがった。こりゃ俺の手に負えねえ」

真田さんがそう言うと、先程までの殺気を解き放ち、飄々とした態度でテーブルの椅子に腰掛け、足を組んだ。
そして、口の端を上げこちらを見やる。

はぁ、どうやら遊びは終わったらしい。
初対面なのに、一体何なんだろう···。肝が冷えたよ。
何かを試していたんだろうか?
でも、手に負えねえというセリフは嘘だろう。

私の直感だけど。

京香さんはつかつかと真田さんに歩み寄り、バシっと肩を叩いた。

「いてーな!おいコラ、上司に何をする!」

目尻に涙を浮かべながら、真田さんは京香さんを睨む。

「女の子をいじめてどうするの!馬鹿じゃないの?!」

京香さんは両手を腰に当てて、上から睨み据える。

「ただの遊びだろうが、いちいち突っかかんな!」

その言葉を聞いても、京香さんは無言でにらみ続けている。
真田さんは肩を落として言った。

「ホントお前さんには叶わねぇな。嬢ちゃん、悪かったな」

「いいえ」

ただの遊び?とは思えないけれど。
真田さんは、やれやれと肩をすくめた。
京香さんはため息をつくと、私の月雅を真田さんへ差し出した。

「総長、これを見て。滅多にお目にかかれない物よ」

「おう」

真田さんはそう言って受け取り、内ポケットからペンライトを取り出した。
月雅にライトを当てながら、観察するその眼は、次第に鋭さを増してゆく。

「こりゃ···」

そう言って言葉を失った。

真田さんは暫く月雅をあらゆる方向から眺め、頷いた。
そして、すっくと立ち上がり、月雅を私に渡しながら呟いた。

「嬢ちゃん、あんたはとんでもねぇと思っていたが、この業物もとんでもねぇな。どこで手に入れた?」

「これは須弥山です」

「は、須弥山に法具?聞いたことねぇな」

真田さんは顎に手を当て、「ふーん」と呟いてから暫く考え、指示を出した。

「よし、こいつはSランクで登録。製作者は火室景正で間違いない」

「Sランク!まさか」

「おう!法具師の神が作った法具だ。それに、宝玉の数は十二個だぞ。これに最高ランクを付けないでどうする?」

「···ああ、私の作ったサザンクロスが追い抜かされた」

「サザンクロス?」

私が首を傾げていると、悠也さんが私の腕を引っ張ってこそっと教えてくれた。

「サザンクロスというのは伶さんの法具だ。あれはランクAA。現存している法具で最高ランクを付けていたんだ。だが深月の月雅にあっさり抜かされたから、姉貴は製作者として悔しいんじゃないのか?」

へえ、伶さんのロザリオはサザンクロスという名称なのね。
それに、法具にランクがあるなんて、知らなかった。

ニヤリと笑う悠也さんの元へ、京香さんが歩み寄り胸ぐらを掴んだ。

「あんた!こそこそして聞こえないと思ってるんでしょうけど、筒抜けよ!」

「あわわ!わかったから!悪かったって、勘弁してくれー」

そんな姉弟のやり取りを眺めていた真田さんは、「おーい、ちゃんと登録しとけよ」と呟いて私の前に来た。

「嬢ちゃん、また遊びに来いよ」

「は、はい」

真田さんはそう言って、私の頭をがしがしと撫でて、片手を上げると部屋から出ていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

処理中です...