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式神が増えました
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「なんだよ白虎、カッコ良すぎるじゃないか」
そう呟いたハヤトくんは、少しの間遠くを見つめた。
それからため息を吐いたと思うと、なぜか元の子供の姿に戻り、私に向き直った。
「ミツキ、僕は間違ってたよ。さっき言ったことは保留にしておいて!僕はこれからミツキの式神として、自分自身とミツキの為に努力する。全てはそれからだ」
「えっ、式神って···」
「そう。ミツキ、これからよろしく」
ハヤトくんは私の右手を取り、ブンブンと握手した。
呆気にとられていると、ハヤトくんは私から離れ、倒れている白い美女の元へと移動した。
美女は皺だらけの老婆のように、干からびている。
「手始めに、これから片付けようか」
ハヤトくんはそう言うと、跪いた。
おもむろに美女の背に手を置き、力を込める。
ハヤトくんから美女へと流れ込む力。それは水の流れのように見える。
干からびていた美女の身体は力を吸収して、徐々に潤い始めた。
「うっ···」
呻きながら美女は目を覚まし、近くにいるハヤトくんを見るやいなやガバリと起き上がり、「ひっ」と一言呟きながら、平身低頭の姿勢で謝り続ける。
「ど、どうか、ご容赦ください」
ハヤトくんは美女を上から眺めて目を細めた。
「いいよ、もう。おばさん、あんたも式神になりなよ」
「えっ?!」
「ミツキ以外なら誰でもいい。この中から選んで」
なんで私以外なんだ?
この中と言っても、陰陽師は伶さんか拓斗さんのどちらかになる。
美女はすっくと立ち上がり口元に笑みを浮かべた。
そして、大方の予想通り伶さんの元へと歩いた。
「この方の元へ行きます。私は雪女の氷見呼。どうぞヒミコとお呼びください」
うわ、この人真名暴露してない?
大丈夫なのかな?
伶さんを見ると、なんだか顔が引きつっているように見えなくもない。
ヒミコはにっこりと微笑んで伶さんの持つロザリオに吸い込まれた。
一気に式神が増えました。
なんて呑気に言っていて、良いのだろうか?
そもそも、撃退するはずだった妖魔が全て、式神として私達の仲間になってしまったのだから。
これって、依頼をクリアーしたことになるのかな?
気になって伶さんを見つめていたら、それに気づいた拓斗さんが私の側に来て教えてくれた。
「後処理が終われば依頼は完遂だ」
「後処理って何をするの?」
「原状回復だよ。まあ、見てて」
伶さんはロザリオを掲げると叫んだ。
「式神·ヒミコ」
ロザリオからは美女もとい、ヒミコが現れた。
こちらも伶さんの式神になって、雰囲気が随分と変わった。
冷酷な雰囲気のヒミコだったけれど、今は暖かさと柔らかさがプラスされ、とてもいい感じだ。
「ヒミコ、この倉庫の氷を全て回収しろ」
「はい、ご主人様」
そう言って、ヒミコは右手を前に突き出した。
その手はまるで掃除機のように、周りの冷気や氷を吸い込んでいく。
建物全体を覆っていた冷気は、凄まじいスピードで回収され、自然の状態に戻った。
冷凍庫の中のようだったのに、今ではまるで春のように暖かな陽気になった。
「ヒミコ、アメノウズメ、戻れ」
伶さんの言葉にヒミコとアメノウズメは一礼して、ロザリオに吸い込まれるようにして戻った。
「これで依頼は完了した。皆、お疲れ」
「「「お疲れ様でした!」」」
ああ、終わった。
なんだか凄かったよね。
「拓斗さん。依頼をこなすのって、いつもこんなに大変なの?」
「いや、こんなケースは稀だ。大体、四神クラスの妖魔や霊獣なんて、そういるもんじゃないだろ」
確かに。それもそうだよね。
ん、拓斗さんはニヤニヤしてこちらを見てるんだけど?
「あの、なんですか?」
「いやあ、お前もてもてだな」
もてるってハヤトくんのプロポーズのことをいってんの?
ひえぇぇ。
そういえばみんなに見られてたんだよね。
ああ、急に恥ずかしくなってきた!
うわ、そういえば伶さんにも見られてたってことよね。
いやぁー!
