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引越し
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私は自分の中で引越しの計画を立てたんだけど。
「引越しは今日でもいいのか?」
ユキちゃんが私の後ろでそんなことを口走った。
「へっ、今日?」
引越し業者とか、箱とか。
何も手配してないのにいきなり引越しって?
「出来るんだったら、これからでも構わないが」
伶さんの言葉に頷くユキちゃん。
「深月、こういうことは早いほうが良い。早速、今から引越すぞ」
「ええっ?!いやあ今からって、急過ぎないかな?」
しどろもどろに答えると、ユキちゃんは私の手を掴み「行くぞ」といい、かなり強引に連行された。
あの、私の意見は無視ですか?
それから式神三人に引きずられるようにして自宅へ戻った。
何故かユキちゃん主導で引越しが始まってしまった。
「深月、お前は必要なものと不要なものを分けろ」
「えっ?!う、うん」
私は、クローゼットの中の衣類などを取り出し、分別を開始した。
「玄武は先ず大人の姿になれ。次は深月の分けた必要なものを、この箱の中に詰めろ」
「わかった」
ユキちゃんはどこからかダンボール箱を取り出し、大人の姿になったハヤトくんに渡した。
「狐は深月の分けた不要なものを、この袋の中に入れるんだ」
「······」
ユキちゃんはヤトにゴミ袋を渡した。
各々が黙々と作業をしてゆく。
ユキちゃんがその都度指示を出し、作業は滞りなく進んだ。
辺りはすっかり暗くなり、周りの人通りもまばらだ。
新居に運ぶ荷物は積み重なってゆくけど、一体これをどうするのか?
「狐、外に出て待機だ」
「···お前はいちいち指図するな」
ヤトは文句を言いながらも、ユキちゃんの指示で窓から外に飛び降りた。
って、何やってんの!
ここ二階なんだけど!
焦りまくった私は慌てて窓辺に駆け寄ると、ヤトはふわふわと宙に浮いて腕を組んでいる。
すっかり忘れていたけど、この人空飛べるんだった。
私は窓枠に寄りかかり、ふぅっと安堵の息を吐く。
心臓に悪いから、ホント止めてほしい。
「よし、狐は天狐に変化」
ユキちゃんは周りを見回して、人気がないのを確認した後、指示を出した。
ヤトは大きな天狐に変化し、窓ギリギリの所までつけた。
「深月、玄武。荷物を狐の背に載せるんだ」
ハヤトくんがヤトの背に乗り、私が荷物を渡す。
こんな時、式神って便利よね。引越し業者要らず!
···なんて思ってしまった。
ただし、騒ぎになるから夜間しか使えないけれど。
全ての荷物をヤトの背に載せ終え、私達も一緒に乗る。
待って、これ少しでも動けば落ちそうなんだけど。
「玄武、結界だ」
「白虎はさ。アイデアはいいけど、僕たちをこき使い過ぎだよね」
「グダグダ言わずにさっさとしろ」
「はーい」
ハヤトくんは返事をするとすぐに、ヤトの背に結界を張った。
この結界により、私達と引越しの荷物は固定された。
少々の振動ではびくともしないのが、この結界の凄い所だ。
これで、荷物も私達もここから落ちることはない。
なるほどね。
結界にはこんな使い方もあるのか!
って、普通はこんな使い方、まずしないだろうけど。
感心していると、ヤトは空へと駆け上がって行った。
ぐんぐんと上昇して事務所を目指す。
陸を移動するのと、空を移動するのではかかる時間はまるで違う。
本当にあっという間に事務所に着いてしまった。
結界を解除し、荷物を事務所の入り口付近に降ろす。
「深月は、ここで荷解きだ」
「あれ、みんなは?」
「我らは戻って後片付けをしてくる」
「···よろしくお願いします」
みんなで部屋に荷物を運び入れ、私が片付ける。
その間、式神たちは自宅へと戻った。その手に箒や雑巾を持って。
ユキちゃんは私と自宅の間を行ったり来たりして、様子を見てたけどね。
うーん、なんというありがたさ。
もしも、一人で引越しをしたならば、こんなに直ぐには終わらない。
半日もかからずに引越しが終わり、残すは事務手続きなどだ。
他にもやることはあるが、まあ、微々たるものだ。
「深月、お疲れー。片付けは終わりそうか?」
そう言って拓斗さんがノックと共に部屋に入ってきた。
「拓斗さん、あと少しで終わるよ」
「終わったらリビングに集合な」
「集合って、なにかあるの?」
もう、仕事も終わってる時間だけど、これから一体何があるのか?
