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陰陽師連盟総本部

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「深月」

拓斗さんに呼ばれ、私は「はい」と返事をしながら椅子から立ち上がった。

「俺はこれから伶さんと須弥山に行ってくる」

「須弥山!それじゃあ」

「そう。ついに俺も須弥山を攻略して法具を手に入れる!」

うわ!

ということは、伶さんが鍵もちのガイドで同行し、拓斗さんはバシバシと鬼やら妖魔やらを倒してくるんだね!

「拓斗さん、頑張って」

「おう!任せとけ」

拓斗さん張り切っているけど、怪我とかしないで無事に帰ってきて欲しい。
そんな折、悠也さんが荷物をたくさん抱えてやって来た。

「拓斗、これ位あれば足りるか?」

「ああ、十分だ」

そう言って拓斗さんの机の上に色んなアイテムを並べていく。

「何を持っていくの?」

「須弥山攻略は長丁場になる。呪符と携帯用の食べ物、飲み物等だ」

「へえ」

私の場合、いきなりだったから何も持たずに行ったんだよね。

須弥山へ行くには、本来はしっかり準備していくものなんだ。

「準備は整ったか?」

伶さんが、部屋に入ってきた。
今日はいつものスーツではなく、柔らかそうな黒い皮のジャケットに黒いパンツで、これまた物凄くカッコいい!

それから、伶さんと拓斗さんは、それぞれ呪符を装備し、戦闘の邪魔にならないような小ぶりのリュックに、食べ物と飲み物を入れた。

「帰りは何時になるか分からない。悠也、事務所のことを頼む」

「ああ」

「深月は、悠也の指示に従ってくれ」

「はい!」

拓斗さんと伶さんは祭壇のある部屋へと向かう。
悠也さんと私、式神達も、二人を見送るために祭壇の部屋へと入る。

祭壇の前で、伶さんは右手を胸の前で握る。
その右手は光り祭壇へ向け掲げた。

伶さんの力に祭壇が呼応して、祭壇から部屋中に光が溢れた。

「では、行ってくる」

「悠也、深月。後を頼む」

「気を付けて!」

「いってらっしゃい」

二人は片手を上げて光の中へと入っていった。
部屋の中の光は徐々に落ち着き、しばらくすると元の平穏な空間に戻った。

「深月、知っているとは思うが、こちらの時間と須弥山の時間は流れ方が違うんだ。早い時もあれば、遅い時もある。どのくらいかかるかまるでわからないから、後を任された俺たちも気を引き締めていくぞ」

「はい!」

「ところで。深月の月雅なんだが、これを開く方法は無いのだろうか?どうしても、製作者と年代を調べたいんだ」

あ、この扇は普通開かないんだよね。
戦闘時、私の霊力を通すと開くようになっている。

「ちょっと待ってて下さい」

私は月雅を胸の前に掲げた。
目を瞑り、月雅に集中する。

力を解放すると、ぱらり、ぱらりと扇は開き、本来の美しい姿を現した。

「はい、開きましたよ。これで分かりますか?」

「少し借りるぞ」

そう言って、悠也さんは月雅を隈なく観察する。
表側や裏側をしっかりと見て、ある一部分に目が行ったとき、驚愕の表情を浮かべて呟いた。
 
「嘘だろ?」

どうしたんだろう?
悠也さんは一瞬青ざめたように見えた。
それから興奮して頬を上気させた。
彼は立ち上がると、私に月雅を差し出し言った。

「深月、ひとまず月雅を返す。これは俺一人では判断しかねる。ちょっと出るぞ」

私は月雅を受け取ると首を傾げる。

「出るって、どこに行くんですか?」

「陰陽師連盟総本部だ。車を出すからビルの前で待ってて」

そう言われ、私と式神達はビルの前で悠也さんの運転する白いワゴン車に乗り込む。
乗り物の嫌いなユキちゃんは、またしても月雅の中に入ってしまったんだけどね。


陰陽師連盟とは、陰陽師の統括機関である。

と、車中にて悠也さんに色々説明を受けるけど、興味がないので全く頭に入ってこない。

陰陽寮の事がふっと頭に浮かんだ。
時代が変わりその呼称は変わっても、国の機関としての位置付けは同じものだろうなと思った。

車に乗ること三十分ほどで陰陽師連盟総本部に到着した。

「うわぁ!大きな建物」

「そうだな」

敷地も凄く広いんだけど、幾つも大きな建物がある。

私一人で来たら、迷いそうだ。

今、目の前にある建物は事務棟で、奥にドーム型の非常に大きな建物があり、陰陽師の大会もここで行われるそうだ。

「深月、行くぞ」

そう促され、私は悠也さんの後について、建物に入る。

白い鉄骨造りの建物の中は、陰陽師と思しき多くの人で賑わっている。

悠也さんは受付で、女性の職員と話しをしているんだけど、なんだか不穏な空気が漂う。

「法具の鑑定と登録をお願いしたいんだ。鑑定はできれば総長にお願いしたい」

「申し訳ございません。総長は多忙でアポイントメントが無いと難しいですね。あ、今なら副長が鑑定できますが、いかがなさいますか」

「いや···副長っていえばアイツだよな。アイツは遠慮しとくわ」

ん、アイツって誰のことだろう?

「あ、あの···」

「他に誰かいないのか?」

「いないわよ!」

そう言って突如現れたのは、燃え立つような長い赤い髪の女性。
白いパンツスーツでバリッと決めた美人。とても目立つ。

悠也さんは顔を引きつらせながら、その女性から一歩後ずさった。

「ちょっと!逃げるんじゃないわよ」

「副長、こちらの方が鑑定依頼に見えております」

「鑑定依頼?あんたが?そんなこともできないの、この火室家のお荷物が!」

うわぁ!
凄い剣幕で怒鳴っているけど。
よく見ると、この人は髪は赤いし、顔の造りが悠也さんによく似ている。
火室家って言うと、もしかしてこの人は悠也さんの血縁者かな?

「姉貴、ちょっと声のトーンを落とせ!迷惑だぞ」

あ、やっぱりお姉さんか。
強いお姉さんみたいで、悠也さんはタジタジだ。
そして、周りもこちらを注目し始め、人垣ができている。
でも、怖いので皆遠巻きだ。

「うるさいわね、余計なお世話よ。で、依頼の品はどこ?」

「深月、月雅を貸してくれ」

「あ、はい。お願いします」

私は月雅を悠也さんに渡そうとすると、お姉さんがその間に割って入った。

「どれ、貸しなさい」

「ええっ?!」

お姉さんは私から月雅をふんだくって、鑑定し始めた。

あまりの強引さに、私は呆気にとられてそれを眺める。
お姉さんは眼鏡をかけて、月雅を隈なく観察する。色々な角度から観察し、何かを呟き首を傾げた。

「これ、開かないわね。真言でロックしているわけじゃないのかしら?こんな珍しい法具は初めて見たわ」

「だろ?だがそれだけじゃない」

お姉さんは眉間にしわを寄せ、イライラして言う。

「何よ、分かっていることがあるなら、早く言いなさい」

悠也さんは大きなため息をついて、私を呼んだ。

「深月、月雅を開いてくれ」

「はい」

私はお姉さんから月雅を受け取って、胸の前に掲げる。
大きく深呼吸をし目を瞑る。

胸の奥から広がる私の力。
それが扇の隅々へと行き渡り、ぱらりぱらりと開いてゆく。

「「おお~!!」」

何故か周りの人垣から歓声が上がる。
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