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陰陽師の衣装

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そうそう、自分のことは良いとして。
 
あの夢の登場人物の藤原千尋。
陰陽寮の陰陽師で親友。

彼は須弥山で出会った真尋だ。顔形も風貌もそのままなので、間違えようがない。

過去に一緒だった人物が、現在でも関係があるなんて、なんだか面白い。

きっとまた会えるんだろう。
楽しみにしておこう。

「深月、ちょっといい?」

悠也さんに呼ばれ、私は「はい」と返事をして席から立ち上がった。
別室に来てくれと言われて付いていく。
そして、ゾロゾロと式神たちも付いてくる。

「ちょっと!私は仕事の話をしに行くのよ。どこまで付いてくんの?」

私は三人の式神の前に立ちふさがった。
式神たちはキョトンとしている。

「深月、我ら式神は常にお前と共にあるといっただろう」

ユキちゃんが前に出て、聞き覚えのあるセリフを言うけれど、どこに行くにもそんなにゾロゾロと付いてこられては、落ち着いて話もできない。

「わかった!それなら付いてきてもいいよ。ただし一人だけね。あなた達の中で決めなさい」

式神三人は顔を見合わせ、険悪な雰囲気になった。

うわ、三つ巴だ!

なんだか怖い。

怖いので、先に行ってよう。

私は「決まったら入っておいでね」と言い残して、悠也さんの指定した部屋に入った。

すぐさま、ハヤトくんが私に続いて入ってきた。

どのようにして決めたのか気になるけれど、深く追求するのは止めておこくことにした。

悠也さんはファイルとメジャーを持って、待っていた。

「陰陽師の大会があることは拓斗から聞いている?」

「はい、聞いています」

「その時に着る衣装を作るんだ。これから採寸するから俺の前に立ってくれるか?」

「へっ?作るって悠也さんが?」

「そうだよ」

「うわぁ!!凄い」

法具師って武器だけじゃなくて、衣装も作れるの?
私、裁縫はあまり得意じゃないから、裁縫のできる人って羨ましく思う。
しかも、男性だよ!

私は尊敬の眼差しで悠也さんを見つめた。

「深月の法具に合わせた衣装にするから、楽しみにしていてくれ」
 
ということは、和風の衣装になるんだ。

うわぁ、楽しみ。

それから、首周りや肩幅、着丈など細かく採寸された。

「あの、伶さんや拓斗さんも衣装があるんですか?」

「あるよ。あの二人のはもう出来あがってるから。大会当日にお披露目になる」

それは大会が更に楽しみになった。
自分の衣装も気になるけれど、伶さんの衣装が一番気になるよ。

法具に合わせた衣装にするということだから、伶さんの場合はロザリオの剣に合わせた衣装だ。

ってことは、洋風だな。きっと。 

何でも似合うと思うんだけど、カッコいいんだろうなあ!

私がにまにましていると、悠也さんは吹き出した。

「深月、お前の百面相かなり面白い!」

「うわっ!そんなにじろじろ見ないで下さい」

ニヤけてるの思いっきり見られてたんだ!
恥ずかしい。
悠也さんは涙を浮かべて笑いを堪えている。

「年に一度の陰陽師の大会は、お祭りみたいなもんだ。だからどの陰陽師も新作の衣装で大会に望む。でも、気を引き締めていけよ。浮かれすぎてコケないように」

「はあい!」

そうか、お祭りみたいなものなんだ。
それに、どの陰陽師も衣装を新調してくるなんてね。
うーん、今から凄くワクワクする。

「そうそう、深月の法具、暫く貸してくれないか?少し調べたいし、法具のケースも作りたいから」

「構いませんよ。法具のケースはとても助かります。よろしくお願いします」

私はそう言って、悠也さんに月雅を渡した。

「あっ!!ミツキ、そんなに簡単に月雅を手放したらダメだ」

今までおとなしく見学していたハヤトくんが口を挟んだ。

悠也さんは法具師で、月雅のメンテナンスをしてくれると説明したけれど、ハヤトくんの顔は不安げだ。
そういえば以前、悠也さんに月雅を渡した時、ユキちゃんとヤトも嫌がっていた。
なにか理由があるのだろうか?

「ねえハヤトくん。どうして人に月雅を渡したらダメなの?」

ハヤトくんは愕然とした表情で言った。

「ミツキ、仮に月雅が盗まれたとしよう。それは法具だけにとどまらず、式神さら持って行かれる事になるんだ。僕たちはミツキの式神で居られなくなるという事なんだよ」

「ええっ!!そうなんだ。知らなかったとはいえ、今後は気をつけるね」

「うん。気をつけて!絶対に安全なんて有り得ないんだ。ミツキは注意し過ぎるくらいで丁度いいんだからね」

確かに、月雅を安易に人に渡したらとんでもない事になる。

式神たちと離れるなんて、とてもじゃないが考えられない。
それほどに、彼らは私の一部になっているんだ。

自分の中で式神とは、戦う手段として必要としているだけではない、何か違う感情が芽生えていることに、この時の私は気付いていなかった。


無事に採寸も終わり、私とハヤトくんは元の席へと戻った。

机で参考書を広げていると、伶さんがやって来た。

「深月、今いいか?」

「あ、はい」

所長室に来るように言われ、伶さんの後に続く。
そして今度はユキちゃんが付いてきた。

初めて入る所長室。
執務机に本棚、革張りのソファーがあり、他の部屋よりもグレードが高いように感じる。

ソファーに座るように言われ、私は座りユキちゃんは私の後ろに立った。

「深月、うちの事務所の福利厚生について話をしておく」

「はい」

「今日も泊まったから分かっているとは思うが、この事務所の一階部分は寮になっているんだ。希望があれば入寮できるが、深月はどうしたい?」

わあ!あの部屋に住めるってこと?
それ、凄くいい。
個室の部屋も素敵だったし、大きなリビングダイニングキッチンでは、お料理もできそうだ。

それに今、式神が三人に増えた訳だけど、今後も更に増えることを考えれば、今住んでるアパートではどう考えても手狭になってしまう。

それに、通勤の途中で鬼や妖魔に遭遇する可能性も高い。

ここに住めれば、無用な戦いを避けることもできる。
これは是非ともお願いしたい!


「伶さん、私ここに住みたいです」

「そうか、良かった。深月は昨夜の鬼遭遇に始まって、色んな事件に巻き込まれているからな。ここにいれば私も安心なんだ」

うわぁ!
私のことを心配してくれてたんだ。
なんだかとて嬉しい。

「よろしくお願いします」

そう言う私に、伶さんは微笑んだ。

き、綺麗な笑顔!
美しすぎて思わず見惚れてしまった。

暫くぼーっとしていたらしく、またもユキちゃんに小突かれてしまった。

それから寮で生活する上での注意事項をいくつか聞き、早速今日からでも住んでいいと言ってもらえた。

私、荷物はそんなにたくさん無いんだ。
だから、引っ越しすると言っても割と簡単にできると思う。

今日からここで寝泊まりさせてもらい、次の休みにでもゆっくり引っ越ししよう。
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