拓斗さんはニヤリと笑った。
「来てのお楽しみ。式神も一緒に連れてこいよ」
そう言い残して、拓斗さんはいなくなった。
しばらくして式神たちも戻ってきた。
あらかた片付けも終わったので、みんなでリビングへ向かう。
リビングの扉を開けると、思っても見なかった光景が広がっていた。
大きなテーブルの上には所狭しとお料理や飲み物が並べられている。
そして、事務所のみんながテーブルを囲んで、私達を待っているようだ。
私は目を見開いて尋ねた。
「あの、これは?今日は何かのお祝いですか?」
拓斗さんは腕を組み、笑いながら言った。
「お祝いかって?んー、間違っちゃいないけどな。今日は歓迎会だ」
「歓迎会?って、もしかして私の?」
「そうだ」
「うわぁぁ!ありがとうございます」
私、今日仕事始めたばかりなのに、寮に入れてもらい、歓迎会もしてもらえるなんて!
とても嬉しい。
そういえば、みんなが無事に帰れたらパーティーをしようとヤトに約束していた。
図らずも、願いが叶ったよね。
私はヤトに「祝杯だよ」と言うと、ヤトは口の端を上げて頷いた。
私達の前に伶さんが来た。
「深月、初日から色々あって大変だったとは思うが、今後もこの調子で頑張って欲しい。今日は歓迎会だ。思う存分食べて飲んでくれ」
「はい!」
私は伶さんにお礼を言い、席についた。
乾杯の言葉で始まった歓迎会。
手に持つグラスには、それぞれ好きな飲み物が入っている。
私はお酒が飲めないので、ぶどうのジュースを頂くことにした。
式神たちは全員お酒だ。
ユキちゃんは日本酒、ヤトは焼酎。
ハヤトくんはワインを好んで飲んでいる。
みんなに酔わないの?と聞いたら、少し温かくなるくらいだと言っていた。
なんだか羨ましい。
私がお酒を飲んだら大変なことになる。
途中で記憶が飛んでしまうから、恐ろしくて飲めない。
だんだん目が霞んでくるし、ほら、こんな感じに二重に見えてくる。
あれ、おかしいな。
これ、ジュースよね?なんで二重に見えるのよ?
今日は疲れすぎたのだろうか?
私がグラスを目の前に掲げていると、ハヤトくんが私の側により言った。
「ミツキ、そろそろ僕のワイン返してくれないかな?」
「へ?」
「さっきから飲んでるの、それ僕のワインなんだけど」
ええーー!私が飲んでたのってお酒?!これ、ジュースじゃなかったの?
ど、どうするのー!
ああ、目が回る。
ガクッと膝が折れて両手を床についた。
それまでは確かに覚えてるよ。
そう。
あとは真っ白な世界の中にいた。
「引越しは今日でもいいのか?」
ユキちゃんが私の後ろでそんなことを口走った。
「へっ、今日?」
引越し業者とか、箱とか。
何も手配してないのにいきなり引越しって?
「出来るんだったら、これからでも構わないが」
伶さんの言葉に頷くユキちゃん。
「深月、こういうことは早いほうが良い。早速、今から引越すぞ」
「ええっ?!いやあ今からって、急過ぎないかな?」
しどろもどろに答えると、ユキちゃんは私の手を掴み「行くぞ」といい、かなり強引に連行された。
あの、私の意見は無視ですか?
それから式神三人に引きずられるようにして自宅へ戻った。
何故かユキちゃん主導で引越しが始まってしまった。
「深月、お前は必要なものと不要なものを分けろ」
「えっ?!う、うん」
私は、クローゼットの中の衣類などを取り出し、分別を開始した。
「玄武は先ず大人の姿になれ。次は深月の分けた必要なものを、この箱の中に詰めろ」
「わかった」
ユキちゃんはどこからかダンボール箱を取り出し、大人の姿になったハヤトくんに渡した。
「狐は深月の分けた不要なものを、この袋の中に入れるんだ」
「······」
ユキちゃんはヤトにゴミ袋を渡した。
各々が黙々と作業をしてゆく。
ユキちゃんがその都度指示を出し、作業は滞りなく進んだ。
辺りはすっかり暗くなり、周りの人通りもまばらだ。
新居に運ぶ荷物は積み重なってゆくけど、一体これをどうするのか?
「狐、外に出て待機だ」
「···お前はいちいち指図するな」
ヤトは文句を言いながらも、ユキちゃんの指示で窓から外に飛び降りた。
って、何やってんの!
ここ二階なんだけど!
焦りまくった私は慌てて窓辺に駆け寄ると、ヤトはふわふわと宙に浮いて腕を組んでいる。
すっかり忘れていたけど、この人空飛べるんだった。
私は窓枠に寄りかかり、ふぅっと安堵の息を吐く。
心臓に悪いから、ホント止めてほしい。
「よし、狐は天狐に変化」
ユキちゃんは周りを見回して、人気がないのを確認した後、指示を出した。
ヤトは大きな天狐に変化し、窓ギリギリの所までつけた。
「深月、玄武。荷物を狐の背に載せるんだ」
ハヤトくんがヤトの背に乗り、私が荷物を渡す。
こんな時、式神って便利よね。引越し業者要らず!