私が頭を抱えて赤面していると「お前って、やっぱり面白い奴」と、拓斗さんはゲラゲラ笑いながら出ていった。
ちょっと!人をからかって遊ばないで。
そして、悠也さんに伶さんまで、生温かい目で見ないでくれますか。
うう、穴があったら入りたいよ。
トホホと肩を落としていると、ハヤトくんは愛らしい笑顔でやって来た。
私の傍らにより、またも手をつなぎ「さあ、行こうか」と、強引に引っ張って行く。
「あ、あの、ハヤトくん?」
「ミツキらしくないよ。何があっても元気なのが取り柄でしょ!」
おおい!君が原因でしょう。
だけど、言われた通りだ。
私は元気が取り柄だったよね。
もう、済んだことでグジグジ考えるのはやめにしよう。
依頼も片付いた事だし、帰りますか。
そして私達は行きと同じ様に白いワゴンに乗って、事務所へと戻った。
事務所へ戻ると、再度拓斗さんによる新人教育が始まる。
私は指定された席についた。
式神の三人は、珍しいものでも見るように後ろから覗き込んでいる。
一緒に授業を受ける気なのかな?
拓斗さんにレジュメを渡された。陰陽師総論とある。
うわ、難しそう。
ペラっとページをめくり、文字を目で追っていくんだけど、なんだかまぶたが重くなってきたな。
「陰陽師の基礎の続きからだ。レジュメの3ページめくって。陰陽五行説の五行説についてからだったな···っておい、いきなり寝るな!」
あわわ、私ったら疲れて居眠りしてた?
慌てて顔をペシペシと叩き、眠気を飛ばそうと試みる。
後ろの式神たちは、笑いをこらえて必死になっているようだけど。
「ミツキ、やっぱり君は祭雅とは違うね。彼女は居眠りなんて意地でもしなかったから。でも、抜けてる君もいいよね」
「ちょっと、それ褒めてるの?けなしてるの?」
「あははは、そんなのどっちだっていいじゃん。君に余裕があるってことだよ」
もう、可愛い顔してズバズバ言うよね。
余裕って言ったってねえ。あまり嬉しくないんだけどな。
ああ、恥ずかし。
拓斗さんは大きなため息を吐いた。
「まあ、今日は出勤初日なのに大変だったからな。それなら、眠くならない話をしよう」
うんうん、それはなんでしょう?
いきなり目を輝かせた私に、拓斗さんは苦笑して言った。
「陰陽師日本一を決める大会があるんだ。それに参加できるように、エントリーしておいたから」
そう呟いたハヤトくんは、少しの間遠くを見つめた。
それからため息を吐いたと思うと、なぜか元の子供の姿に戻り、私に向き直った。
「ミツキ、僕は間違ってたよ。さっき言ったことは保留にしておいて!僕はこれからミツキの式神として、自分自身とミツキの為に努力する。全てはそれからだ」
「えっ、式神って···」
「そう。ミツキ、これからよろしく」
ハヤトくんは私の右手を取り、ブンブンと握手した。
呆気にとられていると、ハヤトくんは私から離れ、倒れている白い美女の元へと移動した。
美女は皺だらけの老婆のように、干からびている。
「手始めに、これから片付けようか」
ハヤトくんはそう言うと、跪いた。
おもむろに美女の背に手を置き、力を込める。
ハヤトくんから美女へと流れ込む力。それは水の流れのように見える。
干からびていた美女の身体は力を吸収して、徐々に潤い始めた。
「うっ···」
呻きながら美女は目を覚まし、近くにいるハヤトくんを見るやいなやガバリと起き上がり、「ひっ」と一言呟きながら、平身低頭の姿勢で謝り続ける。
「ど、どうか、ご容赦ください」
ハヤトくんは美女を上から眺めて目を細めた。
「いいよ、もう。おばさん、あんたも式神になりなよ」
「えっ?!」
「ミツキ以外なら誰でもいい。この中から選んで」
なんで私以外なんだ?
この中と言っても、陰陽師は伶さんか拓斗さんのどちらかになる。
美女はすっくと立ち上がり口元に笑みを浮かべた。
そして、大方の予想通り伶さんの元へと歩いた。
「この方の元へ行きます。私は雪女の氷見呼。どうぞヒミコとお呼びください」
うわ、この人真名暴露してない?
大丈夫なのかな?
伶さんを見ると、なんだか顔が引きつっているように見えなくもない。
ヒミコはにっこりと微笑んで伶さんの持つロザリオに吸い込まれた。
一気に式神が増えました。
なんて呑気に言っていて、良いのだろうか?
そもそも、撃退するはずだった妖魔が全て、式神として私達の仲間になってしまったのだから。
これって、依頼をクリアーしたことになるのかな?