···なんて思ってしまった。
ただし、騒ぎになるから夜間しか使えないけれど。
全ての荷物をヤトの背に載せ終え、私達も一緒に乗る。
待って、これ少しでも動けば落ちそうなんだけど。
「玄武、結界だ」
「白虎はさ。アイデアはいいけど、僕たちをこき使い過ぎだよね」
「グダグダ言わずにさっさとしろ」
「はーい」
ハヤトくんは返事をするとすぐに、ヤトの背に結界を張った。
この結界により、私達と引越しの荷物は固定された。
少々の振動ではびくともしないのが、この結界の凄い所だ。
これで、荷物も私達もここから落ちることはない。
なるほどね。
結界にはこんな使い方もあるのか!
って、普通はこんな使い方、まずしないだろうけど。
感心していると、ヤトは空へと駆け上がって行った。
ぐんぐんと上昇して事務所を目指す。
陸を移動するのと、空を移動するのではかかる時間はまるで違う。
本当にあっという間に事務所に着いてしまった。
結界を解除し、荷物を事務所の入り口付近に降ろす。
「深月は、ここで荷解きだ」
「あれ、みんなは?」
「我らは戻って後片付けをしてくる」
「···よろしくお願いします」
みんなで部屋に荷物を運び入れ、私が片付ける。
その間、式神たちは自宅へと戻った。その手に箒や雑巾を持って。
ユキちゃんは私と自宅の間を行ったり来たりして、様子を見てたけどね。
うーん、なんというありがたさ。
もしも、一人で引越しをしたならば、こんなに直ぐには終わらない。
半日もかからずに引越しが終わり、残すは事務手続きなどだ。
他にもやることはあるが、まあ、微々たるものだ。
「深月、お疲れー。片付けは終わりそうか?」
そう言って拓斗さんがノックと共に部屋に入ってきた。
「拓斗さん、あと少しで終わるよ」
「終わったらリビングに集合な」
「集合って、なにかあるの?」
もう、仕事も終わってる時間だけど、これから一体何があるのか?
拓斗さんはニヤリと笑った。
「来てのお楽しみ。式神も一緒に連れてこいよ」
そう言い残して、拓斗さんはいなくなった。
しばらくして式神たちも戻ってきた。
あらかた片付けも終わったので、みんなでリビングへ向かう。
リビングの扉を開けると、思っても見なかった光景が広がっていた。
大きなテーブルの上には所狭しとお料理や飲み物が並べられている。
そして、事務所のみんながテーブルを囲んで、私達を待っているようだ。
私は目を見開いて尋ねた。
「あの、これは?今日は何かのお祝いですか?」
拓斗さんは腕を組み、笑いながら言った。
「お祝いかって?んー、間違っちゃいないけどな。今日は歓迎会だ」
「歓迎会?って、もしかして私の?」
「そうだ」
「うわぁぁ!ありがとうございます」
私、今日仕事始めたばかりなのに、寮に入れてもらい、歓迎会もしてもらえるなんて!
とても嬉しい。
そういえば、みんなが無事に帰れたらパーティーをしようとヤトに約束していた。
図らずも、願いが叶ったよね。
私はヤトに「祝杯だよ」と言うと、ヤトは口の端を上げて頷いた。
私達の前に伶さんが来た。
「深月、初日から色々あって大変だったとは思うが、今後もこの調子で頑張って欲しい。今日は歓迎会だ。思う存分食べて飲んでくれ」
「はい!」
私は伶さんにお礼を言い、席についた。
乾杯の言葉で始まった歓迎会。
手に持つグラスには、それぞれ好きな飲み物が入っている。
私はお酒が飲めないので、ぶどうのジュースを頂くことにした。
式神たちは全員お酒だ。
ユキちゃんは日本酒、ヤトは焼酎。
ハヤトくんはワインを好んで飲んでいる。
みんなに酔わないの?と聞いたら、少し温かくなるくらいだと言っていた。
なんだか羨ましい。
私がお酒を飲んだら大変なことになる。
途中で記憶が飛んでしまうから、恐ろしくて飲めない。
だんだん目が霞んでくるし、ほら、こんな感じに二重に見えてくる。
あれ、おかしいな。
これ、ジュースよね?なんで二重に見えるのよ?
今日は疲れすぎたのだろうか?
私がグラスを目の前に掲げていると、ハヤトくんが私の側により言った。
「ミツキ、そろそろ僕のワイン返してくれないかな?」
「へ?」
「さっきから飲んでるの、それ僕のワインなんだけど」
ええーー!私が飲んでたのってお酒?!これ、ジュースじゃなかったの?
ど、どうするのー!
ああ、目が回る。
ガクッと膝が折れて両手を床についた。
それまでは確かに覚えてるよ。
そう。
あとは真っ白な世界の中にいた。
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