気になって伶さんを見つめていたら、それに気づいた拓斗さんが私の側に来て教えてくれた。
「後処理が終われば依頼は完遂だ」
「後処理って何をするの?」
「原状回復だよ。まあ、見てて」
伶さんはロザリオを掲げると叫んだ。
「式神·ヒミコ」
ロザリオからは美女もとい、ヒミコが現れた。
こちらも伶さんの式神になって、雰囲気が随分と変わった。
冷酷な雰囲気のヒミコだったけれど、今は暖かさと柔らかさがプラスされ、とてもいい感じだ。
「ヒミコ、この倉庫の氷を全て回収しろ」
「はい、ご主人様」
そう言って、ヒミコは右手を前に突き出した。
その手はまるで掃除機のように、周りの冷気や氷を吸い込んでいく。
建物全体を覆っていた冷気は、凄まじいスピードで回収され、自然の状態に戻った。
冷凍庫の中のようだったのに、今ではまるで春のように暖かな陽気になった。
「ヒミコ、アメノウズメ、戻れ」
伶さんの言葉にヒミコとアメノウズメは一礼して、ロザリオに吸い込まれるようにして戻った。
「これで依頼は完了した。皆、お疲れ」
「「「お疲れ様でした!」」」
ああ、終わった。
なんだか凄かったよね。
「拓斗さん。依頼をこなすのって、いつもこんなに大変なの?」
「いや、こんなケースは稀だ。大体、四神クラスの妖魔や霊獣なんて、そういるもんじゃないだろ」
確かに。それもそうだよね。
ん、拓斗さんはニヤニヤしてこちらを見てるんだけど?
「あの、なんですか?」
「いやあ、お前もてもてだな」
もてるってハヤトくんのプロポーズのことをいってんの?
ひえぇぇ。
そういえばみんなに見られてたんだよね。
ああ、急に恥ずかしくなってきた!
うわ、そういえば伶さんにも見られてたってことよね。
いやぁー!
私が頭を抱えて赤面していると「お前って、やっぱり面白い奴」と、拓斗さんはゲラゲラ笑いながら出ていった。
ちょっと!人をからかって遊ばないで。
そして、悠也さんに伶さんまで、生温かい目で見ないでくれますか。
うう、穴があったら入りたいよ。
トホホと肩を落としていると、ハヤトくんは愛らしい笑顔でやって来た。
私の傍らにより、またも手をつなぎ「さあ、行こうか」と、強引に引っ張って行く。
「あ、あの、ハヤトくん?」
「ミツキらしくないよ。何があっても元気なのが取り柄でしょ!」
おおい!君が原因でしょう。
だけど、言われた通りだ。
私は元気が取り柄だったよね。
もう、済んだことでグジグジ考えるのはやめにしよう。
依頼も片付いた事だし、帰りますか。
そして私達は行きと同じ様に白いワゴンに乗って、事務所へと戻った。
事務所へ戻ると、再度拓斗さんによる新人教育が始まる。
私は指定された席についた。
式神の三人は、珍しいものでも見るように後ろから覗き込んでいる。
一緒に授業を受ける気なのかな?
拓斗さんにレジュメを渡された。陰陽師総論とある。
うわ、難しそう。
ペラっとページをめくり、文字を目で追っていくんだけど、なんだかまぶたが重くなってきたな。
「陰陽師の基礎の続きからだ。レジュメの3ページめくって。陰陽五行説の五行説についてからだったな···っておい、いきなり寝るな!」
あわわ、私ったら疲れて居眠りしてた?
慌てて顔をペシペシと叩き、眠気を飛ばそうと試みる。
後ろの式神たちは、笑いをこらえて必死になっているようだけど。
「ミツキ、やっぱり君は祭雅とは違うね。彼女は居眠りなんて意地でもしなかったから。でも、抜けてる君もいいよね」
「ちょっと、それ褒めてるの?けなしてるの?」
「あははは、そんなのどっちだっていいじゃん。君に余裕があるってことだよ」
もう、可愛い顔してズバズバ言うよね。
余裕って言ったってねえ。あまり嬉しくないんだけどな。
ああ、恥ずかし。
拓斗さんは大きなため息を吐いた。
「まあ、今日は出勤初日なのに大変だったからな。それなら、眠くならない話をしよう」
うんうん、それはなんでしょう?
いきなり目を輝かせた私に、拓斗さんは苦笑して言った。
「陰陽師日本一を決める大会があるんだ。それに参加できるように、エントリーしておいたから」
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